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女性の当選で終わりじゃない、議会も変えよう 世田谷で立ち上がった女性たち

World Now 更新日: 公開日:
議会でのハラスメントを規制する条例改正のための陳情をしている清藤史織さん(左)、久保田千秋さん(中)、河野七海さん(右)
議会でのハラスメントを規制する条例改正のための陳情をしている清藤史織さん(左)、久保田千秋さん(中)、河野七海さん(右)

自分たちが支援して当選した若手女性区議の初質問を見に行って目にした、区議会の驚きの光景とはーー。「当選させて終わりじゃない」。女性たちは立ち上がった。

女性が議会に加わったことで、まるで石つぶてを水面に投げ込んで、波紋が広がるように、改革への動きが始まった例がある。

驚いた男性議員たちの態度「ハラスメントだ」

今年の統一地方選で、30歳(当時)の女性が当選した。小野瑞季さん。小野さんは今時の若者らしく、SNSを駆使して支援を呼びかけ、同世代の女性たちが選挙応援に集まった。東京都内に住む大島碧生さん(22)もその一人。現在大学4年生だ。大島さんは統一地方選を前に立ち上がった、30代以下の女性議員を増やすことをめざす「FIFTYS PROJECT」に参加。同プロジェクトの支援する女性候補者たちの事務所を回り、応援した。小野さんもその中の一人だった。

小野さんは、50人の定員中、10位で当選した。

しかし、それでめでたしめでたしで終わり、ではない。区議としての活動こそが本番、というわけで大島さんは小野さんの区議会での初質問を傍聴しに出かけた。他の区議会も傍聴したことがあり、これが2回目の経験だった。しかし、前回と違って世田谷は撮影禁止だった。

小野さんの質問が始まると、おしゃべりを始めた男性議員たちがいた。「ヤジではないけれど、大きな声でおしゃべりして。前に座っている議員が、後ろを振り向いて話をしていて」(大島さん)

調べると自民党の男性議員たちだった。証拠として映像を残したかったが、撮影禁止のためにできなかった。「新人議員の初めての質問で、そういうことをするのはいじめに近いハラスメント、威圧的な行動だと思う」

大島さんが「note」にその時の経験や感想、おしゃべりした議員たちの名を書き込むと、それを読んだ久保田千秋さん(31)が立ち上がった。久保田さんは小野さんの選挙を応援した仲間の一人だ。世田谷区民でもある。

「そんなふうにされたら、自分の発言に価値がないと思ってしまう。当たり前だと思ってがまんしてしまうのでは。それはおかしい、と市民の立場から言わないと何も変わらない」

アンケートで実態判明 署名活動をスタート

久保田さんは仲間と連携し、まずは世田谷区議会議員全員に、「議員同士のハラスメントについて実際に経験ないし目撃したことがあるか」という匿名のアンケートを行った。50人の議員のうち、11人が回答した。

「議会質問を邪魔するような恫喝のヤジを飛ばす」(女性議員)、「女性だから個別に誘われる、女性だから会合に誘われないというのを実際に目にした」(男性議員)、「ベテラン議員に、すれ違うたびに『愛してるよ』と言われたり、お尻を触られたりした。20年以上前は『冗談』で済まされていたように思う」(女性議員)などの回答があった。

世田谷区には現在、「世田谷区議会議員による職員に対するハラスメントに関する条例」があり、議員から職員へのハラスメントの防止がうたわれている。

そこで大島さんたちは、この条例に議会において議員間で行われるハラスメント、及び有権者から議員や立候補者に対して行われるハラスメントの根絶及び防止を盛り込むことを市議会に陳情することにした。陳情と共に提出しようと、オンラインとリアルで署名も集め始めた。

10月と11月、週末を中心に世田谷区内の駅前を移動しながら2時間ほど署名を呼びかけた。3日に下北沢駅前で行った署名活動を見に行ってみると、久保田さんら3人の女性たちが立っていた。

久保田さんたちの呼びかけに応じて署名するカップル 2023年11月3日、下北沢駅前、秋山訓子撮影
久保田さんたちの呼びかけに応じて署名するカップル 2023年11月3日、下北沢駅前、秋山訓子撮影

マイクを使うわけでも、大きな声をあげるわけでもない。さりげなく呼びかけている感じだ。「条例を改正するための陳情を出そうと思っているんです」「世田谷区議会は女性の割合が40%なんですけど、それでもこういうことが起きているんですよ」

時折立ち止まる人たちがいる。ガールフレンドと共に署名を寄せた真庭伸悟さん(27)は、世田谷区内で働いているという。「(こういうハラスメントは)知らなかったけど、あるんだろうなと思う。ついつい流しがちなんですが……。国会だと遠すぎちゃうけど、世田谷区議会くらいだと身近で自分ごとって思える」

65歳の男性は「国会前のデモにも行ったことがあります。日本のシステムが壊れているでしょ。こういう署名とかとても関心があります」。と言って名前を書いていた。

無力感との戦い 絶望がデフォルトでも希望がある

結局この日は2時間呼びかけて20筆集まった。「いつもこれくらいのペースです」と久保田さんは言う。

果敢に立ち上がった久保田さんだが、しかし表情は時にさえない。「女性を当選させただけではダメなんだ、その後も応援し続けなければいけない……。みんな生活のため忙しく働くなかでこういうことまでやらないといけないって、もう疲れてる。私の生きてる間にジェンダー平等は実現しないんだろうっていう無力感との戦いも常にあります」。

この日の署名活動に参加した清藤史織さん(29)は「私も絶望してるんですけど、これがデフォルトっていうか。やらなくてすむならやりたくない。でも何か爪痕を残さないと、と思ってやっています」。河野七海さん(28)はちょっと違って、「この陳情がたとえ実を結ばなくてもやったことでつながりができるし、これができる私たちなんだって思えるのが嬉しい」。

署名は11月20日に陳情として世田谷区議会に提出予定。彼女たちが絶望しないでいられるようにするのも、政治の役割だ。

河野さん(左)と署名に応じる女性 2023年11月3日、下北沢駅前、秋山訓子撮影
河野さん(左)と署名に応じる女性 2023年11月3日、下北沢駅前、秋山訓子撮影