50カ国近くあるアジアを訪れる英語使いの旅行者にとって、はじめは未知の言語におじけづいてしまうかもしれない。たとえば、マレーシアの繁華街を歩くと、マレー語の世界に導かれるだろう。そこでは、中国語が簡体字で書かれていて、北京語や広東語、あるいは福建語が話されている。タミル語や、ヒンディー語まで聞こえてくるかもしれない。
言葉は障壁でもあるが、楽しみでもある。アジアを旅する人たちのために、以下に、いくつか最適な言語アプリとテクノロジーを集めてみた。本格的な機械学習翻訳から携帯電話のキーボードを操作するだけのモノまである。ちょっとした力添えがあれば、何十もの言語や文字を翻訳したり、絵文字や記号を解読したり、何か新しいことを学んだりできる。
スマホのカメラを活用しよう
私(記者)がアジアで初めて翻訳アプリを使った時は、この業界の草創期(2014年ごろのこと)で、ローマ字でない文字に対応する現実的な選択肢は「Waygo」だけだった。携帯電話のカメラをメニューや看板に向けると、中国語の文字や日本語の漢字、かな、韓国語のハングルが表示され、画面上ですぐに翻訳された。魔法ともいえる妙技だった。
以来、フォト翻訳アプリの世界は隆盛になった。「Google Translate」は翻訳の怪物で、中国語、フィリピン語、ヒンディー語、モン語、インドネシア語、日本語、韓国語、ラオ語、マレー語、モンゴル語、ネパール語、タミル語、ウイグル語、ベトナム語のフォト翻訳を提供する。韓国のアプリ「Papago」は、特に韓国語に適しているが、中国語やインドネシア語、日本語、タイ語、ベトナム語にも対応している。
フォト翻訳アプリは、おしなべて迅速で機能的であり、おおむね適切に翻訳する。とりわけ印刷物の翻訳は適切だ。Googleの翻訳アプリはタイ語で書かれた税関申告書やヒンディー語のデーバナーガリー文字で書かれた簡単な新聞記事をらくらく翻訳する。
旅行者は、中国本土ではGoogleがブロックされていたり、アクセスが困難であったりすることにも注意する必要がある。もう一つ(または複数)の代替手段を使う必要があるかもしれないということだ。
翻訳したいことを「手書き」に
スマホのアプリには、中国語の文字でも韓国語のハングルでも、どんな文字であれ、指で描くことで素早く翻訳してくれるものもある。文字を描くことは、フォト翻訳アプリを混乱させかねない珍しいフォントや表面が反射している(訳注=カメラで読み取れない)場合の翻訳に役立つ。
たとえば、レストランの外のバナー(広告用などの垂れ幕)には手書きのものがあるが、アジアの一部ではその方が印刷より一般的だ。最近、私は米マンハッタンの中華街で試してみたが、店の窓にしっかりフィルム加工された看板はGoogleのフォトアプリには表示されなかった。
Google Translate やPapagoは文字の描画を提供するが、Googleは完全に描画し終える前に文字が入力されるという厄介な習性がある。このため、動作を急がされるし、意味がまったく違ってしまう可能性もある(たとえば、「いくらですか?」という韓国語の当初の訳が、「冷凍ですか?」と出てきたりする)。
とにかく、文字の描画に専心するということは、手のひらになぐり書きすることに時間を割くことになる。このプロセスは、日本語のひらがなやカタカナのような単純な文字なら比較的スムーズに機能するが、中国語や一部の韓国語のハングルだともっと複雑になる(台湾を旅行する人は、中国の伝統的な文字、つまりより複雑な繁体字が標準だということを覚えておく必要がある)。
これらのアプリを使った手書きのプロセスは、旅行中にもっと積極的に文字を学びたいと思っている中級ないし上級の言語学習者に適している。こうした学習者たちは、基本的に辞書機能アプリの「Pleco」(中国語用)や「Kanji Recognizer」(日本語用で、アンドロイドだけ)を試してみるといい。これらのアプリはより詳細な翻訳や深い意味を提供してくれる。
役に立つ情報:一部のスマホでは、キーボードの設定でインストール可能なオプションとして実際に手書きができる。たとえば、「Microsoft Translator」には手書き機能はないが、キーボードを使って標準のテキスト翻訳フィールドに文字を描画するだけで同じように機能する。
声に出してみて!
