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「脱・ジェンダー格差121位」のために私たち一人一人ができること

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オンライン配信されたシンポジウム。男女格差の現状と改善策についてパネリストらが意見を交わした=東京都港区、笠原真撮影

【前の記事を読む】完璧じゃなくていい、時には休息を NYタイムズから日本の女性たちへ

石川優実さん(以下敬称略):俳優でアクティビストをしています。高校を出てすぐにグラビアの仕事を始めたきっかけが、「芸能の仕事をしたいなら水着の仕事をしないとできないよ」と言われたこと。芸能界で経験した性暴力を2017年、「#MeToo」の記事として書きました。それ以降、ジェンダー平等をめざして活動しています。19年には、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務づけることは性差別だとして「#KuToo」の運動を始めました。3万2千の署名が集まり、厚生労働省に提出。JAL(日本航空)とANA(全日空)、携帯3社はヒールの義務づけを撤廃しました。

国会でも取り上げられ、20年にできたパワハラ防止法のパンフレットには「足をけがした人にヒールのある靴を強制するような言動は職場におけるパワーハラスメントに該当しうる」と入れてもらいました。「声を上げることは社会を変えることにつながる」という実感を持っています。しかし、声を上げるたびに誹謗・中傷にあったり、退職に追いこまれたりすることがある。みんなで何とか変えていかないといけないと思っています。

堀江敦子さん(以下敬称略):人材育成会社「スリール」の代表です。企業向けにダイバーシティーや女性活躍の研修・コンサルティング、大学生向けにライフキャリアの教育事業をしています。子育てや介護といった当たり前のライフステージを進んでいく中で、自分らしく働き、生きていくのが難しいというのはおかしいと思い、「自分らしいワーク&ライフの実現」をミッションに掲げました。

私たちが注目されているのが、仕事と子育ての両立体験プログラム。大学生向けの「ワーク&ライフ・インターン」、管理職の方にも「育ボスブートキャンプ」などの体験をしていただいています。ジェンダーギャップ解消のため、企業向けに女性管理職のパイプラインの構築支援もしています。

育児中に評価が下がったり、バイアスがあったり、経験や評価を男女で区別したりする場合があり、以前の慣習で作られた人事システムと意識の両方を改革していきます。性別・年齢に関係なくキャリアアップできる仕組み作りをしていきたいと考えています。

リッチ・素子さん(以下敬称略):森元首相の東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長辞任は、日本に変化が訪れるかもしれないという希望をもたらす出来事ではなかったかと思います。16年に日本に来てからジェンダーや性平等について多くの記事を書いてきました。日本が米国と大きく異なるのは、男女格差が非常に大きいこと。コロナ禍でさらに先鋭化した部分があると思います。

家事、育児の負担が女性に偏っている点で、世界でも最悪の状況です。また、東大入学者のうち女性は5人に1人しかいません。こういう状況は米国でも韓国でも中国でもありません。教育の場で男女格差がこれだけあると知り、本当にショックでした。

世の中の半分は男性です。男性が関わらないと問題の解決にはなりません。女性のメンタルヘルスについてもっと注意を払い、思いを寄せるべきだと思います。名もない人の声を拾い上げて報道し、世界に伝えていくのも私たちの使命だと考えています。

室伏きみ子さん(以下敬称略):お茶の水女子大学の付属中学校に入学してから、ほとんどの時間を同じキャンパス内で過ごしてきました。ジェンダーフリーな教育を受け、両親も差別など感じさせない環境で育ててくれたので、自然にジェンダー平等の意識が身についたと思っています。

女性の社会進出が進んでいるように見えても、実際には非正規雇用が非常に多いことに注意しないといけません。女性がリーダーシップを発揮するには、意思決定ができる立場に女性が複数いることが極めて重要です。そうした女性の育成には家庭、学校、職場における教育が非常に重要で、無意識に植え付けられた男女の役割に関する偏見、アンコンシャス・バイアスから解放され、自らの価値を認識し、社会に貢献する精神を育むことが真の男女共同参画社会の実現につながります。

昨年末に第5次男女共同参画基本計画が策定され、2030年代には指導的地位にある人々の性別に偏りがない社会になることを目指し、2020年代の可能な限り早くに、指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう取り組みを進めるとしています。多くの方に基本計画を知ってもらい、活躍してほしいと思います。

■「個人の問題じゃない、社会の問題だ」ととらえる

望月洋嗣・朝日新聞国際報道部部長代理:森元首相のような性差別の発言がどうして続くのか。変えていくために何が必要か。まずはリッチさんに、この発言をどういう意識で書いたのかを伺いたいと思います。

リッチ:よくこのようなことを口に出したなと、まず驚きました。オリンピック憲章は、男女の平等や包摂性、差別のない社会をうたっているからです。

最初は簡単な記事でしたが、その後「#MoriResign(森やめろ)」というものが出て、日本の方々が森元首相の発言に注目し、非常に怒っていることがわかったわけです。最初の短い記事から、日本のメディアが注目して書き、それから海外のメディアも書いたということで、雪だるま式に話が大きくなっていきました。

ニューヨーク・タイムズ東京支局長のリッチ・素子さんはオンラインで参加し、日本の男女格差をめぐる課題などについて指摘した=東京都港区、太田航撮影

望月:リッチさんが書いたことで辞任に至り、後任の会長は女性になりました。女性理事を増やす機運も生まれました。声をあげることの大切さと、その後どうしていくかについて、石川さんからお願いします。

