「石器時代」「青銅時代」と人類の歩みを振り返ると、今はまさに「プラスチック時代」だと言われている。プラスチックゴミが世界の海を漂流し、海には魚よりプラスチックが多くなる日がそこまで来ている。プラスチックが海洋生物や植物の生命を脅しているという深刻な問題が連日のように報道されているが、私たちの生活にも影響を及ぼしている。海を漂流して数ミリの「マイクロプラスチック」となったものを魚や鳥が食べ、またそれを人間が食べているからだ。こんな「プラスチック時代」に私達は一体何かできるのだろうか? 持続可能な社会づくりの文化が根付くサンフランシスコでは、「ゴミゼロ」運動がスーパーから始まった。人と企業が環境を思いやる価値観で繋がっている。
食品トレンドはエコでシンプルなデザイン
サンフランシスコでは、数年前から不燃廃棄物であるレジ袋、発泡スチロールの製造を法律で禁止しており、街でレジ袋を持った人は見かけない。スーパーは新聞に折り込み広告を入れず、店内も広告はタブー。あるのは、どこから来た食材なのかという表示のみ。売り場はとても見晴らしが良い。
商品はシンプルでリサイクル可能なパッケージに包まれ、生産者の思想が伝わるクールなグラフィックがトレンドだ。かつて日常に存在した“ビニール袋”は、植物を原料にした土に還る袋へと急速に入れ替わり、買い物客は、陳列された野菜をその袋に入れていく。レジでは、ほとんどの客がカードかアプリでスキャンして支払い終了。紙のレシートも受け取らない。各自が持参したエコバックに買ったものを入れ、レジはスムーズに流れる。「無駄な時間とゴミを省く」生産者と消費者がリンクする“エコマインド”がSFライフだ。
プラスチック代用パッケージの進化
「ゴミゼロ」運動に加わっているのはスーパーだけではない。食品業界と包装資材メーカーも急速に開発を進めている。エコパッケージ製造業大手のBe Green社は、米国スーパー大手のWhole Foods や食材宅配業者とタッグを組んで成長した。植物を材料に加工した堆肥化できる容器など包装素材の工夫だけではなく、野菜用パッケージの底に根が入るような溝を作って少量の水を入れ、陳列中にも野菜が水を吸って鮮度が保てる工夫をするなど、顧客の要望に応じて野菜の「見せ方」にも配慮したデザインを提案している。
消費者もまた添加物や保存料を使用してない商品や持続可能なパッケージを選ぶ傾向にあるため、農家とパッケージ業者、そして消費者がウィンウィン・シチュエーション(両者が勝利する理想的なマーケティング)が成り立っている。サンフランシスコのスーパーの食品棚はこの10年で一変した。
プラスチックボトル排除の動きと生活習慣の変化
海洋プラスチックゴミの中でも最も深刻な被害をもたらしているペットボトルの製造も、ついにブレーキがかかった。ペットボトルは再利用できる素材といえるが、モノには限度というのがある。大陸から溢れ出たペットボトルは川から海に流れ、最終的にマイクロチップとなり海洋生物が飲み込んでしまう。ここではスーパーのドリンクコーナーの商品は、ペットボトルから瓶詰めに変わリ、消費者の生活から排除されつつある。
理由は環境問題以外にもある。プラスチックは外気を通すため、消費者側に「プラスチック臭い」「殺菌剤のような味がする」などの声があることだ。そこで今、流行しているのがガラス製の「マイペットボトル」。オフィスやジム、空港、公共施設各所に設置されている水タンクから直接水を補充し、バックに吊って持ち歩くのが慣習化した。この現象ででボトルホルダーの市場はアップし、おしゃれで使い勝手の良いボトルの種類が増えた。
Berkeley市にある大型スーパー、「Berkeley Bowl」では、アメリカで大人気の健康ドリンク、コンブチャ(紅茶キノコ)のタップ(蛇口)スタンドを全米で初めて設置し、5種類のタップから好きなコンブチャを瓶詰めして瓶の重さを引いた値段をレジで払うというシステムを導入している。タップ蛇口からドリンクをリフィルするため、お持ち帰りの瓶もエコでクール(カッコ良い)なデザインで、持ち歩く人の「優越感」も誘ってる。このシステムはビール醸造所では5、6年前から一般化され「ゴミゼロ」運動は各方面に広がっている。
究極のオーガニックスーパーは「量り売り主義」
サンフランシスコの究極のオーガニックスーパー、「Rainbow Grocery」のゴミゼロ運動は半端では無い。オリーブオイル、味噌、ナッツ、小麦粉から米まで量り売りを長年実現している。「本質主義」の客にとって大切なのは原料と生産者の思想で、「広告にお金を払わず良質の商品に対して適正価格を支払う」のがここでは常識となっている。客は皆、慣れた手つきで持参した容器に目的の食品を入れ、必要な重さを量ってレジに持って行く。この透明性が高い買い物スタイルに慣れると、やがてゴミとなる容器にこれまで金を払ってきたことが馬鹿らしく思える。
ミルクの棚は流石に量り売りではない。容器は紙パックが多いが、瓶詰めのミルクも増えており、瓶を返すとキャッシュバック(払い戻し)されるシステムになっている。ーー 要するに昭和の時代の「牛乳瓶」が復活しているのだ。ミレニアル世代の読者には申し仕分けないが、私が子供の頃、家の近くにあったのはコンビニではなく八百屋さんで、新鮮で美味しい野菜が出回っていた。それから大企業による大量生産に飲み込まれ、ゴミまみれとなったしまった現代。ここでは古き良き時代の少量生産のクラフト(手作り)や、リサイクル可能なパッケージに戻そうとする動きが進んでいる。
エコだけどインパクトも与えるパッケージ
エコな食品パッケージは地味ながらもインパクトは十分にある。例えば、コーヒー豆のパッケージの主流は、再生カーボン紙にブランドカラーやロゴを印刷をしたもの。最近はアーティストによる手書きグラフィックデザインを採用し、若い消費者への訴求力を高めているようだ。「ブルーボトルコーヒー」は、リサイクル可能な新デザインを取り入れている。
クラフトチョコレートの先駆者である、「ダンデライオン・チョコレート」は、インド製のリサイクル衣料繊維入りのコットンラッピングの包装で一世風靡した。食スモールビジネスを応援するインキュベーター、「La Cocina」では、Naococoa のチョコレートボックスがまるで石鹸箱のような容器で高級感を表現し独自のブランド力を発揮している。
次世代のエコパッケージに挑む業者達
サンフランシスコでは「ゴミゼロ」運動や持続可能なライフスタイルへの関心が高いが、米国全体で見れば、プラスチックゴミ対策はまだ途上段階だ。しかし、ようやく大量廃棄物の出所であるファースフードチェーン大手の「マクドナルド」やコーヒーチェーン店の「スターバックスコーヒー」がパッケージ改革を宣言し、世界の店舗でプラスチックストローを廃止するほか、エコフレンドリーな容器の採用に取り組んでいるのは明るいニュースだ。
「プラスチック時代」に遭遇する私達に出来る事は、環境を思いやる生産者を支持し、持続可能な生活を心掛ける事ではないだろうか? もし生産者と消費者が同じ思いでつながれば、エコで健全な社会作りが進んでいくに違いない。