4年に1度の春の統一地方選が近づいてきた。政党や団体が、女性やフリーランス、若い世代から、議員のなり手を積極的に募ったり、支援したりする動きが本格化している。
一方、地方議員のなり手不足も顕在化。その一因として指摘されるのが、政治家の働き方だ。
「家事育児も政治活動もきちんと両立、が前提のふるまいを求められた」と話すのは、佐藤古都さん。東京都議選に過去2回立候補し、この春の東京都北区議選にも立候補を表明している。現在、2人目の子がお腹にいる。妊娠8カ月。選挙期間が出産予定時期と重なる。
佐藤さんの話を入り口に、政治家の多様化、それを阻むステレオタイプについて考えた。(錦光山雅子)
政治家のステレオタイプが溶けた経験
佐藤さんが政治家を志したのは2018年、政治塾に参加したのがきっかけだ。ここで政策の作り方などを学ぶうちに身の回りの課題から政策が生まれる地方政治のインパクトに惹かれたという。もう一つ、決め手になったのが参加者の顔ぶれだった。
政治塾に参加していた間、佐藤さんはもう一つ、気づいたことがある。
「両立キラキラ」モデルの沼
佐藤さんは大学卒業後、東京の外資系広告代理店でプランナーの仕事に就き、遅くまで仕事に打ち込んだ。その生活も2016年、出産で変わる。保育園に預け、出産前と同じように働くつもりで復職したがーー。
無理は続かない。任される仕事も責任の軽いものばかり。居場所はない、と気持ちを切り替え、2018年に障害者専門の人材紹介・就労支援の企業の広報に転職。ほどなく、中央省庁が障害者の雇用人数を水増し報告していたことが明らかになる。
この経験から、政治家につながる機会を求めて同年、政治塾に参加。翌2019年から政治活動を本格化させていく。
「朝ご飯作ってきた?」。街宣でジャッジされる「きちんと両立」
佐藤さんは2020年と2021年、東京都議会議員選挙(補選含む、北区)に立候補。この時街頭で厳しい言葉を投げかけられた。
「街頭演説の最中に子どもがいるなら家に帰って子育てをまずきちんとやれ、というヤジを受けたことが、一度ならず複数回ありました。そこまでいかなくても、支援者の方から子供や家のことは大丈夫?とお声がけいただくこともあって、男性候補者もこういうことを言われるんだろうかと疑問に思うことが本当に多くありました」女性の政治家なぜ少ない? 「見えないものにはなれない」を突破する「手本」を考えた(GLOBE+)
ここまであからさまでなくても、メディアの取材も含め、家事育児との両立を何度も聞かれたという。
「取材を受けるときも家事育児との両立はどうしているんですかという質問をたくさんいただいて、両立しなければいけないということが前提になっていることも、一つ大きな壁だと思いました」女性の政治家なぜ少ない? 「見えないものにはなれない」を突破する「手本」を考えた(GLOBE+)
「週末の祭りのハシゴ」を求めるのは誰
日本の有権者が抱く政治家のステレオタイプと、支持・不支持の関係を調べた尾野嘉邦・早稲田大学教授らの研究によると、こういう傾向が見えたという。
「女性候補者は女性であることを強調すると有権者の支持を減少させてしまう反面、女性という性別に基づくステレオタイプから逸脱してもネガティブに働くという、ダブルバインドの状況(中略)選挙戦術を練るうえで厳しい立場にある」「有権者の理由、候補者の事情をデータで見る なぜ日本は女性議員が少ないのか」(中央公論2022年5月号)
尾野教授は、関連の研究を紹介する別の記事で、こうも指摘していた。
「もし、ジェンダー・ステレオタイプが有権者の意思決定に何らかの影響を与えているとすれば、候補者や政治家は、選挙での支持を最大化するために、ターゲットとなる有権者のステレオタイプに沿って行動していることが考えられる」「男女の政治家に対するステレオタイプ」(独立行政法人経済産業研究所)
「有権者のステレオタイプに沿った行動」とは何だろう。政治取材経験の長い新聞記者に聞くと、身近な例として週末の地元活動を挙げた。「SNSを見てごらん。祭りをハシゴする姿がいっぱい流れてるから」。Twitterを見ると、地域の「餅つき12ヵ所」を回った投稿など、地域活動の様子が沢山投稿されていた。
朝夕の出勤時に駅前で演説する「駅立ち」などもそうだろう。佐藤さんは選挙活動で従来から続いてきた方法をこう話す。
佐藤さんの選挙経験と記者の話から、政治家の2つの「両立モデル」が見えてきた。女性政治家に求められるワンオペ型「育児家事・仕事の両立モデル」と、政治家のマジョリティーの男性の間で受け継がれてきた長時間労働型「議会・地元の両立モデル」。
制度と意識の変容が生む、多様な「両立」の風景
佐藤さんの広告プランナー時代の話が印象的だった。働く女性の「両立」の描き方をめぐり、意見が分かれたことがあるという。
地方議会のなり手不足などを背景に、議員の多様化に向けた制度の整備が進んでいる。この2年ほどで出産、育児、介護に伴う欠席規定の制定が広がり、近く、地方議員の兼業規制も緩和される。
今年1月、佐藤さんは北区議選への立候補を表明した。現在、妊娠9カ月。投開票の4月23日の翌日が出産予定日だ。
佐藤さんも、妊娠と選挙が重なったことで、議員の多様化の新たな視点を得たという。