石川:まず声をあげる、そして問題点をみんなでシェアすることで、個人の問題ではなく社会の問題かもしれないという、スタート地点に立てるわけですよね。きっかけは愚痴だったり文句だったりすると思います。「#KuToo」も「足が痛い」「ケガして嫌だ」という簡単なものでした。日本は文句を言っちゃいけない空気がすごくあると思います。こうやって声をあげていくことで、社会の問題なんだと気づけたことが、すごく大きな一歩だったと思います。

私は「#MeToo」や「#KuToo」で「声をあげる、すごいですね」と言われ、「これって声をあげるアクションなんだ」と初めて知りました。社会に見せることがすごく大事だと思っています。

俳優の石川優実さん=東京都港区、太田航撮影

望月:石川さんは声をあげ、批判する人とも闘っているイメージがあります。声を上げたときに何が起きるのでしょうか。

石川:バッシングが多かったんですが、誹謗・中傷する人たちはそれが目的になっているので、本人に届くようにわざわざ言ってきたり、アカウントをたくさん作って同じことを繰り返して言ったりすることが多いんです。でも賛同している人たちは、わざわざ本人に「応援しています」と伝えなかったりするんですよね。結果、バッシングの方が本人に届いてしまい、応援されていないのかもしれないという状態になってしまう。

なので、自分は声をあげられないけれども活動に賛同している方がいれば、応援をしっかり目に見える形にしてほしい。ツイートでこの人を応援していると言うとか。それによって、怖がらずに発信できるようになるんじゃないかと考えます。

望月:声をあげる勇気はなくても、声をあげた人を応援することは今すぐできますよね。視聴者から、ジェンダー格差を正しく理解するために必要なことや、若い世代が具体的に取り組めることについて質問もいただいています。堀江さん、男女の役割やジェンダー意識の固定観念を変えることについて、もう少し具体的に教えていただけますか。

■体験することで生まれる「自分ごと化」

堀江:企業の中で固定観念をなくしていくためには、3点あると思います。体験をして自分ごと化すること、危機感をしっかり持つこと、仕組みをしっかり変えていってしまおうということです。

「育ボスブートキャンプ」という形でマネジャーが体験すると、時間の制約があるなかでも活躍するにはどうしていけばいいか、と意識改革をしていくんです。こういう意識を持った人が30%以上になると会社自体が変わっていくことになるかなと思うんです。

スリール代表取締役の堀江敦子さん=東京都港区、太田航撮影

そういった意味では、男性育休を今後義務化していくことはすごいチャンスなんです。体験もしながら、働き方や生き方に対しての考え方を変えていく。

危機感については、会社の人口構成比を考えたり、どこで女性がやめるのかを見たりすると、実は若手男性がたくさんやめていることが分かります。働き方、キャリア観に関しては、もう若手は新しくなっているんです。仕組みを変えてしまうと言っているのは、意識を変えてもなかなか難しいからです。30%女性が入るとか、制度を成果報酬にしていくとかすると、少しずつ変わっていくんですよね。意識を変えてから仕組みを変えるというより、まず仕組みを変え、意識を醸成していくことも、すごく重要かなと思っています。

望月:朝日新聞もジェンダー平等宣言で数値目標を掲げて取り組んでいますが、それをいかにやっていくかにもっと力点を置くべきなんだろうと思いました。固定観念を変えていくというところで、室伏先生、教育の大切さについてもう少しお話しいただけますか。

■「無意識の偏見」をなくす教育

室伏:お茶の水女子大学の教員たちによる、とても興味深い取り組みがあります。「しょう太くんとあやちゃん」という、小さな頃からすり込まれやすいアンコンシャス・バイアスをなくすための冊子です。今のところ5つお話があり、小学校の道徳の時間に教員たちが行き、対話を通した活動しています。

お茶の水女子大学学長の室伏きみ子さん=東京都港区、太田航撮影

教育というのは非常に長い時間のかかることなんです。お二人のお話は、そんなに待っていられないということだったと思いますが、両輪として、短期的に解決していく方法を考えるのと一緒に、長い教育の過程でアンコンシャス・バイアスをなくしていくと。

これは男女両方の問題です。今とてもよいチャンスだと思います。特に若い方々には頑張っていただきたい。

望月:最後に状況を変えていくために今日からすべきことを教えていただけますか。

リッチ:石川さんに賛同します。一人だけでは、苦情や文句を言っているだけに過ぎないかもしれません。しかし、多くの方たちの声を集めることによって変化を起こすことができるんです。声を上げることをぜひ恐れないでやっていただきたい。

石川:まずは自分をいたわることがすごく大事だと思っています。自分のことを大切にしていると、自分の持っている感覚も大事にすることになり、これはおかしいから言おうということになっていく。その結果、社会のためになっていくんじゃないかと思います。

堀江:男性も子どもの誕生や親の死に目に会えないような働き方は嫌で、自分らしく生きていきたいと考えると思うんですよね。プライベートで何かがあっても、キャリアアップするような環境を作ることは、男性を解放することにもつながってくるんです。

室伏:みなさんのおっしゃること、本当にその通りなんですね。第5次男女共同参画基本計画は本当に素晴らしいものができたと思いますので、ぜひあれを読んで、やりたいことを考えていただければと思っています。

男女格差の現状と改善策について意見を交わすパネリストら。左から室伏きみ子さん、堀江敦子さん、石川優実さん=東京都港区、笠原真撮影

望月:今日は5人の登壇者のうち1人だけ男性で、男性ももっと参加しないといけないんだと改めて思いました。フランチェスカさんが言っていましたが、会議のテーブルに男女半々でいることが必要で、人種や障害など、人間の多様性は非常に無限大にあるので、なるべく多くがテーブルにつくと。そういう人たちの言葉が大事だと勉強になりました。