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ポピュリズム、それは危険な存在か、民主主義の促進剤か

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「ポピュリズムとは何か」著者の水島治郎・千葉大教授=相場郁朗撮影
「ポピュリズムとは何か」著者の水島治郎・千葉大教授=相場郁朗撮影

水島教授はオランダ政治史が専門。ピム・フォルタイン、ヘルト・ウィルダースといったオランダのポピュリスト政治家に関する研究を糸口に、欧米各地の事例も比較しつつ、ポピュリズムの概念整理を試みた。

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「ポピュリズムとは何か」

――ポピュリズムについては、様々な説明が飛び交っています。結局、ポピュリズムとは何なのでしょうか。

「ポピュリズムを日本語に直訳すると、『人民主義』または『人民第一主義』になると思います。ラテン語の人民(ポプルス:populus)に由来する言葉ですので。ポピュリズムをイデオロギーとして位置づけると、『民衆』『人民(ピープル)』こそが最も優先されるべきだ、という考え方でしょう。これがまさにポピュリズムの理念の1丁目1番地ですね」

「ポピュリズムは、人民が何を欲するかにかかわらず、人民の意思に最終的な正当性を置くことを説きます。だからこそ、人民の利益に反するものはたたきつぶそうとします。ポピュリズムにしばしば見られる不寛容、自由貿易批判やエリート批判も、この人民至上主義からきています」

――『人民重視』を掲げても、それは単なる口先だけで終わりませんか。

「多くの場合、それは口先で終わるでしょう。ただ重要なのは、ポピュリスト政治家を熱烈に支持する人の中には、これまで既成の政治家や政党に裏切られてきた、という思いを持つ人が多いということです。だからこそ既成の政治エリートを十把一絡げに批判し、人民の側に立つと主張するポピュリスト政治家が支持を集めるのです。近年、各国の選挙で既成政党が支持を減らしていますが、これまで系列団体や支持基盤に支えられてきた従来型の政党では受け止めることのできない、多様な人々をまとめあげるシンボルとして、『人民』は有効なのでしょう」

ポピュリズム研究の二つの流れ

――ポピュリズムはしばしば「大衆迎合主義」と訳されます。でも水島先生はこの訳語に疑問を呈しています。「どこかに『大衆』『人民』『人々』は誤った判断をしかねない存在だという思い込みがあるのでないか」「大衆の言うことに従っていたら、それは誤った判断に結びつくという、少し『上から目線』的な、お説教的な部分があるように私には思える」と述べていましたね。

「『大衆迎合主義』という用語を用いるのは、大手メディアに多い印象です。しかし少なくとも、今の政治学者で『大衆迎合主義』と呼ぶ人は、ほとんどいないのでないでしょうか。ポピュリズムに対して警戒感を隠さず、批判的に見る研究者でも、今はもうこの用語をほとんど使いません」

――ポピュリズムに対しては、研究者の間でも見方が大きく異なるようですが。

「私の立場は、オランダ人研究者カス・ミュデ氏の主張に比較的近いと思います。ポピュリズムを批判しつつも、民主主義の中で果たす役割にも注目し、正負双方の面を見る考えです。ミュデ氏については、白水社から最近翻訳が出ました(カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル著「ポピュリズム デモクラシーの友と敵」)。その一方で、プリンストン大学のヤン=ヴェルナー・ミュラー教授のように、ポピュリズムを危険な存在として警戒する見方があります。ポピュリズムの解釈には、この二つの流れがあるように思います」

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ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏 ©KD Busch

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――それは、どの国のポピュリズムを念頭に置いているかによっても違うのでないでしょうか。例えば、ハンガリーのオルバン政権を見ると、危険だという意識がやはり強くなります。

「そうですね。特にミュラー氏はハンガリー政治に詳しいので、ハンガリー現政権のように、人民の名を借りつつマイノリティーを露骨に排除する高圧的な体制を『ポピュリズム』として念頭に置いているでしょう。でも、私の場合はオランダが専門ですから、ポピュリズムが出てきても、これまでの民主主義がやすやすとひっくり返されるとは考えにくい」

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総選挙での勝利を受けて支持者を前に演説するオルバン首相(中央)=2018年4月8日、ブダペスト、吉武祐撮影

