4月14日、フィンランド総選挙が行われた。北欧各国の選挙運動を研究している私は、ノルウェーから首都ヘルシンキへと渡り、1週間で現地の選挙活動を取材。
日本と違い、選挙運動に厳しい決まりがあまりない北欧。各党は未成年の子どもや若者たちも巻き込んで、政治の話をする。様々なグッズや食べ物・飲み物を無料配布することが可能(さすがに現金を配布する党はいない)。
北欧の選挙期間は、まるでお祭りのようで、楽しそうだと私はよく思う。市民にとって、政党の党員になることは、日本でいうとクラブやサークル活動のような感覚に近いこともある。
コーヒー、ケーキ、ソーセージをどうぞ!
政治の話をする時に、「コーヒー」は絶対にあったほうがよいアイテムだ。
北欧各国は、国民一人当たりのコーヒー消費量が世界トップクラス。
ノルウェーやスウェーデンでも、コーヒーは大人気。「あって当たり前」のもので、コーヒーが用意できていない政党は、国民のライフスタイルを何も理解していないということになる。コーヒーが本当に大好きなので、ないと市民はがっかりするのだ。「コーヒーなしで、私たちと話をしようなんて、甘い!」というのが市民の気持ちともいえる。
開票日がある週は、ヘルシンキでは時に雪が降っており、気温は1~5度だった。予想以上に寒かったので、国民連合党のスタンドにあったストーブの傍で、コーヒーを飲みながらインタビューをしつつ、私はぬくぬくと温まっていた。
隣に座っていた親切な女性は党員なのかと思ったが、「いえいえ、私は党員じゃないわよ。もう事前投票もしちゃったわ。こことは対立する政党にね。寒かったからコーヒーを飲みたかったのよ」と笑いながら、こっそりと話してきた。
ノルウェーでは、定番の家庭のおやつである「ワッフル」が配布されることが多い。フィンランドではワッフルは見かけることはなかった。
だが、現地の人々に、「ソーセージは食べたか?」と何度も聞かれる。
「たまにソーセージを配っている党もあるよ!私はこの前どうしてもお腹が空いていて、好きじゃない政党だったけど、ソーセージが食べたくて、党員たちと政治の話をしたよ」。
探してみたら、フィンランドで極右とされる「真のフィンランド人」党と分離したばかりの「青の改革」党がソーセージを配っていた!
私もこの時はお腹が空いていたので、喜んでいただく。
ムーミンとマリメッコでイメージ戦略?
「さすがフィンランド!」と思ったのが、取材現場のあちらこちらで、フィンランドが生んだブランド、マリメッコ、ムーミンを見かけることだった。これはノルウェーやスウェーデンではない光景だ。
フィンランド中央党からもらった、市民に無料配布している選挙キャンペーンのカレンダーが、かわいすぎる
— Asaki Abumi 北欧ノルウェージャーナリスト @フィンランド語勉強中 (@Asakikiki) 2019年4月11日
I got a super cute calendar from Finnish Centre party@keskusta pic.twitter.com/7czqLJHYhN
個人的に衝撃的でおもしろかったのは、ハエ叩き
ノルウェーやスウェーデンの選挙の取材時期は夏なのだが、フィンランドは4月と、雪がまだ降る春始めの時期。イースター(復活祭)が近づいていたため、イースターのシンボルである黄色い花を、党のスタンドや選挙カーに飾っている政党が多かった。
ノルウェーでは見かけたことがないのだが、フィンランドではイースターの時期になると、「イースター草」という緑の草を家で飾る。野菜として食べるわけではなく、種から育てて、小さなひよこやイースターエッグを隠して飾ったりするそうだ。
このイースター草の種は現地のスーパーでも販売されているのだが、各党は無料配布していた。種が入った紙の袋には、立候補者や党の情報が書かれている。私も種をたくさんもらったので、家で育ててみようと思う。
振り返って、1週間の取材中に意外で驚いたのが、各地でマリメッコ、ムーミン、アラビアのデザインを見かけることだった。選挙ポスターでもマリメッコのワンピースを着て写真撮影をしている政治家もいれば、選挙特番でもマリメッコの服を着ている司会者や政治家を何人か見かけた。
ノルウェーやスウェーデンでは、このようにフィンランドに匹敵する、選挙現場で見かけるほどの市民の生活に根付いた強いブランドはあまりないような気がする。ブランドを使っている党には、イメージ戦略を考えている人もいるのだろうが、「ただ好きだから」、「家にあるから」使っている場合もありそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi