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完璧じゃなくていい、時には休息を NYタイムズから日本の女性たちへ

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ジェシカ・ベネットさん(前ニューヨーク・タイムズ ジェンダー・エディター、写真左)とフランチェスカ・ドナーさん(ニューヨーク・タイムズ ジェンダー・ディレクター)

NYTは2017年10月、報道に関わる男女格差解消の取り組み「ジェンダー・イニシアチブ」をスタートしました。「#MeToo運動」の盛り上がりにつながった、米国の大物男性プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏による俳優やスタッフに対する長年のセクハラを、NYTの女性記者たちがスクープした直後でした。初代ジェンダー・エディターにベネットさんが就き、コンテンツを担当。ドナーさんがジェンダー・ディレクターとして戦略的役割を担いました。著名人らによる性被害を読者に届けるニュースレター「In Her Words」の配信を始めるなど、先駆的な取り組みを行ってきました。

【フランチェスカ・ドナーさん】女性の参加が、真の解決策を導く 

地球上の半分は女性です。いつになれば、男性と同じように女性にも考えや視点を持つ権利があると言えるようになるでしょうか。いつから男性の視点が主流で、唯一で、聞き入れられるべき視点とされ、女性の視点は脇に置いてもいいとされるようになったのでしょうか。それは全く理にかなっていません。

女性が議論のテーブルに参加することは本当に重要です。女性が参加しなければ、多様な視点が議論にもたらされず、真に包括的な解決策を導き出すこともできません。目を向けられ、考慮されるべき視点が見落とされてしまうのです。一例を挙げたいと思います。

新型コロナウイルスに対応する医療従事者が必要とする物資を議論するのが、男性のみだったとしましょう。「マスクや防具服、適切な食料を1日3食分、宿泊施設も必要だ」とは議論されるでしょう。

しかし、いくら素敵な男性でも、生理用品やタンポンが必要なことは見過ごしてしまうかもしれません。最も寛大で優しく、思慮深い男性でも、女性視点では考えられず、女性用物資について思い浮かばないのです。

しかし、女性が参加すれば、「これらも忘れないで。本当に重要なんです」と言えるでしょう。私がこう指摘するのは、新型コロナの流行初期、医療従事者のための生理用品が不足したことが実際にあったからです。片方からの視点では、見過ごされてしまうのです。

議論のテーブルが女性だけで構成されれば問題が解決されるわけではなく、全ての人の声が均等に聞き入れられなければいけません。一つひとつの声に、プラスとなる何かがあるからです。

■「みんな歓迎」と口では言うけれど

インタビュー動画で出演したニューヨーク・タイムズ・ジェンダーディレクターのフランチェスカ・ドナーさん=東京都港区、太田航撮影

米国にも森喜朗元首相と同じような考え方の人はいると思います。リーダー的な立場の人で、「女性は話しすぎる。女性は奥の部屋にいればいいんだ。女性たちはもう十分だ」と言う人を多く見つけるのは難しいでしょう。しかし、実際は「なぜ育児について話さなければいけないのか。なぜ女性を議論に入れ、女性の意見を考慮しなければいけないのか」と頭の中では考えていると思います。

そうした議論は密室の部屋で行われるはずです。私がこのように思う理由の一つは、「誰だって歓迎です。全ての意見も歓迎します」と表面上では言っていても、統計に表れる数字を見ると、何も変わっていないからです。

家庭でも、「私たちの家庭は平等です。みんなが全ての仕事をやっています」と言う人たちがいます。しかし、例えば皿洗いや育児、子どもの教育など、女性は男性よりも無給の仕事を多くしています。

そして女性たちは何十年にもわたり、職場で「家庭では何も問題はありません」と装ってきましたが、新型コロナウイルスはこの問題を無視できなくなるほど表面化させました。

■社会を支える女性の労働、低賃金の見直しを

「新型コロナからの復興の中心に女性を置くべきか」という議論を聞いた時、私は反射的に「なぜ女性が中心に? 全ての人が中心となるべき」と思いました。一方で、「女性やその他のグループは、長く疎外されていたため、中心に置かれなければ全く議論に含まれなくなってしまうのでは」とも考えました。

