広島大学名誉教授の佐藤清隆は長年、チョコレートを科学的に研究してきた。大学をやめたいまも、国内メーカーから商品開発の相談を受ける。
「どのメーカーも新たな市場を求めている。その一つがプレミアムチョコの分野だ」。佐藤は、そう話す。
よく相談を受けるのが、チョコに生クリームを混ぜてつくる生チョコだ。軟らかくて高級感がある半面、水分が多いので微生物が繁殖しやすく、油と水分が分離してしまう。このため、小規模店やデパ地下などのように温度管理しやすい場所で、短い間しか販売できなかった。
大量生産して幅広い店で売れるような技術はブレークスルーになる――。佐藤は、そう考えている。
横ばい市場に立ち向かう
日本のチョコ市場の規模は約4000億円で、ここ20年ほぼ横ばい。季節にかかわりなくチョコを食べる欧州とは違い、日本では秋・冬の季節商品という性格が強い。売り上げを伸ばそうと、各社ともこの時期、ちょっとぜいたくな新商品を出す。
明治は昨年末、生クリームを生チョコで包んだ「ドレア」を関東限定で売り出した。冷凍でも冷蔵でも食べられ、解凍時間で食感が変わる。「凍らせても滑らかな食感を保つチョコを開発した」という。
アイスの「ガリガリ君」で知られる赤城乳業は例年、北海道の有名メーカー、ロイズコンフェクトの生チョコを入れたアイスを冬季限定で売り出す。流通アナリストの井上正敏は「メーカーは高級チョコ消費を支える女性を意識し、チョコを『デザート化』してプレミアム感を出そうとしている」とみる。
高級化、海外でも
海外の大手メーカーも知恵を絞る。
ネスレ(スイス)は自社の高級ラインで、カスタマイズチョコの試験販売を欧州の一部地域で始めた。顧客はウェブで5種の味見用チョコを取り寄せ、味に関する質問に答える。すると、2日以内に好みに合った詰め合わせが届く。
ネスレは今年1月まで、ベルギーの有名ショコラティエ、ピエール・マルコリーニと提携して高級感のある商品開発に力を注いできた。「高級でぜいたくなチョコは重要な戦略分野の一つだ」(ネスレ広報)と考えている。
そもそも、大衆向け商品をつくる大手メーカーには、自社のブランド価値を高めたいとの思いがある。
たとえば、ベルギー発祥のゴディバは1974年にキャンベルスープ(アメリカ)に買収された後も「ベルギー生まれの高級チョコ」というイメージを保ち続けた。食品会社を傘下にもつトルコの財閥系企業が、そのブランド力に着目し、2008年にキャンベル社から買収した。
ほかにも、高級感のあるブランドを買収する大手メーカーは多い。フランス食文化・ショコラ研究家の小椋三嘉は言う。「高級チョコブームで消費者のレベルが上がった結果、スーパーなどで売られるチョコの質も底上げされてきた。メーカーは生き残りをかけて、プレミアム商品を出さざるをえない状況にある」