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グーグル率いる「スーパーインド人」ピチャイ氏はどんな人? 周囲が語るその素顔

World Now
グーグルCEOのスンダル・ピチャイ氏=尾形聡彦撮影

■「スーパーインド人」の象徴

「みなさんこんばんは、そしておはようございます」。青いシャツ姿に静かな笑みをたたえて画面上に現れると、米グーグルのCEOスンダル・ピチャイ氏は、参加者との時差に気配りを見せた。今年5月下旬、記者(尾形)が参加した世界6メディアとのオンライン共同インタビューでのことだ。

「未来の技術の見通し」を聞くと、目を輝かせた。「とてもエキサイティングな質問です。例えばグーグルマップに拡張現実(AR)を組み込めば、東京の街を歩いているときに、そばのレストランを見て、『中で提供されているメニューは何だろう』と質問したりすることもできるでしょう」

東京に言及しながら、技術の可能性を縦横無尽に語っていく。女性記者の質問の順番の際に、別の記者が割り込もうとすると、「彼女が先であなたは次です」と即座に割って入った。

グーグル社員から聞いていた「本人に会うと、思いやりや気遣いを感じる」という前評判は、確かにその通りだった。

新OS「アンドロイドM」を発表した、当時グーグル上級副社長のスンダル・ピチャイ氏=2015年5月、米サンフランシスコ、宮地ゆう撮影

2004年にグーグルに入社したピチャイ氏は、閲覧ソフト「クローム」を世界首位のブラウザーに押し上げ、43歳でCEOの座に上りつめた。ツイッター社が引き抜こうとし、マイクロソフトのトップに就くとの観測も飛び交った。

巨大組織を率いて脚光を浴びるインド出身の優れたリーダー、いわば「スーパーインド人」の象徴がピチャイ氏だ。

■質素な家庭と技術への信奉

南インドのチェンナイに、青い外壁の古びた民家がある。インドの人が葉にカレーをのせるバナナの木が庭に見える。ピチャイ氏が育った家だ。

グーグルCEOのスンダル・ピチャイ氏が育った家=チェンナイ、奈良部健撮影

近所の人は「ごくありふれた家族だよ」と口をそろえる。生活は質素だった。

自分の部屋はなく、弟と居間の床で寝た。病院までバスで行き、母親の血圧検査の結果を聞くために2時間半かけていた。ある日、家に届いた電話で聞けるようになった。

「こうした経験は、私をテクノロジーに対する楽観主義者にした」。ピチャイ氏は後にこう語っている。

勉強はできた。超難関で知られるインド工科大学(IIT)を卒業後、米スタンフォード大大学院に留学、別の大学でMBA(経営学修士)を取得した。米国行きのフライト代は技術者だった父の年収と同等だった。

コンピューターでインターネットに初めて触れたのは、米国に留学してから。技術は途上国の人々の暮らしを豊かにすると確信した。

■リスクを恐れない姿勢

IITで教えたインドラニル・マンナ氏(60)は、「ピチャイは卒論のテーマでも、誰もやっていない新しいものを自ら選んでいた。若造だった私を指導教官に選んだのも、リスクを恐れない姿勢があったのでしょう」と振り返る。卒論は半導体の熱処理に関する内容だったという。

入学後も厳しい競争が続くIITでの生活。ピチャイ氏は友人との議論を楽しみ、そこから自分の独自性を見つけていったようだ。

マンナ氏がよく覚えているのは、彼のノートや答案の文字が他の学生よりもはるかに大きかったことだ。「文字から心理を分析できるかはわからないが、彼は自分への自信にあふれていた」

インドラニル・マンナ氏。IITで、後にグーグルCEOになったピチャイ氏の指導教官だった=奈良部健撮影

ピチャイ氏がIITで学んだのは、コンピューターサイエンスではなかった。マンナ氏はこう言う。

「学問の知識はさほど重要ではない。大切なのは、問題を自分なりにどうとらえ、それをいかに解決に導くかのプロセスです。専攻する学問は何でもいい。論理的に考え、多様な解決策を示す力が常に問われるのです」

そして、こうも語った。

「ピチャイも私も科学者です。科学には宗教と違って、『信じない自由』があります。既存の理論に異論を唱えられる。たとえ世界中があなたの考えは誤りだと言っても、正しい証拠を示して自説を証明できれば、世界は自分に従う。たとえできなくても、問いを発しさえすれば、後の世代が続いて取り組んでくれる。そんな挑戦的な姿勢こそ、科学なのです。ピチャイはこの基本を生き方にも貫いたのだと思います」

■メモ魔と時間への厳しさ

東京のスタートアップ支援拠点のオープニングイベントに登場したグーグルのピチャイCEO=2019年11月、村井七緒子撮影

「家の前でよくクリケットで遊んだ。目立たないやつだったよ」。実家の近所に住むランガラジャン氏(50)は、ピチャイの物静かな姿を覚えている。

グーグル社内でも、「意見の一致を見いだすナイスガイ」「会議で話を聞き、全員のアイデアが出尽くしてから最後に自分の意見を言う」との人物評がある。

友人のカンナン・ナラヤナン氏(53)が思い出すのは、ピチャイがメモ帳を常に持ち歩き、気になったことを書き留めていた姿だ。時間にも厳しかったという。

旅行会社の仕事で客がつかなかった時、ピチャイ氏はこう助言した。「役人や得意先には電話ではなく直接会うことだ。忘れてはいけないのは時間の大切さ。ポイントを数点、メモ帳に整理しておき、短く済ませることだ」

それ以来、ナラヤナン氏はメモ帳を常に持ち歩く。「誠実で謙虚だったからこそ良き学習者であり続けた。それが成功の秘密だと思う」

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