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授業で総選挙を語り合うノルウェーの高校生、若者の議論スキルは驚くほど高かった

ノルウェー通信
オスロにあるブリンダン高校の社会科の授業。高校で求められる政治知識と議論スキルは、想像以上に高かった 撮影:あぶみあさき

先生は生徒を2グループに分けて、片方のグループが口頭テスト中には、もう一方のグループは課題をこなすように指示をした 撮影:あぶみあさき

まずは口頭テストの様子を観察してみよう。テーマは、富裕層の資産に税を課す「富裕税」で、導入賛成派と反対派に分かれて議論する。富裕税はノルウェーの選挙では定番の争点だ。

「討論は楽しいよね!」「ばかなことを言ってしまうことを怖がらなくてもいいんだよ」「君たちが準備してきたっていうことを情報源と統計を使いながら証明して」「たまに話がごちゃごちゃになってもいいから、熱意を見せてね」と先生は笑ってテストを開始した。

■ロールプレイを重視する教育

例えばこのような意見が出る。

富裕税に賛成派

  • 格差が小さくなり、より公平な社会になる
  • 富裕税で集まったお金は学校や病院づくりに使われ、不満を訴える看護師や先生のストライキが減る
  • 放課後に通える児童保育施設が増えて、子どもたちにより平等なチャンスが与えられる

富裕税に反対派

  • 富裕税があると企業が成長しなくなる
  • 富裕税がないほうが経済が伸びる・国際市場でもノルウェーが伸びる
  • 富裕税がないほうが、小企業が得意な「新しいアイデア」がたくさん生まれる
選挙の争点を賛成派と反対派で討論する。これがこの国のテスト風景だ 撮影:あぶみあさき

ノルウェーではこのようなロールプレイや議論が教育の場で重要視されている。テスト中には、よく話す生徒と黙っている生徒がいた。先生は「君はどう思う?」と発言が少ない人にチャンスを振る。

途中で夢中になりすぎて、暴言を吐いてしまう人もいる。そういう時は先生がさっと手で合図して、相手の勢いを抑えていた。

議論が進む中で、間違った情報が出始めると、「ちょっとここは正したいな」と先生が助け船を出すこともあった。

ノルウェーのテレビ番組ではよく与野党の議論番組が放送され、両者の間に立ち番組を進める司会者がいるが、まさにその役割を社会科の先生が担っていた。

生徒はポイントを紙にまとめていた。討論の際に手元にあってもいいが、紙を暗記したり棒読みしたりする生徒はおらず、メモとして使用するのみだった 撮影:あぶみあさき

富裕税がテーマといっても、その税金の使い道となると不動産、雇用、経済、ノルウェーの石油産業、税金など、いろいろな知識やデータが必要とされる。教室は笑いに包まれることもあり、討論が熱を増すほど、先生は楽しそうだった。

では、このテスト中に別グループはどのような課題をしているのだろうか。

■高校生が選挙結果を分析する

グループ作業では課題を互いに助け合いながら筆記で答えをまとめる 撮影:あぶみあさき

課題の内容を見せてもらった。

  • 選挙で勝った政党は?
  • どの政党同士が連立するか?連立する上での課題は?
  • 選挙結果を分析しなさい
  • なぜ労働党は緑の環境党と協力したくないのか?

私は「メディアが今熱心に話題にしていることについて、説明するスキルを高校生に求めるんだ……!」と驚いた。もちろん数日前の選挙内容や最近の政党同士の亀裂の事情なんて、教科書には載っていない。高校生たちは「ニュースを普段から見ている」ことを前提に授業が進んでいる。

「普段からニュースを見ていないと、授業にはついていけなくなるよ」「僕は公共局と無料のネットニュースは最低でもチェックする」と話す高校生たち。ニュース番組や新聞記事はこの国では当たり前の教材だ。

■話すことが得意じゃない人は?

「自由党と進歩党が協力しにくい理由は?」「なぜ左派社会党と中央党にとって政権連立は難しいのか?」という答えを話し合う 撮影:あぶみあさき

ノルウェーでは大学受験がない代わりに、高校での普段からの成績の平均点が、どの大学の学科に入学できるかを左右する。誰もがこの時間を楽しんでいるわけではない。「僕は政治に興味がない。だから授業がよくわからない」という人もいた。

「話すことが得意じゃないと、社会の成績が悪くなるの?」と聞いてみると、このような答えが返ってきた。

「そういう場合は筆記試験でなんとかすることもできるよ。書くと話すの両方ができたらいいね」

「人によるけど、口頭発表が苦手ですごく不安になる人もいる」

「中学校ではプレゼンばかりだったから、慣れるよ」

「小中学校でも議論する時間はあったけれど、テーマはもっと簡単だった」

■「次の選挙では投票するよ」という当たり前の空気

ノルウェーでは2年後に地方選挙があるので、クラス全員が初めて投票できることになる。

「2年後は絶対に投票したい!」

「僕は自由党に投票するんだ」「私は左派社会党!」

「うん、次の選挙では投票するよ。投票しないなんて、もったいないよ。残念すぎるよ」

すでにどの政党に投票したいかも決めている人もいて、「え、なんでその政党?」と会話は盛り上がった。楽しそうに話が進んでいる空気に触れていると、取材している私まで気持ちがほっこりした。

カスパールさん(写真左)らブリンダン高校の生徒たち。授業で政治を学び、学校で模擬選挙が開催されることで、「いつかの選挙で自分はどの政党に投票するか」を決めるのに役立つと生徒たちは答えた 撮影:あぶみあさき

カスパールさん(15)は「最初は政治って難しいなと思ったけど、政治の話になんとかついていければ、なんとかなる。どうやって政治の話についていくのかって?ニュースを見て読んで、いろいろな意見があることを受け入れることができればいいんだよ」と話した。

■今から始めないと間に合わない

「社会の授業では、政治の理解力と議論スキルの両方が必要」と答える先生 撮影:あぶみあさき

まだ投票権を持っていない高校生が、なぜ政治や選挙の勉強をここまでするのか先生に聞いてみた。

スヴェッレ・ビョーンスタ先生「直前に突然全てのことを理解することはできません。次の選挙までに準備しておく必要がありますからね」

「高校の1年間の社会の授業では差別なども学ぶので、政党政治などの政治だけに集中できるのは15時間くらいでしょうか。高校生は中学校でも政治は勉強しますが、これでもまだまだ勉強時間としては足りないと思っています」

政治を取りあげることで「中立的ではない」とクレームがくることはないそうだ。「教師を信頼している社会ですからね」と先生は答える。

ノルウェーにいると、多くの人が政治について意見を持っており、「話し始めると止まらない人」によく出会う。「中学や高校に通っていた頃の私だったら、こんなにずっとしゃべっていられるほどの、自分の意見や政治の知識がないな」と私は思うのだが、学校の教室を除くと、「こういう場所で練習していたんだ!」とカルチャーショックを受けるのだった。