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ブータン・ラオス 電力立国の成算

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ラオスのメコン川本流を一部せき止めてタービン建屋の工事が進むサイヤブリ水力発電所。完成後はここが本流になる=写真はいずれも村山祐介撮影

ブータン 経済次官ソナム・ワンディ(53

ブータン経済次官ソナム・ワンディ

電力は「ブータン開発」と同義語です。グリーンでクリーンな水力発電は経済開発の触媒として、国に資源を、国民に機会を与え、「国民総幸福」を高めています。1986年に最初の水力発電所が稼働しましたが、2007年に大型水力発電所ができたことで、政府歳入の4割が電力部門からもたらされるようになりました。水力発電と観光が牽引(けんいん)する形で、約30年間にわたって年7%ほどのペースで経済成長が続いています。

川が流れる約300キロに約7500メートルから約350メートルまで標高差があり、水力発電に最適な地形です。大半が(水をためない)流れ込み式ダムなので、環境面の問題もそれほどありません。3000万キロワット(KW)規模の潜在的な発電能力がありますが、まだその5%強の約160KWしか開発されていません。現在、計約330KW相当の発電所建設が進んでいます。

建設は多くの場合、インド政府が3割を贈与、7割を融資して、ブータン政府が主導権をもって建設し、完成後はブータン政府系企業が運営しています。全発電量の2割が国内向けで、8割をインドに輸出しています。電力不足のネパールやバングラデシュからも電力供給を求められていますが、現状ではインフラがありません。地域で電力を輸出入するための電力網が課題です。

ラオス エネルギー鉱業省エネルギー政策計画局長チャンサベン・ブンノン(48

エネルギー政策計画局長チャンサベン・ブンノン

ラオスには3000KWの潜在的な発電能力があります。外資を保護する法律ができた2010年から外国投資が急増しました。発電所は現在42カ所(発電能力計630KW)ですが、新たに48カ所(同844KW)で建設が進み、30年までにはさらに108カ所(同800KW)の建設計画があります。

電力は鉱物に続く2番目の輸出品です。開発するのは外国企業ですが、ラオス側にも雇用が生まれ、開発権料や税収も得られます。安い電力を生かして、銅などの鉱物資源を加工する企業を誘致したいと考えています。25年から30年の開発期間が終われば、発電所やダムは政府の所有になるので、大きなメリットがあります。

メコン川の自然環境を守って持続可能な開発にするため、世界銀行の協力で法整備をしたり、国際協力機構(JICA)の支援で人材を育成したりしています。隣国やNGOと相談して、ダムの設計をやり直すこともあります。魚の遡上(そじょう)や土壌、水質、安全性などへの心配が寄せられますが、魚が自然に遡上でき、国際基準に従って地震や洪水にも対応できる設計にしています。(懸念を示していた)ベトナムとカンボジアの政府関係者も視察に来ましたが、心配はないと納得していました。取材や様々な団体の視察も受け入れています。ラオス政府はオープンです。

日本 NGOメコン・ウォッチ事務局長 木口由香(49)

NGOメコン・ウォッチ事務局長木口由香

水力発電所に伴うダム建設は、住民の移転や農地の水没など、環境と社会に大きな影響を及ぼします。ラオスは農村部で暮らす人が多いのですが、メコン川の環境が著しく劣化したことで魚がとれなくなったり、移転した少数民族が新しい生活に適応できなかったりしています。メコン川下流にあるベトナムのメコンデルタでは土砂の流入が減って塩害が深刻化しています。

建設が加速した引き金は、ラオス中部にできた大型水力発電所ナムトゥン22010年稼働)でした。当時は世界的にダム建設を見直す機運がありましたが、世界銀行とアジア開発銀行が支援を決めたことで、水力発電で経済発展を目指すラオス政府にお墨付きを与えた形になりました。政府はその後、メコン川本流のダム建設にも手をつけ始めました。今では中国やベトナム、タイなど新興国の政府や企業が、環境や社会への配慮から世銀などが手がけにくい大規模開発にお金を出すケースが増えています。

ラオスは一党独裁で言論の自由がないうえ、2012年に著名な社会活動家が政府の関与が疑われる形で行方不明になってからは、ダム建設を議論できる雰囲気もなくなりました。新興国主導の計画には中止や見直しの仕組みがなく、これだけたくさんのダムをつくることがラオスの発展につながるのかが検証もされないまま、過剰な開発が進んでいます。