発話を好む人向けには、音声から文字情報へ(そして、文字情報から音声へ)の機能が、Google Translate、Microsoft Translator、Papago、Plecoといった多くの翻訳アプリで提供されている。
広東語、ヒンディー語、タイ語などの言語に対応したアプリ「SayHi」は、声や音声に特化しており、男性または女性の声で翻訳を再生し、話す速度を変えることができる。また、すべての翻訳履歴が保存されるので、「私はシーフードにアレルギーがあります!」といったよく使うフレーズを再生できる。会話モードもついている。二つの言語を選択し、2人の間にスマホを置いて交互に話すのだ。
全般的に言えば、GoogleとMicrosoftはうまく作動するが、5、6秒後に機能が停止することがよくある。一方、SayHiは通常、一度に20秒から30秒間機能する。この聞き取り時間の長さは、中途半端なセンテンスや生の音声翻訳の全体的な混乱を理解する上でしばしば重要になる。
音声を文字情報に変換する機能の真の問題は、その実用価値にある。マンハッタンの中華街にあるにぎやかな点心レストランは現金払いだが、記者はレジ係に100ドル札での支払いに釣り銭があるかどうかを聞く際、SayHiを使った。レジや蒸し器のノイズが記者のスマホのマイクを妨害してしまったので、レジ係の女性は記者のスマホ画面の翻訳文をのぞいて対処した。
言葉を学ぼう
どんな旅行であれ、現地の言葉を少しでも覚えることでいい旅になるが、それに役立つ学習アプリがたくさんある。たとえば、韓国語や日本語のレッスンを何度か受けてハングルやひらがなを覚えれば、少なくとも音声にして読み上げることができるようになる。
Duolingoは、とても効果的なオンラインの言語学習アプリだが、アジアの言語の学習コースは一般的に欧州のそれよりも厳しくない。初心者は、中国語や日本語、韓国語、ベトナム語の学習アプリ「Lingodeer」か、中国語、日本語、韓国語向けの「Memrise」を試してみるとうまくいくかもしれない。両方ともネイティブスピーカーによる動画を使っている。それはDuolingoにはない。Lingodeerには長時間の文法学習と解説も用意されている。
記者はMemriseを使って大きな成果を得た。飛行前のかなり長い時間を要した地上走行中に30分間勉強し、ハングル文字を五つくらい覚えられた。ただし、MemriseとLingodeerの無料レッスン時間は限られているから、ご注意を。
上記のアプリ三つはすべて、前述した代替キーボードを組み合わせることもできる。だから、ボタンをただタップする代わりに、スマホの画面にかな文字を書くことで日本語用のDuolingoが答えることができるので、学習プロセスが速められる。
他の言語については、学習アプリ「Drops」には広東語やヒンディー語、インドネシア語、タイ語など幅広い言語がそろっている。
オンラインの世界を探そう
アジアは言葉の点でとても多様性に富む地域であり、すべての言語や方言を一つでこなせるアプリはない。複数の国に何百万人もの話者がいる広東語のような言語でさえ、アプリを見つけるのは難しい。
(言語学習用の)手段を広げることがカギになる。たとえば、広東語を学ぶ最良の方法の一つは、ポッドキャストを活用することだ。ポッドキャストプレーヤーで広東語レッスン用の「CantoneseClass101」を検索し、2014年までさかのぼって無料のエピソード(挿話)を見つけ出すこと。それは、10分ほどで基本を教えてくれ、文化的な背景も学べるエピソードだ。文脈によって「ありがとう」とか、「すみません」「ごめんなさい」といった意味になる「m goi (唔該)」のようなよくある言葉について、その文化的背景を教えてくれる。
似たようなポッドキャストでベトナム語学習用の「VietnamesePod101」には「サバイバルフレーズ」というセクション(訳注=必要最小限のフレーズコーナー)があり、約8分間で、記者は「ありがとう」という言葉だけでなく、「おばさん」や「おじさん」をどう表現するのかも学んだ。こうした言葉はおそらく、口にする最も大切な単語だろう。
もう一つ、広東語用の優れたリソース(資源庫)に「subreddit r/Cantonese」がある。このリソースには、広東の言葉と文化の学習や保存に熱心な人たちがたくさん集まっている。(抄訳)
(Naaman Zhou)©2022 The New York Times
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