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北欧の浅煎りコーヒーの世界は、何がすごいのか?

ノルウェー通信
今年の北欧焙煎フォーラムで配布された、競技豆たち Photo:Asaki Abumi

あなたは、一日にコーヒーをどれほど飲むだろうか。

茶色のコーヒー豆は、もともとは赤い色の果実であり、農作物だ。

今、気候変動の影響で、豆の生産地に変化が起きている。私たちは、今の価格で、コーヒーをいずれ飲めなくなるかもしれない

高品質のコーヒーを、数十年後も飲みたい。生産地で働く人には、少なくともサステイナブルな農業のための適切な賃金をもらって生活してほしい。

そう思うなら、私たちは、この2点について、ふと考えてみる必要がある。

●自分たちの毎日のなにげない行動が、気候変動や環境問題にどう影響を与えているのか
●「安いコーヒー」が意味するものは、何なのか

北欧の高品質・浅煎りコーヒー

私は、北欧で焙煎される高品質コーヒー、「スペシャルティコーヒー」業界をこれまで取材してきた。

ノルウェーに来るまでは、日本でコーヒーを飲むことがなかった私が、この国から何年もコーヒーとカフェについて記事を書くようになった。きっかけは、オスロ発のカフェであり、東京に店舗がある「フグレン」の小島賢治さんと、北欧のコーヒー業界の人々との出会いだった。

オスロにあるフグレン・コーヒーロースターズで、コーヒーを入れる小島さん Photo: Asaki Abumi

コーヒーという飲み物のおかげで、毎日が楽しくなった(おいしいコーヒーがないと、私は記事が書けない)。人との出会いが広まり、商品価格や労働市場、気候変動問題など、様々なテーマを、コーヒーを通して考えることができるようになった。

コーヒーって、すごい。

国際コーヒー機関が発表する各国のコーヒー消費量においては、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、スウェーデンが毎回トップの常連国。寒くて暗い冬の期間が長い国では、ホットなブラックコーヒーが愛される。

9月にスウェーデン総選挙に取材に行ってきた時も、各政党の選挙スタンドではコーヒーが無料配布されていた。人と会話するときに、コーヒーは良い仲人さんとなってくれる。写真はスウェーデン社会民主労働党のスタンドにて Photo: Asaki Abumi

北欧の焙煎士たちの集会

北欧のスペシャルティコーヒー業界では、「ノルディック・ロースト」ともいわれる、「浅煎り」で、酸味が特徴的な焙煎がされる傾向がある。

オスロのトイエン地区で開催された焙煎カンファレンス Photo: Asaki Abumi

9月末、オスロでは、北欧の焙煎業界の関係者が集まる年に1度の集会「ノルディック・ロースター・フォーラム」(Nordic Roaster Forum)が開催された。

コーヒー業界にも、様々な種類の競技会や集会、イベントがある。普段は会社の奥で、焙煎機と数字のグラフを見つめながら、産地から輸入された緑色の豆を茶色に料理する、「焙煎士」たちの集まりは、店頭に立つバリスタが集まる行事とは異なり、オタク度がぐっと高くなる。

このイベントは、もはやサイエンスの世界。グラフ、数字、調査結果がパワーポイントでばんばん登場し、いくつものコーヒーを味見し、品質評価しあう。

各社が焙煎してきた豆を、参加者たちで味見し、評価する Photo: Asaki Abumi

豆の焙煎技術を競い、価格や産地の現状などについて議論し、ともに考える。話が濃いので、テーマによっては、私はよくわからないこともある(わかったふりをしても仕方ないので、周囲の人々に聞いて、勉強するのみ)。

カッピングというテイスティングをして、焙煎スキルを評価しあう Photo: Asaki Abumi

この会場で、私が一番楽しみにしていたのは、北欧のコーヒー業界の「レジェンド」といっても過言ではない、ティム・ウェンデルボー氏のトークタイムだった。

これだけ有名になっても、謙虚に、変わらず、自分の知識や体験を惜しみなくコーヒーを愛する人たちに共有する。自分が信じるコーヒー道を突き進み続けるティム・ウェンデルボー氏 Photo: Asaki Abumi
オスロにあるTim Wendelboカフェ。週末は行列となる。オスロ観光の際には、ぜひ立ち寄ってみてほしい Photo: Asaki Abumi

ウェンデルボー氏は、自身がコロンビアで購入した7万平方メートルのコーヒー農園についての近況を、このフォーラムで報告するようになった。

すでに900本の木を失敗して失ったというが、それでも残りの600本の木で試行錯誤しながら農業を続ける、自分の農地 Photo: Tim Wendelboe

バリスタから、カフェ経営者、焙煎士、生豆の輸入卸業者の経営者に。それだけでは足りず、頻繁に生産地に足を運び、自分で納得のいくコーヒーの木を栽培するために、農地を購入し、「コーヒー農家」になってしまった人。

