――「上質なチョコ」を推奨していますね。どんなチョコですか?
ひと言でいうと、人間のように個性があるチョコのことです。チョコは、カカオ豆の種類や発酵・乾燥の程度、焙煎やココアバターの量、練る時の温度などで味わいが変わります。
丹精込めてつくられたチョコには独自の個性がある。上質なチョコは単に価格が高いだけでなく、価格に見合うだけの手間ひまがかかっているのです。いろいろ食べ比べ、五感を駆使して自分に最も合うチョコを探すのは、音楽や美術の鑑賞と同じです。
――大量生産のチョコとは違うと?
上質なチョコには果物や草木などカカオ本来の複雑な風味があり、舌の上で味が変化していく。大衆的なチョコはシンプルで、砂糖や人工バニラの甘い香り、高温の焙煎による焦げたにおい、金属系のにおいなどがします。
大量生産の「ハーシー」や「キャドバリー」を食べて育った人にとって、その風味は楽しい思い出とつながっています。慣れ親しんだ世界に、上質なチョコがもたらす新たな世界を加えればいいのです。
――味を見分けるのは難しそうです。
3~4種のチョコを用意し、1センチ程度のかけらを商品名がわからないようにして並べます。まず、においをかぐ。木や花の香りがしますか?
次に、一つずつ口に入れ、かみ砕いて舌の上で溶かしながら、舌のどの部分で何を感じるかに集中してください。慣れれば、甘みから苦みへ、そして塩味へと味の展開を感じられます。
――豆の産地や品種で違いますか?
主流の「フォラステロ種」はプレーンで、複雑なアロマはなく、ミルクやフレーバーを加える大衆的なチョコに適します。世界の生産量の1%以下という「クリオロ種」は最も風味が豊かで、両者の交配種「トリニタリオ種」も香りがいい。
ただ、長年の品種改良のため純粋種は非常にまれです。また、同じフォラステロ種でも産地の土壌や気候、豆の熟成、発酵や乾燥で風味は変わります。豆が収穫時からどれだけ適切に扱われてきたかは、より重要です。
――人々のチョコの楽しみ方は、変わってきたのでしょうか?
一昔前、チョコの好みは単にダーク、ミルク、ホワイトという「色」で語られていました。やがて、ダークチョコの愛好者らを中心に、カカオの比率を気にするようになりました。
いまやさまざまなメーカーが、特定の産地や農園のカカオ豆でつくった製品を出しています。そうなると、たとえば同じマダガスカル産のカカオ70%のチョコなのに、なぜ味や価格が違うのか疑問に思うようになるでしょう。
――ワインに似ていますね。
そのとおり。カカオ豆の生産量は限られ、年によって収穫に違いがある。チョコの味はいつも均一とは限らないのです。味は生産者の姿勢にも左右されます。豆の種類や産地、品質に興味を持つと、チョコを取り巻く深い世界が見えてくる。味わう楽しみも広がります。
――お薦めのチョコはありますか?
好みはその時々で変わります。音楽や絵画の鑑賞と同じで、これという正解はないのです。上質なチョコの幅広い選択肢を知るだけで、人生はより豊かなものになりますよ。