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あの時の鳥肌が忘れられない。TOEIC260点の私にできた台湾のお友達

LifeStyle 更新日: 公開日:
カフェで楽しく会話をする2人の女性のイメージ写真
写真はイメージです=gettyimages

生まれて初めて海外のお友達ができた。彼女の名前はチェン。

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早咲きの夜桜が綺麗なこの日。横浜のコミュニティスペースで干物を楽しむちょっと変わったイベントが開催されていた。参加者は八名ほど。魚が好きな私は興味本位で参加したが参加者の様子を見ていると主催者の誘いでふらっと遊びにきた方がほとんどのようだった。チェンもその一人。

イベントの前半は主催者のクロストークだった。当然日本語で進むのだが、チェンは1人首を傾げていた。その様子を察したのか、英語の通訳を交えながらトークが進んだ。どうやら彼女は日本語が分からないらしい。

トークショーが終わると客席が片付けられ、干物の試食会の準備が始まった。自由に歩ける状態になった私は彼女に話しかけてみたくなった。

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「Where are you from?」どこの国の方かをまずは確認。と思いつつ、正直なところこの言葉しか思いつかなかった。私のTOEICの点数は260点。そう。英語が全くと言っていいほどできない。大学は英語の授業が必須ではなかったし、海外旅行にも行ったことがない。だから咄嗟に出た英語は中学校で習ったこのフレーズだった。すると彼女の口から「タイワン!」と聞き取れた。「What is your name?」続けて思い出したこの質問もぶつけた。「チェン!」彼女は台湾から来たチェンだということが分かった。

この時の鳥肌が忘れられない。高校受験の時のリスニング。新入社員研修の時のTOEICのリスニング。何も分からなかった。そんな私が今まさに英語でコミュニケーションができている。

立食形式だったイベント後半。チェンの元から離れて他の人と日本語で会話することもできた。でも私は動きたくなかった。この今出ているアドレナリンを止めたくなかった。でも次の英語が出てこない。でも彼女にもっと色々聞いてみたい。でも発音がめちゃくちゃで……。

そんな葛藤があり、この後どう会話を続けようか冷や汗が出てきた。テンパっている私の目の前にすっとチェンはスマホを見せてきた。「(ここからきたの)」そう言っていたと思う。画面にはGoogle mapの台湾が映っていた。海外旅行に行ったこともなければ英語での会話に迫られたこともない私。スマホを使って会話をするという手段を思いつかなかった。そうか、別に言葉に頼らなくても画像を使って質問をすればいいじゃないか!私は落ち着きを取り戻した。

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それから、干物を食べながらどうして日本にきたのか、台湾には干物があるのか、日本語の勉強はしているのか。そんなことを聞いてみた。今パッとその時の英語は思い出せない。それくらい「●● 英語」の検索に頼って質問をした。ただ、Google翻訳には喋らせなかった。必ず自分の口から言ってみた。チェンもそうだった。3カ国語を話せる彼女の語学習得の技をちょっと盗んでみたくなった。

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パスポートに出国スタンプを押されたことがない私。全く海外のことを調べたことがなければ台湾なんて眼中になかった。そんな時に花蓮県で大きな地震が起こった。

4月3日、チェンはアーティストで横浜で展示会を開催中だったからまだ日本にいることは分かっていた。ただ、私は彼女が花蓮県にゆかりがあるかどうかまで知らなかった。だからなにかメッセージを送りたかったけどチェンの無事が確認できている今、どう心配をしたらいいのか分からなかった。もどかしかった。

そうしていると次の日、チェンのインスタに現地の様子が投稿された。無責任だと思いながらも言葉が出ずに、既読感覚で当たり障りのないスタンプを送った。

知り合いがいるといないとではこんなにも国外の情報の距離感が変わるのかと実感した。私はチェンのアーティスト活動を応援することから始めた。それが台湾の復興に必ず繋がっていることを信じて。

【筆者プロフィール】
ペンエーム:みなちゃん
管理栄養士、口から産まれた米屋のむすめ、食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る、ラジオ「#聴くキッチン」放送中
「かがみよかがみ」でほかのエッセイも読めます

大切なのは語学ではない

【講評】「世界とつながる」のに大切なのは語学ではなく、つながりたいという意志や対象(人や国、文化など)への好奇心なのだと、改めて感じさせてくれる文章です。筆者は英語が苦手ですが、イベントで出会った台湾のチェンさんと何とかコミュニケーションを重ねていくうちに、関係が深まっていきます。後日、台湾で大きな地震があった際もチェンさんのことが心配になり、SNSで安全を確認するまでになりました。気持ちがあれば、国境や物理的な距離をこえて、世界の人たちとつながっていけるのだということを、筆者は自身の経験を通じて証明してくれました。(GLOBE+編集長・関根和弘)