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「水分補給にコーヒー、アルコールはNG」本当? 脱水を防ぐ方法に新たな説

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A small pool with ice and water bottles sits near an area where a group of people are camping in downtown during a heatwave in Salem, Oregon, U.S., August 12, 2021.  REUTERS/Alisha Jucevic
熱波の中、ペットボトル入りの水が氷で冷やされていた=2021年8月12日、米オレゴン州、ロイター

ソーシャルメディアを利用したり、運動競技のイベントを訪れたりすると、最近はもっと水を飲むようにとの水分摂取の奨励攻勢を受けるに違いない。有名人のインフルエンサーは、かっこいい新しいアクセサリーとして、ガロンサイズ(約4リットル入る大きさ)のウォーターボトルを持ち歩いている。ツイッターの機能を使ったボット(自動的に発言するシステム)は、水分補給にもっと時間をかけるよう常に注意してくれる。一部の再利用できるウォーターボトルには、「Remember your goal(目標を忘れるな)」「Keep drinking(飲み続けろ)」「Almost finished(あとちょっと)」といった励ましの文言が目立つように印字されている。終日、水分摂取を促すためだ。

大量の水分摂取で期待される利点は、記憶力や心の健康の増進から、エネルギーの増強、肌の改善に至るまで無限にあるらしい。「Stay hydrated(水分補給を続けて)」が、かつてのあいさつ文句「Stay well(お元気で)」に代わる新バージョンになった。

しかし、「水分補給を維持する」とは、正確には何を意味するのか。「一般の人が脱水症状を話題にする時、多くは何らかの水分喪失を意味する」とミシガン州のオークランド大学医学部助教で腎臓専門医のジョエル・トーフ(博士)は言っている。

ところが、その解釈は「まったくの誇張だった」とケリー・アン・ハインドマンは指摘する。アラバマ大学バーミングハム校の腎臓機能の研究者だ。水分補給を維持することは間違いなく重要ではあるが、より多くの水を飲むという単純な行為がその人をより健康にするという考えは正確ではないと彼女は言う。また、大半の人が慢性的な脱水状態で歩き回っているとか、一日中水を飲み続けるべきだということも正しくない。

医学的な見地から、トーフは、体内のナトリウムや水分のような電解質のバランスが水分補給に最も重要な基準になると言っている。そして、バランスを維持するために、次から次へとグラスの水を飲み干す必要はないのだ。

――では、どれだけ飲めばいいのか?

1日8オンス(約240ミリリットル)の水を8杯飲むのが誰にとってもマジックナンバー(訳注=願いをかなえる特別な数)と教えられてきたが、それは誤った通説であるとミシガン州デトロイトのウェイン州立大学の運動・スポーツ科学者タマラ・ヒュー=バトラーは言っている。

彼女によると、体格、外気温、呼吸や発汗の程度といった個々の要素で水分摂取の必要量が決まる。体重が200ポンド(約90キロ)で、暑さの中を10マイル(約16キロ)歩いてきたばかりの人は、温度管理された建物内で一日中を過ごした120ポンド(54キロ余り)のオフィスマネジャーよりも多くの水を飲む必要があるのは明白だ。

1日に必要な水分の摂取量は、その人の健康状態にもよる。心不全や腎臓結石といった症状の人は、たとえば利尿薬を服用している人とは違う量の水分が必要になるかもしれない。あるいは、嘔吐(おうと)や下痢を伴う病気の場合は、水分摂取の量を変える必要があるかもしれない。

大半の若くて健康的な人の場合、水分補給を維持する最善の方法は、のどに渇きを覚えた時に飲むことだ、とトーフは言う(70歳代や80歳代といった高齢者は、のどの渇きの感覚が加齢で鈍くなる可能性があるため、十分な水分摂取により気を配る必要があるかもしれない)。

――水分補給には、水を飲むべきなのか?

