日本から「Bento」文化が入っていったフランスでは、弁当箱の需要も高まっている。なかでも、弁当箱を作る、あるフランスの会社の製品は75カ国・地域で販売され、弁当箱や水筒など年間約100万個が売れているという。
フランス中部クレルモンフェランにある「monbento(モンベント、フランス語で「私の弁当」)」を訪ねた。
本社の陳列棚には2段式の弁当箱や、動物の絵が描かれたカラフルな子ども用のもの、日本式に包む布などもある。最近では、車のプラグなどにつないで温めることができる弁当箱が人気だという。
主な価格帯は大人用で約30〜45ユーロ(約4700〜7000円)と弁当箱としては高めだ。しかし、「フランス発、シンプルでスタイリッシュなデザイン」とファッションや雑貨、食品を扱うサイトで紹介されるなど、人気を得るようになった。
創業者の一人ファビアン・マレさん(41)はもともとプロダクトデザイナーで食への関心も強かったと言う。「日本の文化全体が好きだった。漫画には弁当を中心に、日本食をどう食べているのかが描かれていて、それを見るのも大好きだった」。日本の弁当箱を取り寄せて参考にしながら、欧州向けに大きめにアレンジした。
モンベントのSNSには、使い方の例として、パスタやラザニア、サンドイッチ、クスクスなどフランス人の食卓にのぼる料理が詰められ、サラダやデザートは別の段に入れられた写真が投稿されている。
「Bento」という言葉の認知度が高まるにつれて、モンベントも知名度が上がった。2018年、車で有名なプジョー傘下のプジョーフレールインダストリーが、モンベントの大株主になった。
現社長のグレゴワール・マントゥーさん(44)は、フランスにはもともと、「ガメル」と呼ばれる容器に昼食を入れて働きに行く習慣が一部にあったが、広く弁当づくりをする文化はなかった、と話す。だが、「習慣が変わり、弁当箱に興味を持つ人が増えてきた」。
販売は半分以上がオンライン経由で、売れている国はフランス、中国、米国、ドイツ、スイスと続く。
マントゥーさんは、世界中で売れるようになった要因を二つ挙げる。
「一つは、インフレで支出に慎重になっていて、自宅からオフィスに食べ物を持って来る人が増えていること。もう一つが、家族との時間を増やすため、(仕事を早く終わらせようと)ランチ時間を短くしたい人が多いことだ」
さらに、フランス政府が2020年、プラスチック製品の削減に取り組む法律を制定したことも追い風となった。プラスチック製品の使用や販売を順次禁止し、2021年には飲食店で使っていたプラスチック製ストローや持ち帰り用カップのふたの販売が禁止になった。
同年、モンベントはレストランの持ち帰り用など業務用の容器として繰り返し使える弁当箱「モンベント・プロ」シリーズを発売。レストランがこの弁当箱を使い、食後に客に返却してもらえば、レストランはそれを洗浄して再使用(リユース)できる。
このシリーズを使うレストランによると、客はエコへの意識も高いといい、空の弁当箱を持ってレストランに来てくれることでリピーターとなり、他の人にも勧めてくれる効果もあったという。