2015年から育てている木。なぜかこのゲイシャ種の木は、すくすくと育っているそうだ Photo:Tim Wendelboe

生産者側に利益がまわるように、「安すぎる」コーヒー価格について考えてほしいと人々に語り掛け、生産地での人々の生活もインスタグラムなどで頻繁に発信してる。

人々の尊敬を集める同氏は、気候変動や環境問題が、生産地に与える影響も、身をもって知っている。昨年のフォーラムは、このことについて考えるプログラムが目白通しだった。

ウェンデルボー氏の発表を聞いていて、感心するのは、自分の「失敗談」を、惜しみなく皆にシェアすることだ。

育たない木、アリに葉っぱを食べられた木、枯れた木の写真を次々と見せる。作物を育てるには、畑の土壌もよくなければいけないと、コンポスト作りにも取り組む。これだけ頑張ってても、2018年にとれたコーヒー果実は3粒。

今年収穫した3粒 Photo: Tim Wendelboe

「これが農家の現実」と、同氏はコーヒー栽培がいかに大変かを伝える。「なぜ進歩が少ないのか?」ということまで分析して、自分がフルタイムで働く農家ではないことなど、反省点や対策も共有する。

会場からは、「おー!」という驚きの声や、笑い声が響く。

「未来は明るい。どう思う?私にはできると思う?」という同氏の問いかけには、会場からイエスの声が響いた。

北欧各国の焙煎士たちが集まる Photo: Asaki Abumi

環境や気候変動のために、なにができる?

カッピング用のコーヒーが並ぶ。どこが焙煎したかは、わからない状態で味見し、審査する Photo: Asaki Abumi

さて、気候変動や環境対策の話に戻ろう。では、私たちには何ができるか?「自分だけが何かしようとしても、変わらないのでは」と思いやすいテーマだが、ノルウェーではよく議論されている。

「カフェ運営者として、まず何かできることは?」と、ウェンデルボー氏に取材で聞いた。

ウェンデルボー氏の発表に、来場者は真剣に耳を傾ける Photo: Asaki Abumi

「できることから、始めたらいいのでは。夜は機械をOFFにして、電気を使わないなど、電気の節約。ゴミの仕分け。コーヒーかすのリサイクルとか。私の店では、コーヒー袋からアルミニウム部分を削除して、全プラスチックにして、プラスチックごみとして購入者が捨てやすいように変えました。お金の寄付を募って、コーヒーの木を日光から守るシェードツリーの栽培にまわしています。取引をする生産者にも、農薬をできるだけ使わないように呼び掛けています。カフェ経営者なら、オーガニックコーヒーを仕入れることもできますね」。

小さなことから、始めよう

ラベンダーやペパーミントの香りづけをした石鹸やスクラブ、体がすべすべになる Photo: Asaki Abumi

オスロにあるグルーテン社では、ティム・ウェンデルボー氏のカフェをはじめ、地元の飲食店から捨てる予定だった「コーヒーかす」をもらい、石鹸、体や顔を洗うスクラブに再利用している。

ウェンデルボー氏の店頭で売られている、透明な袋に入った豆は、食品ロス対策用 Photo: Asaki Abumi

ウェンデルボー氏の店頭で出すレベルまでにはいかなかった豆。捨てられずに、通常よりも安い価格で販売、それでも高品質。

観光地ガムラスタンからすぐのお店 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの隣国スウェーデンへ。首都ストックホルムにあるカフェ「ドロップ・コーヒー」。

食べていると、豆の皮のかすがかかっているとは、気づかない。おいしい Photo: Asaki Abumi

コーヒーをひいた後にでる薄い皮部分を、パンの上にのせて。

カスカラティーは、ノルウェーのカフェではめったにみかけない Photo: Asaki Abumi

本来は捨てられることが多い、果実の皮部分を「カスカラティー」として販売。ローズヒップティーのような味わい。

スウェーデンのカフェでは、ゴミ分別ボックスを店内のインテリアに取り組んでいる場所がほかにもあるという Photo: Asaki Abumi

ドロップコーヒー店内にあった、紙・プラスチック・メタルなどのゴミ分別フェルトボックス。おしゃれすぎて、店内にインテリアとして溶け込んでいた。

お店の小さな取り組みは、「あ、そうか」と、はっと気づかせてくれる・考えるきっかけになることもある。

コーヒーを買う側にも、できることはある。テイクアウトのカップに蓋やストローは必要かと、ふと考えてみる。使い捨てカップをできるだけ避ける。生産者との関係やエコ対策に取り組むブランドの豆を買い、カフェに行くことが、支援につながる。

コーヒーは、ただの眠気覚ましのカフェインドリンクではない。そのことを、北欧のコーヒー界の人々は、私に教えてくれた。

Photo&Text: Asaki Abumi