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「バーボン=白人男性の飲み物」は、もう終わり アメリカで起きている消費の変化

World Now 更新日: 公開日:
女性のバーボン消費増をめざす団体が催した「カクテルコンテスト」=米ケンタッキー州ルイビル、真海喬生撮影

米国のウイスキーといえばバーボン。ニューヨークでバーに行くと、バックバーにずらりとバーボンが並んでいる。スコッチウイスキーなど他の蒸留酒も並んでいるが、日本と比べると品ぞろえは、はるかに充実している。バーボンはトウモロコシが主原料で、米国内で製造されないとバーボンを名乗れない決まりがあるなど、米国を代表する特産品の一つ。各国との関税をめぐる交渉では何度も標的にされるなど、米国の象徴でもある。(真海喬生)

その消費が近年、急増している。調査会社IWSRによると、2020年の米国のバーボン消費量は10年前の2倍に増えた。他の酒類の消費量も増えているが伸びは著しい。高価格帯のバーボンの成長が大きく、金額に換算すると20年は10年前の約3倍という。いったい、なにが起きているのか。

7月末の夕方、米国のバーボン生産量の95%が集中するケンタッキー州を訪ねた。中心都市ルイビルの蒸留所に、100人以上のバーボンファンが集まっていた。9割ほどが女性だ。会場となった部屋の壁沿いにバーテンダーが並び、中心のテーブルにサンドイッチやクラッカーなどの軽食が準備されている。

スーツ姿の司会の男性がマイクで話しかける。「みなさんようこそ。今日は10人のプロとアマチュアのバーテンダーが集まりました。このカクテルコンテストを楽しんでください」。

開かれたコンテストは「ノット・ユア・ピンク・ドリンク・コンペティション」。バーボンを使ったカクテル大会だが、「ピンク色でないこと」というユニークな条件がつけられている。バーテンダーは、もともとのバーボンの色である茶色から、オレンジなどかんきつ類を加えただいだい色、リキュールを使った紫色までさまざまなカクテルをつくってテーブルに並べ、試飲するファンと談笑する。会場を訪れた教育コンサルタントのレベッカ・ガディさん(46)は「女性が集まってお酒を飲むなら、甘くてピンク色のものって想像してませんか? そういう思い込みに挑戦するのがこのコンテスト。私は強い味のカクテルが好き」と話す。

女性のバーボン消費増をめざす団体が催した「カクテルコンテスト」=米ケンタッキー州ルイビル、真海喬生撮影

主催団体「バーボン・ウィメン」は女性にバーボンの消費を広めるため、11年に設立された。女性向けの蒸留所ツアーや試飲会を主催してきた。15年に新しい取り組みとして始まったのが、このカクテル大会だ。会長を務めるマギー・キンバールさん(40)は「もともと女性にバーボンを、という目的で設立された団体だが、だからといってピンク色のフルーティーなカクテルをつくればよいわけではないと訴えたい。女性に迎合するようなカクテルは望んでいない。本物のカクテルを飲みたい。それが、本当に女性をバーボンの消費者として認めることだ」と話す。会員数はコロナ禍の20年にも20%増えるなど支持が広がる。

バーボンは長らく、「中高年の白人男性が好む飲み物」というイメージが強かった。最近は、女性やミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)と呼ばれる若い世代、そして人種を超えて人気が広がる。米国では近年、バーボン・ウィメンのような消費者発の活動が盛りあがり、飲み手が多様化。結果として消費量が増えている。調査会社MRIシモンズによると、米国でバーボンを飲む女性が増えている影響で、男女の差は少しずつ縮んでいる。いまや全体の35%を女性が占めるという。

5000人以上の会員を抱える「ブラック・バーボン・ソサエティー」も、そうした消費者団体の一つだ。これまで企業のマーケティングから黒人が抜け落ちており、黒人も消費者として捉えるべきだという目的で16年に設立されたという。テイスティングイベントなどを全米各地で開く。MRIシモンズによると、近年はマイノリティーでバーボンを飲む人が増え、20年の時点で黒人が全体の10%、アジア人が5%、「その他」の人種が8%を占め、すそ野は広がっている。

「ミレニアル世代」ながらピアレス蒸留所の蒸留責任者を務めるカレブ・キルバーンさん=米ケンタッキー州ルイビル、真海喬生撮

消費者側だけではなく、つくり手側の多様性も広がる。ケンタッキー州の生産者団体によると、09年に19カ所あった蒸留所は19年に68カ所に急増。規模の小さい蒸留所が多いが、その分、味も多様化。生産量は2倍以上、関連産業で働く人の数も2倍以上の約2万人に増え活気づく。その一つ、ルイビル中心部にあるピアレス蒸留所は、30歳のカレブ・キルバーンさんが製造部門トップを務める。州内で最も若いという。100年以上の歴史があるピアレスは第1次世界大戦の影響で1917年から休止し、2015年に98年ぶりに製造を再開した。

蒸留所内には、歴史を伝える写真が飾られ伝統を感じる一方で、エンジニアでもあるキルバーンさんが独自に設計した新しい設備が並び、温度などを管理する最新の電子モニターもある。自身もミレニアル世代であるキルバーンさんは、「ミレニアル世代は他の世代よりも、トレーサビリティーを重んじる傾向が強い。原料はどこのものか、樽はどこからきたのか、だれがつくったのか。歴史や物語、経験にお金を出し、友人や家族、同僚らと共有する。そうした消費だ」と話す。ピアレスは蒸留所内に樽メーカーの看板を掲げるほか、製造するすべてのボトルにシリアルナンバーを付け、ミレニアル世代の支持を集めている。

MRIシモンズによると、20年にはバーボン消費者のうち、ほぼ半分にあたる49%を44歳以下が占めるまでになった。バーボンは若い世代の飲み物、といっても過言ではない状況になりつつある。