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再分配の政治が行き詰まり、そして労働者はポピュリズムに引き寄せられる

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吉田徹・北海道大教授=国末憲人撮影
吉田徹・北海道大教授=国末憲人撮影

■吉田徹氏インタビュー(上) だれが何をしたら「ポピュリズム」なのか その本質を深く考えてみる

労働者はなぜ変節したか

  ――各国でポピュリズムに対する労働者層の支持が目立ちます。これは、各国で社会民主党勢力が衰退していることの裏返しでしょうか。

「ポピュリズムの伸長と社民政党の衰退はコインの表と裏の関係にあります。労働者が支持するポピュリズムというのは、21世紀のポピュリズムの最大の特徴といっていいかもしれません。現在のポピュリズムがどこに最も伸びしろがあるかといえば、白人労働者たちの住む地方、英仏米のラストベルト的な工業地帯や旧鉄鋼炭鉱地帯です。ポスト工業化とグローバル化で旧中間層は没落していきますが、社民勢力もグローバル化にさお差すようになって、彼らは政治的代表制を失う。そこで労働者に対するヘゲモニーの空白が埋まれたため、ポピュリストがそれを埋めようとしています」

「欧州連合(EU)離脱で揺れたイギリスでいうと、戦後の高度成長期に都市郊外の新興住宅街に一軒家を建て、安定した雇用と将来の見通しがあったのに、経済のグローバル化によって製造業が衰退し、社会のグローバル化で多民族社会が到来して、彼らの原風景は変わってしまった。こうした変化に対して反感や反発、居心地の悪さを感じる人がポピュリズム勢力の潜在的支持者になります。アメリカのホフスタッター氏という歴史家が1950年代に広めた概念に「地位の政治」という考えがありますが、これはイデオロギーではなく、自らの経済的・社会的地位が脅かされているという恐怖の感覚が政治意識となって表れる事例です。彼らのような『グローバル化の敗者』にとっては、自分の社会経済的な地位の下降が政治的な争点となります」

「中期的に見ると、その背景には社民政治の変容も影響しています。戦前と比較して戦後のデモクラシーがなぜ安定をみたかといえば、ある種の階級均衡、階級融和型の社民政治ができあがっていたからです。それは戦前の総動員体制によって階級間格差をなくした国家権力が、今度は不平等を是正するために再分配にかじを切ったからでもあります。英仏での戦後の国有化路線、混合経済はその象徴ですが、それを可能にしたのは労使協調でもありました。結果として、人類史上初めて中間層が多数派となる社会が生まれたのです。そして、これがリベラル・デモクラシーの安定につながった」

「ただ、そのこうした構図は1970年代の石油危機と1990年の冷戦崩壊とともに終わりを迎えます。社民勢力は、石油危機でそれまでのケインズ主義的な経済政策が無効となったことで打ちのめされ、冷戦終結でもってイデオロギー的な後ろ盾も失います。そこで、まず自らの政権担当能力を示そうと、経済的リベラリズムを受容します。財政出動ではなくマネタリズムを重視し、市場競争や民営化などが90年代後半の西欧社民の主たる政策となりました。その最たるモデルが、イギリスのブレア政権が掲げた『ニューレイバー』(新しい労働党)でした。労働党は、もはや労組や労働者でなく、10年以上続いたサッチャー政権のもとで生まれた新しい中間層に支持基盤を求め、そして政権奪取するという成功体験を手にします」

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吉田徹氏=国末憲人撮影

「アメリカの場合はそれよりも早く、90年代前半にビル・クリントン氏の民主党が『ニューデモクラッツ』を自称しました。今では批判の的となっている経済的グローバル化の象徴であるNAFTA(北米自由貿易機構)を批准したのが象徴的です。しかし、それによってラストベルトの労働者たちは自分たちを代表してくれる政治家がいなくなったと感じた。それを今回、わかりやすい形で埋めたのがトランプ大統領ということになります」

 ――冷戦時代には左派で労働者とインテリが協力し合っていましたよね。それがばらばらになって、左右対立が上下格差に取って代わり、労働者たちを引っ張っていく人がいなくなった。そこにやってきたのがポピュリスト、と考えられますね。

「そう言ってもいいと思います。『ルポトランプ王国』を書いた朝日新聞の金成隆一記者も引用していますが、グローバル化と小さな政府路線に反発する労働者は権威主義的になるだろうと、哲学者のリチャード・ローティ氏は90年代後半にすでに予言していました」

「左派や社民の政治的ヘゲモニーは、知的文化によっても支えられていた部分もあります。19世紀末から20世紀初頭にかけてできあがった知的パラダイムは、労働者階級の代弁者としての知識人や革命家というものでした。新左翼が勢いを持った196070代ごろがピークでしょうか。しかし、知識層の文化的ヘゲモニーも労働者階級の目減りとともに、移り変わるようになりました。新たな知的パラダイムや世界観が提供されないで、手つかずのまま残ってしまった層が、ポピュリストたちは政治的資源となったといえます」

