6月、東京・中野の「東映アニメーション」社員が入るオフィスを訪ねると、色とりどりのヒジャブで頭髪を隠した若い女性や男性らサウジ人アニメーターたちが部屋でリンゴやバナナなどの果物のデッサンにいそしんでいた。
サウジがコンテンツ産業育成を目指して、ムハンマド皇太子主導で設立したマンガプロダクションズ(本社・リヤド)が17年に東映アニメーションとアニメの共同制作に向けた契約を結び、サウジに伝わる民話を元にした約20分間のアニメを制作。アラビア語と日本語で、両国で放映された。6月末から2カ月間のインターンには、18~26歳のサウジ人アニメーターたち11人が参加し、原画や絵コンテの描き方などを訓練した。
リヤドでグラフィックデザイナーとして働くアブダッラー・ハーリドさん(25)は小学生の頃、日本の「デジモン」に夢中だった。4話でテレビ放送が終わったのが残念で、その後の物語を自分で作ったという。物語作りは誰にも教わったことがなく、今回募集を見て飛びつくように応募した。
「ほとんど独学なので、専門家に基礎技術から教えてほしい。アニメは子どもの見るものと考える人が多いけれど、どんな年齢の人にも楽しんでもらえるいいストーリーを作りたい」と意気込んだ。
アブドルカリーム・ダイさん(26)も日本の「デジモン」や「宝島」を見て育った。大学でサウジの絵画史を学び、卒業後、会社でグラフィックデザイナーとして働き、今はフリーランスだ。「日本の方が絵画史が豊かで資料もたくさんある。学べることがたくさんある」と目を輝かせていた。
東映アニメーションの清水慎治常務取締役は「アニメに関して、サウジはまだコンテンツのない国。エンタメ産業を作っていきたいというムハンマド皇太子の強い意向があり、少しでもお手伝いができれば」と話す。
■学校ツアーで部活を体験
石油大手アラムコの社員で、教育分野に関心が高いムスタファ・シャウラさん(39)は09年から毎夏、日本に若者たちを連れて行く教育ツアーを開催している。
今回で4回目。日本の魅力は時間を守り、勤勉さを美徳とするなどいろいろあるが「日本が、国の将来を担う子どもたちの教育に力を入れている」ところを特に重視した。今年は6月に東部州から9歳から20歳の11人と保護者、引率者が参加した。8日間の滞在で、日本の学校を訪問し、イスラム教徒が多い栃木県佐野市に滞在、農業体験をした。
新宿区にある私立目白研心中学・高校を訪ねた時は、高校3年生の生徒と英語でプレゼンテーションしあった。参加者のうちただ一人の女性だったザイナブさん(15)は学校で「サウジの女性」と題して、女性の運転が解禁になることなどを説明し「女性が雇っていた男性のドライバーが必要なくなります」と発表した。掃除やクラブ活動の様子も見学し、硬筆や弓道などの活動には実際に参加した。
12歳のフセインくんは部活がたくさんあることに驚いたようで「サウジの学校よりずっといい」。交流した高校3年生の山崎萌音さん(18)は「サウジといえば石油のことぐらいしか知らなかった。女性の格好も目だけ出しているのかと思っていたけれど、顔を出していておしゃれ。私たちと共通点がたくさんある」と話していた。
抑圧されたイメージの強かったサウジの若者たちの、好奇心が強くいきいきとした姿に、記者も驚いた。ザイナブさんに後で話を聞くと「運転の解禁はよいことだけど、他の国では前から可能だったことで、やっと同じになっただけ」と言い切り、「サウジ国内は女性の就業にいまだに制限がある。米国で学び、米国で働きたい」と話した。将来つきたい職業は、外科医だという。