必ずしも、そうではない。純粋に栄養学的な見地から言えば、糖分を含んだ炭酸水やフルーツジュースといったあまり健康的ではない飲み物より、水は良い選択である。ただし、水分補給ということならば、どんな飲み物であれ体に水分を取り入れられる――。ヒュー=バトラーはそう語っている。

トーフによると、カフェインやアルコールを含む飲料は脱水症状を招くというのが一般的な見解だが、そうだとしても、その影響は取るに足らない。たとえば、男性72人を対象にした2016年のランダム化比較試験(RCT)では、水、ラガー(ビール)、コーヒー、茶の水分補給の程度はほぼ同じとの結論だった。

水分は食物からも摂取できる。フルーツや野菜、スープ、ソースなど水分が豊富な食物をとればすべて水分摂取に寄与する。さらに、食べ物を代謝する化学プロセスは、副産物として水分を生成し、それも水分摂取量に加えられるとトーフは指摘する。

――電解質について、気を配る必要はあるか?

一部のスポーツドリンクの広告から、血液中の電解質を一定レベルに保つためには絶えず補充する必要があると思うかもしれないが、ヒュー=バトラーの話だと、ほとんどの健康な人にとっては、電解質を加えた飲料を飲むべきとの科学的な理由はない。

ナトリウムやカリウム、塩化物、マグネシウムといった電解質は、体液に含まれる帯電したミネラルで、体内の水分バランスに大切な物質だ。それは、神経や筋肉、脳、心臓が適切に機能するためにも不可欠である。

脱水状態になると、血液中の電解質の濃度が上昇し、体が抗利尿ホルモンの分泌を知らせる。それによって、尿として放出される水分量を最終的に減少させる。つまり、水分を体に戻して再吸収することで、水分のバランスを維持できるのだ。これは、ハインドマンの説明である。

暑さの中でとても激しい運動をするとか、嘔吐や下痢で多くの水分を失うといった異常な状況下に置かれていない限り、スポーツドリンクなどを飲んで電解質を補給する必要はない。ヒュー=バトラーが言うには、ほとんどの人は食べ物から十分な電解質を摂取している。

――しかし、のどが渇いていない時でも、もっと水を飲むと健康状態が良くなるのでは?

違う。もちろん、腎臓結石とか、まれな常染色体優性多発性囊胞(のうほう)腎(ADPKD)といった特定の状態にある人は、のどの渇きによる要請より少し多めに水を飲むのがいいかもしれない――。トーフはそう語る。

しかし実際には、脱水状態で体調が悪いと訴える大半の健康な人は、水の飲み過ぎで気分が悪くなっている可能性があるとハインドマンはみている。「頭痛や気分の悪さを感じると、『そうか、脱水状態だから、もっと飲む必要がある』と思って水を飲み続け、それによってますます体調の悪化が続くのだ」

腎臓が排泄(はいせつ)できる速度を超えて水分をとると、血液中の電解質が薄められ過ぎてしまい、最も軽い症状なら、気分が「悪くなる」可能性がある。最悪の場合、短時間に水を飲み過ぎれば、低ナトリウム血症、あるいは「水中毒」と呼ばれる症状を招きかねない。「これは非常に怖く、悪い」とハインドマンは言っている。血液中のナトリウム濃度が低下すると、脳浮腫や発作、昏睡(こんすい)、さらには死につながる神経系の疾患を引き起こす可能性がある。

2007年のことだが、28歳の女性がラジオ局開催の「Hold Your Wee for a Wii」というコンテスト(訳注=任天堂のゲーム機「Wii」を景品にした水飲み大会)に参加した際、3時間で2ガロン(約8リットル)の水を飲んだとされ、その後、低ナトリウム血症で死亡した。水を飲み、できるだけ長時間にわたって排尿しないでいることに挑むコンテストだった。14年にはジョージア州の17歳だった高校のアメフト選手が、2ガロンの水と2ガロンの(スポーツドリンクの)ゲータレードを飲んだとされ、低ナトリウム血症で亡くなった。

この症状は運動する人たちの間でとても一般的になっており、誰かがレース中に倒れた場合、対応者は低ナトリウム血症の可能性を考えるよう訓練されているが、ほとんどの健康な人にとって低ナトリウム血症が重篤化することはまれだとトーフは言う。

――水分摂取が十分かどうか、どうすればわかるか?

体が教えてくれるだろう。専門家の話だと、適切な水分量を維持して健康への恐ろしい影響を避けるには複雑な計算と瞬時の調整が必要という考えはナンセンスである。取り得る最善の方法の一つは、考え過ぎないこと。

脱水症状にならないための最良のアドバイスは、一番単純でもあるとトーフは言っている。つまり、のどが渇いたら飲む。実に簡単だ。(抄訳)

(Christie Aschwanden)©2021 The New York Times

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