ラオス流のビールの飲み方
私の最初のビアラオとの出会いは1985年。ラオスの首都ビエンチャンの街は、日が暮れると電力不足で真っ暗。薄暗いレストランで水よりはビールが安全だと飲んだのがビンに入ったビアラオ。安全どころかビンの洗浄が問題だったのか、強烈な下痢に3日間悩まされた苦い思い出がある。
それから34年。ビエンチャン市内の中心「ナムプ」(噴水)から徒歩5分にあるオーブンエアの大衆食堂を訪れた。ビエンチャンでは最近、洒落たレストランが増えているのだが、それとは違い、ビアホールに近い雰囲気の店だ。店頭には、ビアラオのイメージカラーの黄色い看板が掲げてある。
4人が座れるテーブルが10卓ほど。この通りは、同じような店が大小3軒並ぶ「ビアラオ通り」で、夕方5時になるとビアラオを飲みに人々が集まってくる。平日は男性が友人や職場の仲間と連れ立ってやってくるが、週末は家族連れや女性も目立つ。赤ん坊を抱きながらテ―プルに座っている若い母親もいる。
店に常駐するビアラオ販売促進ガールのトウキターさん(21)は、北部のサムヌア出身。ビアラオのシンボルカラーの黄色のユニフォームを着てテーブルを忙しく回り、笑顔を振りまきながら客のグラスにビールを注ぐ。首からは新しく売り出し中の3種類(ホワイト、ホッピィ、アンバー)の写真入り広告用プラカードを下げている。
ビアラオ・ラガーは「喉ごし、さらり」で、国民的ビールの代名詞。客のテーブルの横には、ビアラオオリジナルのプラスチック製3段テーブルが据えられ、ボトルとコップとオリジナルの氷入れが置いてある。ビールと共に楽しむ料理の定番は、ラオスの国民食の肉や魚のラープ(サラダの一種)と「タムマークフーン(パパイヤサラダ)」などだ。
ラオス流のビールの飲み方は、東南アジアのタイ等と同様にグラスに氷を入れる。時間が経過して酔う程に、グラスを合わせる「ニョック・チョーク」(ラオス語で乾杯の意味)の頻度が多くなる。三段テーブルにも空のボトルが5本、6本と並ぶ。タイで飲むときよりもスピ―ドがかなり速いと感じた。世界保健機構(WHO)の2010年の調査では、国民1人当たりのビールの消費量は、2位のベトナムと3位のタイを抑えてラオスが東南アジア1位。蒸留酒の消費量はタイに次いで2位でもある。
トウキターさんは「店では1ヶ月平均して約100ケース、1200本のビールを売る」と語る。売上の3割が彼女の給与となるのだという。店の売上の一番は、やはりラガー。最近の人気は、売り出し中の3点セットの一つのホワイト。バナナや柑橘類をブレンドして口当たりが爽やか。女性にも人気で、売れ切れる日が多いという。
ビアラオの美味しさの秘密
ビエンチャン市内の郊外にあるビアラオ工場を訪ねた。道路を挟んで工場と本社ビルがあり、道路の上に架かる歩道橋で繋がっている。近代的な本社ビルの一階にはビアラオ博物館がある。ビアラオの製造の歴史や製造機械、国際的ビールの品評会で高評価を得たことを示す盾の数々。ビアラオの旨さが国際的に評価されていることを証明しているようだ。ビアラオの原料なども展示され、有料だがビアラオが飲めるカウンターとテーブルも。ビアラオのTシャツやグラス等も販売されている。
ビアラオ博物館の展示資料によると、ビアラオは1973年創立。1975年に国営工場としてドイツの技術を導入し、その後、デンマークのカールスバーグから資本導入してラオスの合弁企業の代表的存在となった。
一番人気の「ビアラオ・ラガー」の旨さの秘密は、森の国ラオスの誇る良質の水とドイツの麦芽、ベルギーのホップとラオスの大地が育んだ最高品種のジャスミン米とモチ米のハーモニーにある。苦味を抑えたスッキリした味の飲みやすさとジャスミン米の香りが特徴だ。ビアラオ・ダークは「コク、旨味の黒」。ドイツの高級濃色麦芽を使用した黒ビールで、ジャスミン米を炒って米の持つ香ばしさが引き出されている。外国人にも人気だ。「ビアラオ・ゴールド」は、「芳る、プレミアム」として、厳選された最高品種の中の最高級のジャスミン米を使用して甘く香り高いプレミアムビールとしてラオス最高級を売りにしている。
この定番の3種類に加えて、新しく売り出したホワイト(WHITE)、ホッピィ(HOPPY)、アンバー(AMBER)と合わせて6種類のラインアップがラオス国内で飲まれている。ビエンチャン市内の外国人観光客にも大人気のナンプの隣のコープチャイドゥー・レストランでは、6種類全てが揃っている。
ラオスの幸せの尺度
ラオスは人口600万人余りで、今も国際機関から後発開発途上国(LLDC)として位置付けられれている。2016年の国連開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI)は、170カ国中138位。アジアの最貧国の一つだ。
私がラオスに常駐していた2003年から2006年、ビエンチャンは「まどろみの国の首都」とも表現された。夕方になるとビエンチャンの街中はビアラオを飲む庶民で溢れた。経済の指標では貧しくても、ビアラオを飲んでいる時のラオスの人々は、今も昔も幸せそうだ。 「ビアラオは、ラオス人のビール。ラオス人は、真心の人」。ビアラオはそんなキャッチフレーズ販売されている。
「ラオスにはいったい何があるんですか?」。その答えは、「ラオスには、東南アジアで一旨いビアラオがあるんです」。そして、何より「ラオスにはラオス流の幸せの尺度があるんです」。私なら、そう答えたい。