都内の大学を卒業して早4年、私は現在地方のOLだ。学生時代は国際系を専攻していたこともあり、カナダ留学や訪日留学生との交流など、毎日が異文化交流であふれていた。町を歩けば訪日観光客を見かけない日はなく、何度も道を聞かれたり、海外出身の教授たちと当たり前に英語で会話をする日々だった。
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就職という大きな転換期を迎えた当時の私は、コロナが大流行していたこともありUターン就職を決めたが、久しぶりの地元での生活は学生時代とはかなり違うものだった。町を歩いていて海外の人とすれ違うことはほとんどないし、仕事でも日常でも英語を使う機会はまずない。学生時代に英語を使用することが当たり前すぎたからか、就職をする際に「英語を使う仕事」をあえて探さなかったことは事実だが、社会人になって急に世界との繋がりが遮断されたようでかなりショックを受けた。
なんとか現状を打破しようと、英会話教室やオンライン英会話などを受講してみたが、そもそも英語を使う機会がないのでモチベーションが上がらず、短期間で受講をやめてしまった。私は、世界と繋がっていることが当たり前だった学生時代を経験しているからこそ、この先の社会人人生に不安を抱くようになっていた。
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きっかけは、社会人2年目の秋。日本外交の第一線での活躍経験のある某の講演会が行われることを聞き、興味本位で講演会へ出向いてみたことだった。講演会など授業で催される以外に聴きに行ったことはなかったが、とにかく何か刺激を求めていたからか、私は高揚感を持って講演会に臨んだ。大きな会場で、直接質問することこそ叶わなかったが、講演会は多くの気づきを与えてくれた。
例えば、ニュースでよく見る某も「人間」であること、日本が今後目指すべき姿、そして一番印象的だった「世界を舞台に活躍しろ」という若者に向けた言葉であった。なぜその言葉が印象的であったかというと、某が決して誇張せずさらりと当たり前のように発した言葉だったからだ。
社会人になってからの私は世界と繋がることはハードルが高く、地方にいては成し得ないものと思い込んでいた。しかし某にとって当たり前に発せられたこの言葉は、世界との繋がりのハードルを勝手に上げていたのは自分自身であったと気づかせてくれたのだ。学生時代、当たり前に英語でコミュニケーションをとり、海外留学経験もある私は、日本に留まっている理由はないのではないか、世界を舞台に社会人をやれるのではないかと。
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それから私はまずは社内での海外勤務について調べた、海外に拠点を持っている当社は、少数だが毎年海外勤務の募集をしていた。その後私は、オンラインで開催される海外勤務者の座談会等にも積極的に参加するようになった。会社としてもコロナ禍が明けた今、海外勤務への道を大きく開いてくれていることに気づいたのだ。
近い将来、海外勤務へ手を挙げようと決心したが、調べていくうちに女性の海外勤務者は男性のおよそ10分の1程度であることも判明した。女性にとってライフステージ等を考えると、海外勤務はハードルが高いことも事実だ。けれど私は挑戦したい。ありきたりな言葉だが、1度きりの人生、悔いなくやり切りたい。
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かつて女性の社会進出がままならなかった頃、女性活躍の場を作ってきた先人たちを私は多く知っている。SDGsなどを謳っているが、社会はまだまだ女性に厳しい。女性が世界を舞台に当たり前に活躍できる時代へ、私自身もそんな世界への一端を担いたいと強く感じるようになった。デジタルが発達した現在、地方にいたって、女性だって、世界への舞台は開かれているのだと、未来の女性たちの先駆者になりたいと思う。
【筆者プロフィール】
ペンネーム:森山とまと
社会人4年目の趣味人。本を読んで、旅行をして、美味しいものを食べることが大好き。英語を再勉強中。新しい知識を吸収し続け、使いこなせる女性に憧れます。
実体験基づき、力強さと情熱が伝える文章
【講評】留学経験などを通じて「世界」を身近に感じることができた学生時代から一転、地方にUターン就職し、海外との接点がなくなった生活に筆者は当初ショックを受けますが、あきらめることなく世界とのつながりを求める様子に、勇気と元気をもらいました。一方、筆者はそれにとどまらず、海外勤務を希望することで別の課題にも気づいたことをつづっています。女性の海外勤務者は男性の10の1程度だという格差です。実体験に基づいた文章からは、たとえどこにいようとも、意志さえあれば世界とのつながりは持てるという力強さと、困難に直面しても挑戦し続ける情熱が伝わってきました。大賞にふさわしいエッセイだと思います。(GLOBE+編集長・関根和弘)