コロナ対応の最前線で働き、感染の危険もある看護師や、高齢者を介護する介護福祉士は主に女性。食料品店の店員など低賃金の仕事も女性が担っています。彼女たちに私たちは頼っているのに、大きな尊敬の気持ちを持つこともなく、仕事の価値を下げてきたことは、信じられないくらい致命的なことです。

私たちの国が成り立ってきたのは、こうした仕事をする人々がいたからです。「最低賃金で働く人々が得ているものは何か? 社会にとって必要不可欠な人々であれば、なぜ低賃金なのか?」と、こうした問題に目を向けなければいけません。

教師にも目を向けるべきです。米国では教師の約75%が女性。高い給料は支払われておらず、過小に評価されがちです。学校閉鎖は経済にも大きな影響を与えました。子どもが家にいれば仕事に行けないからです。学校も経済の重要な一部であることに、私たちは気づかされました。

■無名の人々の中にも、重要な視点

男女格差の現状と改善策をめぐるシンポジウム。ニューヨーク・タイムズ・ジェンダーディレクターのフランチェスカ・ドナーさん(左)はインタビュー動画で出演した=東京都港区、笠原真撮影

「In Her Words」のゴールは女性の声を高めること。女性の目を通じた物語を伝えようとしてきました。誰も聞いたことがない、無名の、一般の女性たちの物語です。介護施設で働く人や、食事の配達員、トラック運転手らに話を聞いてきました。議論には多様性が必要だと話してきましたが、全ての人たちがとても重要な視点や考えを持ち、挑戦し、成功を収めているのです。

新型コロナをめぐり、女性リーダーの方が男性よりもいくらか良い対応をしているように見えることには、根拠があります。都市封鎖を始めるにあたり、彼女たちの方が決断力があったのです。

しかし、真に価値のあるリーダーシップとはどんな資質なのかという疑問も浮かびます。同情と共感? どっしりとした上司や大きな男性リーダー、階層的な権力構造? 私たちはそこから距離を置こうとしているでしょうか。おそらくそうではありません。これまでのリーダー像に重要と考えられてこなかった新しい資質を、私たちは持ち込めているでしょうか。私たちはまた、スーツを着た伝統的な男性を権力者として思い浮かべているのです。今後、どのようなリーダー像が生まれ、そしてどう変わっていくのか興味深く見ています。

笑い話ですが、「女性政治リーダー」のフォーラムに向け、アイスランド外相をインタビューしました。早朝で、夫が自宅にいる3人の子どもの面倒を見るつもりでした。

すると息子がシリアルを食べすぎて、床中に吐いてしまったのです。私は取材相手とZoomで話し中で、素敵なブレザーを着ているのに、すぐ近くで息子が嘔吐(おうと)しているのです。それをごまかし、何もないかのように話していました。

少しの笑い話と、少しの生き抜くための戦いの姿です。「どうしよう、息子が吐いている。夫が掃除しているから、私はこのインタビューに集中しなければいけない」と割り切るしかないのです。

何度も耳にするのは、男性は女性たちを助けたいと言うのに、結局、あまり助けになっていないということです。男性は自分が何をしたらいいのか分からなかったり、単に助けない方が楽だったりするからです。皿洗いをするよりも、テレビを見る方がいいですよね?私だってそうです。

私たちは物事をより快適に、受け入れやすくするための変化を目にし始めています。カマラ・ハリス副大統領は、とても強力な地位にあり、素晴らしく力強い女性ですが、興味深いのは、彼女の夫がハリス氏を支える立場にいるということです。

彼はそのために仕事を中断しました。高い地位にある男性がこのような行動を取るのは、非常に強い意味を持ちます。全ての家族が一夜にして変わるわけではありませんし、全ての男性が仕事をやめるべきだと提言しているわけでもありません。異なる種類の家族像があってもいい、ということです。

