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政治の場にもっと女性を 米国で増える女性議員、民間サポートが後押し

Behind the News ニュースの深層 更新日: 公開日:
コロラド州選出の女性下院議員、ダイアナ・デゲット=秋山訓子撮影

女性が政治の場に進出するには、仕事と生活の両立など多くの壁がある。そこで、多くの国で政策や政党の方針として女性を増やす方策がとられている。

たとえば、女性に一定割合で候補者や議席を割り当てる「クオータ制」だ。イギリス、韓国、フランスなどが採用している。衆議院で1割、参議院で2割程度と女性が少数派の日本でも、2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が定められた。ただ、女性を政治の場に増やすことが理念としてうたわれてはいるが、特に強制力を持つものではない。

米国にも女性の数を増やすための制度はないが、17年にトランプが大統領になって、女性の立候補予定者数も当選者数も急増している。18年の中間選挙後には、上院議員も下院議員も女性の数が史上最多を更新した。初当選組には、ニューヨーク州選出で史上最年少の下院議員として注目される30歳のアレクサンドリア・オカシオコルテスなどがいる。

コロラド州選出の民主党女性下院議員、ダイアナ・デゲットは当選12回のベテランだ。子供が2人いるが、初めて下院に立候補したときは、6歳と2歳だった。「こんなに小さい子供がいるのにどうするの?」と周囲からさんざん聞かれたという。「もし私が男性だったら、そういうことは聞かれなかったでしょうね」

立候補には夫の協力が欠かせなかったと話す。「実際、立候補の背中を押してくれたのは夫だった。私が下院議員になったら、生活がどうなるかわかる?と夫に聞くと、『もちろん』と言って、彼は実行してくれた」

政治家は夜の会合も多いが、7時まではベビーシッターを頼み、主に夫が早く帰宅していたという。仕事と生活の両立だけではない。選挙や政治には多くのお金がかかるが、「実感として、男性のほうが資金を集めやすいと思う」。

日本ではどうだろう。朝日新聞が15年に全女性衆院議員を対象に調査した時は「女性の立候補を阻むものは何か」という問い(選択式・複数回答可)に対し、約半数が「育児や介護との両立」を挙げ、次いで「家族・親族の反対」「金銭的な問題」「男性中心の地域社会」だった。女性の政治進出を阻む壁は国が違っても同じようだ。

■権力より「やりたいこと」

スザンヌ・ボナミチはオレゴン州選出の民主党下院議員で現在5期目だ。下院に進出する前の州議会議員時代には、「女性というだけで有権者や政治家から話を聞いてもらえないということもあった」という。女性が政治に関わることのメリットを、「もちろん例外もあるけれど、男性のほうが政治家としての肩書や立場、権力を求める人が多く、女性のほうが、より『政策としてやりたいこと』へのこだわりが強いように思える」と話す。同時に、「私を女性だからというだけで選んでほしくない。政策で判断して投票してほしい」と強調した。

オレゴン州選出の米下院議員、スザンヌ・ボナミチ

米国の特徴は、政治家になりたい人や女性議員を支援する民間の活動が非常に盛んなことだ。その代表格が1985年に設立されたNPO「エミリーズリスト」だ。

寄付を募って、政治家に立候補したい女性に配り、選挙活動の仕方なども教える。これまでに女性の上院議員26人、下院議員150人、知事16人、州議会議員など地域の政治家約1100人が当選するのを支援してきた。

エミリーズリストによれば、トランプ政権になってから女性の政治への関心は飛躍的に高まっているという。たとえば2016年の上下院の選挙に向けて立候補を考えている女性からの問いあわせは920件だったのが、18年の中間選挙の際は4万6000件だった。また、立候補する女性を応援しようという動きも強く、18年の中間選挙の際は実に1億1000万ドル(約120億円)の寄付が集まった。

エミリーズリストが今年10月、オハイオ州クリーブランドで開いた政治家になりたい女性向けのトレーニングセッションをのぞいてみた。昨年の中間選挙で落選して次回も立候補を決めている人から、漠然と将来的に政治に関わりたいと考えている人まで、20人弱が参加していた。

まず基礎的な知識、たとえば立候補を考えている地域の徹底的な調査やコストの見積もりが必要なことなどの講義があった。続いて、どうやって「自分」という人間を有権者に売り込むかの実践トレーニング。政治に飛び込みたいと思った個人的な動機を地域や国、世界の状況と関連させ、3分以内にまとめる練習をする。

■ティーンがリーダーシップを

大人ばかりではない。女子中高生を対象に、声をあげることや、リーダーシップを教えるプログラムも多くある。前出のデゲットもボナミチも口をそろえて「ティーンの女性がリーダーシップを身につけ、自信をつけることが必要で、ひいては女性が政治に関心を持ち、進出することになる」と強調していたが、それに沿うものだ。

たとえば、オレゴン州のポートランド州立大学では、14年から女子高生向けのリーダーシッププログラムを行っている。毎年100人が参加し、イベントの企画、実現などを通じてスキルやマインドを養う。プログラム後には、「男子の中でも気後れしないで、勇気を持って発言したり、行動したりすることができるようになった」「クラスや生徒会の役員になった」といった声も多く寄せられているという。

放っておいたら女性が政治の場に増えるには時間がかかる。日本でも、制度や民間活動などでの支援がさらに必要のように思える。