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アイスは夏だけの食べ物にあらず、強く主張したい

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:
photo:Reina Kitamura

日本は今、ロイヤル・ウェディングでの英国旗のごとく、大通りに「氷」の旗がはためく季節だ。

わかります。日本の夏はおそろしく蒸し暑く、アイスクリーム─この場合、甘いシロップのかかったうずたかいかき氷のこと─は、涼を取る方法としてはかなり効果的といえる。

しかし、私がここで問題にしたいのは(問題になりますよね?)、夏に限らず、一年中アイスクリームを食べられるべきだということだ。

英国で育った幼い頃、1月にペットが捨てられるのを防ぐための運動があった。標語は「犬はクリスマスのためだけにいるのではありません」。アイスクリームにも同じ気持ちである。「それは夏のためだけにあるのではありません」と。

シチリアでは一年中ジェラートを食べる。2月、朝コーヒーを飲むときにはパンでアイスクリームをはさんだ「ブリオッシュ・コン・ジェラート」がつきものだ。7月半ば、夕方の散歩中にむしゃむしゃ食べるのと同じように。

シチリアのアイスクリームはすばらしいが、最もすばらしくかつ冒険的な味は、ローマのジェラート屋のものに違いない。イタリアの首都には、ローズマリー味にモッツァレラ味、そしてブルーチーズ味さえあり、開拓するにはひと夏かかる。

ニューヨークのウェストビレッジで食べたオリーブオイル味もとても気に入り、1週間毎日食べに通った。

パリでは誰もが愛する「ベルティヨン」の野イチゴ味、インドではペルシャの影響を受けたさわやかなミルクアイス「クルフィ」。

メキシコはアイスクリーム界の大家といえるし、粉末状にしたランの球根を使ったモチモチの伸びるアイス「ドンドゥルマ」はトルコを訪れる理由として十分だ。

アイスの殿堂日本も入れる

英国でアイスクリームトラックが売りにくる、チョコレートつきのソフトクリームはまずく、せっけんみたいだが、たまらなくなつかしい。

アイスクリームのある国々の中でも、日本は抹茶アイスだけで殿堂入りに値する。個人的には残りのアイスクリーム人生でモチを使ったアイスだけを食べていてもいいくらいだ。

さらに、私は日本の旅先で出合うクレージーな味も大好きだ。沖縄の紅イモ味は代表例で、塩味にしょうゆ味、四国ではうどん味さえあった。

イギリスで最も名の知れたシェフの一人、ヘストン・ブルメンタールは熱烈なアイスクリーム愛好家で、彼のレストランではベーコンエッグアイスを供し、レシピ本ではチーズオントーストアイスを紹介。高さ4メートルの世界最大級のアイスをつくったこともあり、液体窒素を使ったアイスを世に知らしめた。彼にナイトの爵位を与えたまえ!

こうして書いているうち、アイスクリームはひょっとしたらもっとも偉大なる食べものではなかろうかと思い始めた。夏だけにとっておいては、いっそう悲劇を招きかねない。

なぜ、ささいなことでこうも落ち着かないのだろう。

最近新しい街に引っ越し、嬉しいことに、大通り沿いのチョコレート店が本当においしいピスタチオジェラートを提供しているのを知ったからだ(おいしいピスタチオアイスは色でわかる。ほのかに灰色がかったくすんだオリーブグリーンで、実のところ必ずしも食欲をそそる色ではない)。

しかし、この辺りの店では冬にアイスクリームを出すのをやめてしまうことがわかった。そろそろプラカードを持って店の前に立つとか、地元の議員に手紙を書くとか、何かキャンペーンを始めようかと考えている。それまでは、食べられる限りのアイスクリームを食べ、お店が夏以外の季節も作り続けてくれるように仕向けられるか確かめずにはいられないのだ。

(訳・菴原みなと)