1. HOME
  2. 特集
  3. カオスが生む才能 インド
  4. インド駐在員の口ぐせ「OKY」 インドをマーケットとしか見ない日本企業は失敗する

インド駐在員の口ぐせ「OKY」 インドをマーケットとしか見ない日本企業は失敗する

World Now
インド工科大(IIT)の学生たち=インド・ムンバイ、宮地ゆう撮影

■インドの人の強み

――インド出身のCEOがグローバル企業で目立ちます。なぜでしょうか。

一つは、優秀な技術者にとって魅力的な仕事がインドには少なかったことが言えるでしょう。インド工科大(IIT)出身の技術者などは米国を目指す人が多く、それまでバスと電車にしか乗ったことがないような学生が、初めて飛行機に乗って米国に打って出ていく。彼らはとてもハングリーです。

日本人は米国に留学しても、日本に帰ってからでも活躍する機会があるので、そこにしがみつく必要はありませんでしたが、インド人にとっては米国で成功しなければならなかった。インドに戻っても、キャリアがいかせるような仕事がインドにはなかったからです。インドから米国を目指す人も桁違いに多かった。

そもそも日本は整然としたすばらしい社会ですから、出て行きたくなくなってしまう。一方、インドの多様性の中で生き延びる力を身につけた人にとって、米国で暮らすのはインドよりも格段に楽で、快適なのでしょう。しかも米国には多くのインド人がすでにいますから、先輩たちのネットワークによる助け合いが安心感を与えています。

――インドの人たちのどういった能力が評価されるのでしょう。

多様性社会の中で培った、臨機応変にやり抜く力が一つでしょう。地頭がいい。それからディベート力、スピーチ力。常に自分の意見を持ち、臆さずに語る姿勢は米国で受け入れられます。英語力もありますし、誰とでも対等に堂々と話ができる。忍耐強く、ジュガールと呼ばれる機転を利かせたその場をしのぐ力を発揮します。実際にインドの人たちは大きな成果をあげています。

武鑓行雄さん

――グーグルCEOのピチャイ氏はチェンナイ、マイクロソフトCEOのナデラ氏はハイデラバードと、ともにインドの南部出身です。

私の印象ですが、南インド出身のインド人はソフトな感じで、人間関係を築くことがとてもうまい。テクノロジーへの信奉も厚く、企業組織内で成功していくサラリーマン社長が多い気がしています。一方、北インドではラジャスタン州のマルワリ地方出身の商人コミュニティーの「マルワリ」やグジャラート州の「グジャラティ」など、より積極的でスタートアップや起業家に多い人たちという印象があります。

■インドのシリコンバレー

――インドのシリコンバレーといわれるバンガロールで働かれていました。

インドのIT業界はもともと米国企業のシステム開発の下流工程を低価格で手がける「オフショア拠点」として発達しました。近年は急速に力をつけ、世界を相手に約20兆円のビジネスを展開するまでに成長しています。

米国の巨大IT企業も、バンガロールやハイデラバードに米国以外では最大の開発拠点を置いています。重要な技術や製品の開発はインドで行うようになり、米国のグローバル企業はインドとの連携なくしては成り立たなくなっています。

AIやIoT、ブロックチェーンなどの最新技術開発は、先進国での人材の確保が難しく、インドで優秀な人材を採用、育成して開発する動きも出ています。

――インドを目指す企業が増えてきているということですね。

インドは先進国と違い、インフラの整備が遅れ、格差も大きい社会です。そうした過酷な状況下で、テクノロジーを活用して社会問題を解決しようとする動きが出てきているのです。インドで山積する問題を解決していくための改善を続ければ、イノベーションを生み出せる可能性が高い。地道なカイゼンは日本の得意技です。日本企業も本気でインドに挑み、もがくべきでしょう。

■日本企業の挑戦は

ティーブレークに集まったメルカリの社員たち。インド、日本、英国と多国籍だ=東京都港区

――日本企業の取り組みをどうみていますか。

多くの日本企業はインドで、苦戦を強いられています。日本企業はインドを市場としてとらえ、あくまで自国で開発、商品化した製品を売る場所だと考える節がありました。日本企業はシリコンバレーに拠点を立ち上げる動きがありますが、そのシリコンバレー企業や米国の主要企業はインドに拠点を立ち上げ、規模を拡大しているのです。

そのことがあまり日本では理解されていないように感じます。日本企業の幹部にとって、世界と言えば、長らく米国や欧州でした。インドやその最新動向を知る人がほとんどいません。インドのIT技術の先進性や産業としてのスケール、インド社会で進んでいるデジタル化の実態など、インドの変化のすごさは理解されていないのです。シリコンバレーは進んでいると思っても、インドはその下請けに過ぎないとまだ考え続けているのです。

日本企業は交渉をしても「持ち帰って相談します」と言い、コンセンサスを重視する傾向がありますが、インドの企業はトップダウン。日系企業の進出は増えていますが、幹部がまだまだインドの事情を知らないため、赴任した営業社員などの間で「OKY(おまえ、ここに来て、やってみろ)」と言われているそうです。

日本のものづくりはいまも圧倒的な強みを持っています。ただ、必要なIT人材の不足が課題になっている。日本は社会インフラが進んでいるため、特殊で日本向けの商品やサービスでは世界展開は難しくなっています。インドの問題を解決するために開発された製品が先進国に逆流する技術革新「リバース・イノベーション」が起きうる。そんな製品が新興国を助けるかもしれない。

いまこそ日本とインドの連携を深め、インドシフトを進めるべきです。