度数が低くてもビールはアルコール飲料だ。飲み過ぎれば健康に様々な悪影響を及ぼす。
飲む人の中には「ビールなんて水みたいなもの」と気軽に飲む傾向もあるが、こうした「軽さ」ゆえの問題を指摘する人もいる。
「ビール1杯だけなら」などと安易に考えて飲酒運転をする例は後を絶たないし、「イッキ飲み」を強いる悪習とも親和性が高い。「ビールだけならアルコール依存症にならない」といった誤解もされやすい。
加えて、ビール特有の「害」としてよく挙げられるのが、痛風だ。
老廃物である尿酸の排出が追いつかず、体内で結晶化することで起きる。ビールはお酒のなかで、尿酸のもとになるプリン体が特に多いため、犯人視される。
痛風患者や予備軍が「ビールは避けて」と言われるのは一般的だ。
ただ、プリン体をたくさん含む食品はほかにも多い。ビール1缶(350ミリリットル)には12~25ミリグラムだが、例えば、ほうれん草や豚バラ肉などには100グラムあたり50~100ミリグラム、マイワシの干物に至っては300ミリグラム以上ものプリン体を含む。
公益財団法人痛風財団によれば、普通に生活をしているだけで、成人なら一日におよそ600ミリグラムの尿酸をつくっているという。ビールだけが悪いというわけではないらしい。
とはいえ、やはり注意は必要だ。アルコールそのものが分解される過程でも、新たに尿酸がつくられるためだ。
飲み過ぎを運動で帳消しにしようとする人も多いが、意外なことに、激しい運動も逆に一時的に尿酸値を上げてしまう。乳酸ができて、尿酸の排出を妨げるからだ。
飲む速度にはグラスの形が影響するという研究結果もある。英ブリストル大学の研究チームが2012年、カーブしたグラスとまっすぐなグラスでビールを飲む速さを比べたところ、カーブしたグラスの方が4割ほど速いスピードだった。
カーブしたグラスの方が中身を正確に把握しづらく、量をきちんと認識できない人ほど、ビールを飲むスピードが乱れて速くなりがちだったという。
ビールならなぜたくさん飲める?
ビールだったら1リットルや2リットル簡単に飲めてしまう――ビール好きにはそんな人も多いだろう。だが、ただの水やお茶、ジュースはそんなに飲めるものではない。なぜ、ビールなら?
アサヒグループホールディングス・イノベーション研究所の主幹研究員、大嶋俊二によると、大きな要因は、アルコールの効果だという。
人体はつねに、身体に含まれる水分を一定の割合に保とうとしている。多すぎれば尿として排出し、水分の摂取を控える。
一方、足りないときは、水分を摂るよう促しながら、尿の生成を抑える「抗利尿ホルモン」を働かせ、水分の排出を抑える。
ところがビールを飲むと、アルコールにこのホルモンの働きを抑える作用があるため、摂った量以上に水分の排出が進んでしまう。
このため体内では水分が足りない状態が続くので、のどが渇き、もっと飲む――という循環になる。
ビールに含まれるカリウムやホップに利尿作用があること、さっぱりしていて飽きにくい味であることもたくさん飲める原因かもしれないと大嶋は言う。
ちなみに明治の文豪で軍医でもあった森鷗外は、ドイツ留学中にビールの利尿作用を研究。原因がアルコールによるものだと証明し、学会の発表で「大いに喝采を博した」と書き残している。
本人もビールが好きでよく本場の味を楽しみ、当時の駐独日本公使に飲み過ぎをたしなめられたという記録も残っている。