世界最大のビール会社は、ベルギーに本拠を置く「アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)」社だ。
米国のバドワイザーをはじめ、ベルギーのステラ・アルトワ、メキシコのコロナなど名だたるブランドを傘下に収め、世界全体のシェアの2割を握る。昨年の売上高は約4兆3000億円で、従業員は15万人。株式市場では、利益率が高い超優良企業として評価されている。
CEOは、ブラジル人のカルロス・ブリト。1960年に生まれブラジルの大学を卒業し、米スタンフォード大学で経営学修士(MBA)を取得。自動車大手のダイムラー社を経て、ブラジルのビール大手アンベブ社に入り、トップに上りつめた。
2004年に当時世界3位だったベルギーのインターブリュー社と、同6位のアンベブ社が統合すると、翌年にはそのトップに。2008年にはバドワイザーブランドで米国の市場シェアの5割を握る米アンハイザー・ブッシュ社を約5兆5000億円で買収し、業界に君臨するようになった。
様々なブランドをかかえることについて、ブリトは海外メディアのインタビューに「世界のどこにいても我々の商品を選んでもらえる。重複ではなく、補完関係だ」と答えている。アジアでも中国やベトナムへの進出に加え、今年に入り、一時手放していた韓国のOBビールを再び傘下に収めるなど着々と足場を築いている。
ブリトは「徹底したコスト削減で、利益率を高める」(日本のビール大手関係者)という経営手法で知られる。
そのドライな対応を目の当たりにした企業が日本にもある。兵庫県の日本酒メーカー小西酒造だ。
社長の小西新太郎は、ベルギービール「ヒューガルデンホワイト」を1988年から輸入し、フルーティーな口当たりのよさを売り込んで大ヒットさせた。貢献を評価され、ベルギーから「ビールの騎士」の認定も受けた。
だが2008年、ヒューガルデンを製造するインベブ社が、突然、販売権をアサヒビールに移すと伝えられた。
「資本の論理にたけた経営者が、販売はその国の最大手に任せようという方針だと理解した」と小西は振り返る。
その後も、他社のベルギービールの販売やPRに力を入れているが、「20年も続いたインベブとの関係が、こんなに急に終わるとは思わなかった」という。
世界市場では、ABインベブのほか、英国に本社を置くSABミラー、オランダのハイネケン、デンマークのカールスバーグが大きなシェアを持ち、世界規模で競争やM&Aを繰り広げている。
日本はこうした世界大手が、本格的に直接参入していない珍しい市場だ。現在バドワイザーとハイネケンは、キリンビールが、カールスバーグはサントリーがライセンス契約で製造販売し、ミラーは輸入代理店の日本ビールが売っている。
1990年代前半、当時サントリーが売っていたバドワイザーは、「ビールの王様」をうたうCMを流し、「バドガール」がいる店も流行した。
しかし、1994年にサントリーが発泡酒を売り出し、幅広いビール系飲料の開発競争に火がつくと、海外大手のビールが店頭に並ぶ機会は減り始めた。
「日本市場に興味はあっても、販売の土俵に上がることすら厳しい状況になった」(国内ビール大手)という。
ABインベブ社に日本への関心を尋ねる質問を送ってみたが「M&A戦略については一切回答できない」という返事だった。(鈴木暁子)
[世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ社の世界シェア]20・9%
(2012年の生産量、子会社のGrupo Modeloとの合計。BARTH-HAAS GROUPの資料から)
ベルギービールの特徴は?
日本でもルーティーな口当たりのよさでヒットしたビール「ヒューガルデンホワイト」。それを生み出したビール王国ベルギーでは、多種多様なビールがつくられている。
大麦・小麦を6割以上ふくむ麦汁に、様々な副原料を加えて独特の味わいを生み出しているものも多い。
ハーブや果物の皮で香りづけした白濁ビール「ホワイトエール」は世界的に人気が高い。
野生酵母を使い自然発酵させた酸っぱいビール「ランビック」や、オークたるで熟成させる「レッドビール」、果物やジュースを加えた「フルーツビール」などがある。日本では4年前から、イベント「ベルギービールウィークエンド」が開かれている。