「ポピュリズムについてオランダの知識人と話す機会があったのですが、オランダの2017年総選挙の投票率が、過去30年で最も高かったことを彼は引き合いに出して、『ポピュリズムの台頭により、人々の政治への関心が喚起された面もある。あまり悲観的になるなよ』と前向きにとらえていました」

――随分楽観的ですね。

「危なっかしい政党も含めて、多様な政党が競り合う、それが民主主義ということなのかもしれません。彼らが、自国の民主主義に対してゆるぎない信頼をもっていることを実感しました」

――ということは、オルバン政権のような問題を彼らはどうとらえているのでしょうか。民主主義の問題が生じているというより、旧共産圏が抱える特有の問題だ、という意識ですか。

「ヨーロッパの先進地域であるオランダや北欧の視点からだと、そう映るのかもしれません。ただ、ミュラー教授のように旧東欧の現実を目の当たりにしている人は、違う見方をしているでしょう。ミュラー教授が問題にするのは、『デモクラシーに名を借りた高圧的な体制』だと思います。確かにそれは、デモクラシーとは言い難いですよね」

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オランダを代表するポピュリスト政治家、ウィルダース氏=2017年3月、ヘーレン、山尾有紀恵撮影

――ヨーロッパのポピュリズムは互いに連携を深めていますよね。最近でもオーストリア、イタリア、ドイツの右翼や右派強硬派の内相が「反移民の枢軸をつくる」といったニュースも流れました。彼らは、ロシアのプーチン政権などとも密接な関係を築いています。こうした勢力が協力するようになると、脅威ではないでしょうか。

「あれは驚きのニュースでしたね。あんな『枢軸』なんて言葉を不用意に使っていいのか。しかも、独伊オーストリアにハンガリーとなると、本当にかつての枢軸ですよ。次は日本にも誘いが来るのでしょうか」

――あれは、どこまで本当に危険なんでしょうか。

「ロシアや中国が欧米の世論に働きかける『シャープ・パワー』の動きの一環と理解できるのではないでしょうか。民主主義国の内部で、民主主義的価値観を必ずしも共有せず、外部の大国と連携して動く政治勢力が力を増しているとすれば、それは注意しなければなりません。他方、自国の民主主義への確信が根づき、共有されている国であれば、恐れることはないとも思います。とはいえ、かつてだったら『枢軸』の出現に対抗するはずの二大国、つまり米国・ロシアはあのような状況にあり、『反枢軸』どころではないところが気になりますが」

排外に走る非正規労働者?

 ――ポピュリズムそのものも、時代を経るにつれて変化しているのでしょうか。

「1990年代までのポピュリズムは、自由市場の重要性や規制緩和の必要性を訴えるものが多く、その意味で改革的な要素を持っていました。ところが、その後グローバル化が進んで、工場移転など産業の空洞化が生じると、今度は『移民によって自分たちの仕事が奪われている』『移民を排除して雇用・福祉を守れ』という主張に転じていきます。いわゆる「福祉排外主義」です。社会的な保護を求める意識と移民排斥との融合です。その方が選挙で支持を集めるからです。こうした変化は、ヨーロッパのどこの国にも見られます」

――確かに、冷戦時代のヨーロッパ右翼は、基本的にレーガンやサッチャーを支持していたのに、最近では保護主義を言い出しています。

「その通り、政策の内容は近年かなり変わっています。ヨーロッパはグローバル化の面で日本より10年は先に進んでいますから、福祉排外主義を支持する層が21世紀に入る頃にははっきりと表れてきました。アメリカでも、ラストベルトはその典型ですよね」

「日本でも、そのような変化が少しずつ見え始めています。最近、注目すべき本が2冊出ました。一つは橋本健二著「新・日本の階級社会」(講談社現代新書)、もう一つは吉川徹著「日本の分断 切り離される非大卒若者たち」(光文社新書)です。これらの本から見えてくるのは、非正規雇用、若者、中低学歴といった層が現代の日本で一つの社会層として姿を現し、安定的な雇用と生活にありついている人々との間に分断が生じていること、そして前者の人々が福祉排外主義に流れる危険性が出てきていることです。かつての日本には一定のまとまりを持った『労働者層』が存在したのですが、今はその中でも正規か非正規かでモノの見方が大きく異なっています。今後福祉排外主義が浸透するとすれば、まずは非正規労働者層がターゲットになるでしょう」