■日本の女性へ、完璧でなくても大丈夫

背景は人それぞれですが、私が自らに与えてきたアドバイスを皆さんにも伝えるなら、こういうことです。「完璧じゃなくて大丈夫。私も時には最高の母親じゃないし、それでもいい。時には最高の会社員でもないけれど、それでもいい」。全体をバランスよく見れば、母親としての仕事も、会社員としての仕事も、だいたいできていました。それでいいんです。

【ジェシカ・ベネットさん】性差別の解消には教育が重要 

森元首相の発言に対し、日本の人々が声をあげていると伝える東京支局発の記事を、いつも感心して読んでいます。声をあげることは固定観念や障壁を壊す第一歩となる行動です。人々が声をあげ、変化を求めたから、(森元首相の)辞任につながったのです。

あのような考え方を持つ人はいると思いますし、考え方を変える必要性も教えられていないのでしょう。米国でもそのような人がいて、同様のことがあればすぐに謝罪すると思いますが、だからこそ教育が重要なのです。

性差別だと裏付けるデータがあれば、「それは差別的な視点。そう考えるべきではないし、真実でもない。調査結果も全く真実でないことを示している」と言えるからです。単に性差別主義者だと呼ぶのでなく、データや情報は時に、人々に自覚させ、問題を解決するためのはるかに有効な手段となります。

■働いて気付いた男女差別

私が生まれたシアトルはとても進歩的な街で、私も平等が当然だと思って育ちました。両親も平等を大いに奨励しました。

兄たちにできることなら私にもできると思わせてくれる環境でしたし、彼らよりも優れ、勝ることもできました。平等は当たり前で、特に話し合うこともなかったのです。

著書にも書きましたが、こう思う理由の一つは、ニューヨークに移って仕事の現実世界に入った時、本当に衝撃を受けたからです。子どもの頃から、そして大学時代も私は成功できると信じてきました。現在の米国ではよくあることですが、私自身を含め、女性は学生時代に様々な分野でより優れているし、より多くの修士号や博士号を取得しています。しかし、いざ働くようになると、「まだ差別があるんだ」と気づくのです。

■パンデミックに苦しむ女性の声を伝える

インタビュー動画で出演したジェシカ・ベネットさん=東京都港区、太田航撮影

少なくとも米国では、パンデミックにより、女性の方が多く失業していることが統計で明らかになっています。理由は様々です。働く産業によったり、育児に多くの時間を割かなければいけなかったりすることもあるでしょう。差別も関係しているかもしれません。

理由はわかりませんが、現実に起きているのは確かで、色んな面でとても心配です。そこで私は「プライマル・スクリーム」という大きなプロジェクトを立ち上げました。

NYTに電話のホットラインを設置し、働く親たちが電話してたまったストレスをはき出せるようにしたものです。みんな全てのことをやろうとして、ストレスをためているでしょう。政策や失業に関連する統計、いかに女性たちがひどい影響を受けているかなど、いくつもの記事を出しました。

私は3人の働く母親を半年間取材し、記事を書きました。新型コロナの影響で彼女たちに接触することができなかったのですが、彼女たちの日々を細かく記録できる凝ったシステムを作りました。

時には日記をメールでもらい、音声メモや写真も送ってもらうなど、彼女たちの毎日を詳細に理解し、日々どこに頭を使っているか、いくつの仕事を同時にしているかを把握できるようにしたのです。

■日本の女性も、自分に休息を与えて

男女格差の現状と改善策をめぐるシンポジウム。ジェシカ・ベネットさん(左)はインタビュー動画で出演した=東京都港区、笠原真撮影

自分自身に休息を与えることも時には必要ではないでしょうか。特に働く母親は、常に良いパフォーマンスを見せないといけないという考えがあると思います。

常により良く振る舞おうとし、そうでなければ罪悪感を感じてしまうのです。今は多くの人が燃え尽きたと感じているのではないかと思いますが、それを認めることも大切。完璧にこなさなくていいですし、自分自身に休息を与えていいのです。(つづく)

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