徳島からアメリカの名門スタンフォード大学への現役合格を果たした松本杏奈さん。帰国子女でもなくインターナショナルスクール出身でもなく、徳島からスタンフォード大学に合格した快挙は日本のさまざまなメディアで取り上げられました。一時は「東京オリンピック」よりソーシャルメディアのトレンドランキングが上だったことも。柳井正財団の5期生として全額給付型の奨学金を受けながら、現在、学部2年生に在籍しています。
スタンフォード大学には2021年の場合、12%に該当する888人が学部生として海外から入学しているのに、日本からは0~2人程度。現在、日本の高校から直接入学したのは学部の4学年を合わせても5人前後だそうです。自分は「絶滅危惧種状態」と感じている杏奈さん。だからこそ自分に課した使命への思いは非常に強いです。
ですが、後に続く人たちのためにも発信すべきものは発信していこうという気持ちに再びなれたのは最近のこと。杏奈さんは、2021年にスタンフォード大学に入学してから1年ほど日本のメディア露出やソーシャルメディアでの発信をしばらくお休みしていました。
ここ数カ月、対面でいろいろな人と会う機会があり、「アメリカで地に足をつけて日本のために必死に貢献している人もいるんだ」と思ったら、日本への気持ちを再び取り戻してきた、と言います。
「スタンフォード大学に来てから、生きやすくなった」と語る杏奈さん。そんな絶妙のタイミングの中、今、現在のスタンフォード大学の生活や思うところについてお話を伺いました。(敬称略)
工学部に女性が多い! 受講生仲間の6割は女子学生
大学で「生きやすくなった」と感じるのは、すべての立場に女性が多いから
順風満帆な人生、そして、青春を謳歌(おうか)し、キラキラのZ世代にみえる杏奈さんですが、去年は精神的につらい状況の時期が続きました。
スタンフォード大学のメンタルサポートがすごすぎる
スタンフォード大学で。いろいろやって課題とか勉強は大丈夫なんだろうか、と筆者は側からみて心配になりますが、さらりとこなしていて、生活が本当に楽しそう。去年はメンタル的に大変な時期が続きましたが、今は周囲のサポートもあって元気になりました=松本杏奈さん提供
元気になれたのは、女性のロールモデルをたくさん見たから
4歳のときに東京ドームにX JAPANのコンサートに行って以来、大ファンのYOSHIKIさんがスタンフォード大学で講演。筆者もその場にいましたが、杏奈さんの質問にYOSHIKIさんが真摯に応えていたのが印象的でした。彼女の夢が一つかなった瞬間でした=松本杏奈さん提供
起業も子育ても軽やか 教授に女性起業家たちを紹介されて…
最近になって日本への気持ちを再び取り戻してきた杏奈さん。
d.schoolのコンセプトを日本に伝えたい、と考えています。デザイン思考の方法論を通じて、創造的な問題解決能力を身につけることに焦点を当てたd.schoolについて聞いてみました。
起業の授業の一環で、テスラの本社工場へフィールドトリップ。生徒全員が同社とNDA(秘密保持契約)を結んでの見学でした。テスラの共同創業者による授業もあったそう=松本杏奈さん提供
高校生の頃にこんな授業があったら!と思わずにいられない
サンフランシスコ・シリコンバレーは物価が高く、共働きでないと生活できないところがあります。ですから私の周囲のママも働いている人がほとんど。杏奈さんが「キャリアに負担になるのなら、子供は諦めていた」と言ったときは、まだ社会に出たこともない、つい数日前まで10代だった彼女の目には、女性の社会進出が増えてきたとは言え日本の社会がそのように映っていたんだ、と若干の驚きがありました。
しばらく日本から気持ちが離れていた時期もありましたが、18歳まで徳島で育ち、「日本のいいところや価値観はアメリカの人にも知って欲しい」という気持ちが戻ってきた、杏奈さん。
私とも世代を超えて盛り上がる話題は、日本とアメリカをつなぎたいという共通のミッション、希望、ジェンダーへの危機感などで、話題に事欠くことがありません。周囲への感謝の気持ちゆえに、自分にしかできないであろうこと、後輩たちに伝えたいこと、自分に課した使命の認識と志が非常に高い女性です。
そうはいっても、大学生活、しっかりエンジョイしています。全額給付の奨学金も受けとった柳井正財団からも「勉強だけしていてはいけない、遊ぶことも忘れるな」とのお達しを受けたからです。はい、しっかり一生懸命遊ぶことも忘れてないみたいです。
松本杏奈さん(中央)と筆者(右)。左は共通の友人であるスタンフォード大の客員研究員、西林加織さん=筆者提供