 ――非正規雇用の層が排外的になりやすいのは、論理に沿っているのでしょうか。それとも、単なる当てつけとして移民を標的にするのでしょうか。

「当てつけと言えば当てつけですが、福祉国家体制では『マイノリティーが優先的に保護されている』という意識を人々が抱きがちなこととも関係するでしょう。例えば、旧東ドイツ地域で右翼『ドイツのための選択肢』(AfD)が支持を得た時も、その論理は『難民よりも私たちの生活を優先せよ』といったものでした。自分たちこそが見捨てられている存在なのだ、という意識が強いのです」

 日本型ポピュリズムの特徴

 ――日本の場合、「見捨てられているもの」「自分たちよりも優先されているもの」は何だと受け止められているのでしょうか。

「移民難民問題はあまり論議になりません。いま福祉排外主義を声高に唱えても、強力な動員手段になるとは思えません」

「アメリカのラストベルト、イギリスのイングランド北部、フランスで言うと北部の旧炭鉱地帯に見られるように、欧米ではここ数年、見捨てられた地方がポピュリズムの強力な支持基盤となってきました。グローバルでリベラルな大都市と、置き去りにされた地方、といった対比があって、置き去りにされた人々を動員することによってポピュリズムはグローバル・リベラリズムに対抗したのです」

「日本の場合、都市と地方の格差は顕在化しているものの、ラストベルトのような荒廃地域が広がっているとは言えません。自民党は地方に基盤を置き、地方交付税などの制度を使って、繁栄する都市の富を地方に分配してきました。日本では地域間格差が一定程度の範囲に抑え込まれてきたわけです。つまり、既成政治が地方優先だった。2018年の自民党総裁選では、石破さんも安倍さんも、競うように『地方重視』を訴えていましたよね。そうなると、反既成政治は、地方からは起こり得ない。反既成政治ののろしが上がるのは、むしろ大都市からしかない」

――それが、橋下徹氏であり、小池百合子氏であり……。

「そして河村たかし氏です。日本の三大都市圏の地方選挙で自民党が敗れ、大都市圏の利益を重視するポピュリスト的な地域政党が権力を握っているのは、そのためです」

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JR名古屋駅前で街頭演説をする河村たかし・名古屋市長(右)と、希望の党の小池百合子代表(当時)=2017年10月、名古屋市中村区、戸村登撮影

「グローバル化の波にまだ十分さらされていない日本では、地方への利益配分システムが生きているだけでなく、さらに強化されようともしている。これは、他の国の既成政党がグローバル化の担い手として、地方を放置してきたのとは、対照的です。アメリカはもともとそうだし、ヨーロッパも欧州統合を進める既成政党は、国際競争を重視して大都市に軸足を置いてきました」

「日本でも格差は広がっているし、外国人人口も増加の一途をたどっています。しかしヨーロッパ型のポピュリストは日本ではまだ、力を持たないと思います」

――欧米のポピュリズムには強いエリート批判が含まれていますが、日本ではどうでしょうか。

「欧米の場合、グローバル化が進行しているだけに、『グローバルエリートが国民の利益を裏切っている』といった言説がそれなりに説得力を持ちます。日本では、自民党はそこまでグローバル化に突き進んでいるわけでもない。ただ、日本でも『都民ファーストの会』や『希望の党』が一時的に躍進した時のように、既成政治、しがらみ政治、既得権益に対する批判は、一定の動員力を持つ可能性があります。その面では、イタリアと近いかも知れません。戦後、日本と同様に恩顧主義政治が定着したイタリアでも、既成政治に対する批判は強い。それが『五つ星運動』に結びついています」

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当時「都民ファーストの会」特別顧問だった小池百合子都知事=2017年11月

――日本でも、小池さんがもう少しうまく立ち回っていれば、ポピュリズムの時代が来ていたのでしょうか。

「状況は違っていたかも知れませんね。小池さん自身はもともと保守的な人物ですが、それを東京都で打ち出しても支持は限られる。むしろ彼女が前面に出したのは、『女性』と『環境』でした。それが、都民の中間層の支持を受け、反既成政治の立場も加わって、少なくとも都知事選や都議選では成功したのです。ただ、全国政党として成功するまでには、まだまだ壁があったようにも思います」

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水島治郎教授の共編著新刊「ポピュリズムの本質」(中央公論新社)