「かつては、労働組合のたたき上げが政治家になることもありましたよね。それがいつの間にか、社民政党の指導者層はインテリと高学歴者ばかりになっている。つまり、社民政治が変質してしまった。それが今のポピュリズムを生んでいる構造的な要因の一つです」 

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2018年8月、ホワイトハウスで大統領専用ヘリへ向かうトランプ米大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

「あなたの明日を保証します」と言えない政治

 「フランス革命やロシア革命の時もそうですが、歴史の大きな変動にはパターンがあります。既存のエリートや政治家のヘゲモニーが少しずつ緩む。その緩みに政治的な機会を見いだし、権力奪取に挑む勢力が出て来る。戦争のような外部ショックが起きると一気に権力の移行が現実のものになります」

「そのような権力移行期では、21の関係に持って行くことができた勢力が勝者になります。フランス革命の例をとれば、これ以上税金を上げられたら困るという新興貴族たちが民衆や農民を動員できたことで、王制がひっくり返った。ポピュリスト政治家によって既存のリベラル・デモクラシーに不満を持ついくつかの層がつなぎ合わせられれば、現状が大きく変わる可能性はあります」

 ――ヘゲモニーを握る人がいなくなると、労働者階級が行き場を失う様子はよく分かります。ただ、つまり労働者は意外に権威主義的だ、ということなのでしょうか。

「アメリカの政治学者リプセット氏が、1950年代に各国の労働者の意識調査をして、彼らが意外と保守的で権威主義的な志向を持っていると指摘したことが知られています。ある研究所で聴いた話ですが、フランスで1960年代に有権者の意識調査をしたら、労働者層は権威主義的との結果が出たため、調査結果を発表しなかったということがあったそうです。左派こそが進歩的でなければならいとされた時代だったからです」

「イギリスの労働者階級の意識を詳述したポール・ウィリス氏の『ハマータウンの野郎ども』という有名なエスノグラフィーがあります。最近では、ジャスティン・ゲスト氏という社会学者がイギリスのEU離脱とトランプ支持者を社会学的に調査した『新たなマイノリティ(the New Minority)』という研究もあります。これらを読むと、労働者の意識というのは、今風にいえばリベラルでも何でもなくて、むしろ反リベラルです。そうした人々をかつては戦後に生まれた分厚い中間層の下の方に経済的に包摂できた。『明日食うに困るようにはさせませんから、今の政治を支持して下さい』という、安定した生活と政治的支持がバーター関係にあった。ところが、彼らはもう将来に対する希望を持てなくなっている。実際、トランプやルペンに投票した有権者は、一般有権者と比べて将来悲観の度合いが高いことがわかっています。将来不安こそが既存の政治システムへの信頼性を失わせ、政治エリートへの不信となって表れます」

 ――労働者の権威的な性格はどこから来たのでしょうか。

「労働者が持っている資本は基本的に自分の体しかありません。そうした意味で、非常に脆弱(ぜいじゃく)な立場にあります。そして、社会の中で資本が乏しい人間は権威的になるというのが社会心理学での定説です。それは強い者の後に付いていった方が自分たちの生存可能性も高まるからです。長いものに巻かれることが、生存戦略として最適だからです」

 ――自ら何かしようとするより、何かに従った方がいいということですね。

「自ら能動的に何かしようとしても、資本や資源に欠けていれば失敗する可能性が高い。だから、誰かの庇護を求めたり、集団で行動したりする方が良いという判断になります」

「ロベール・カステル氏というフランスの労働史家は、労働力以外に資本のない人々に、法的な保護や政治的な代表制を付与することで彼らに社会的地位を約束したことが近代の歩みだったと指摘しています。ところが1970年代頃から、労働することと、社会的な地位、政治的な代表制の結び付きは解けていったといいます」

「例えば、現在、いくつかの国でベーシックインカムが現実的な政策として議論されています。これはリベラルな制度に見えますが、労働者からすれば両義的な制度です。それは、労働と収入、労働と社会的地位が分離されることを意味するからです。これまで『腕一本で生活してきた』という自負がある労働者ならば、ベーシックインカムに反対するのではないでしょうか」

 ――左翼ポピュリズムの場合はどうでしょう。

「アメリカのバーニー・サンダース氏、イギリスのジェレミー・コービン氏、フランスの『屈しないフランス』、イタリアの『五つ星運動』などは一般的に左翼ポピュリズムとされますが、その主たる支持層は若年層に集中しています。その背景には、明らかにリーマン・ショックとユーロ危機、その後の緊縮策や公共政策プログラムの縮減が影響しています。アメリカでは20代の8割ほどが自分はアンダーエンプロイメント(能力以下の仕事についている人)と感じています。さらに、学費も年々あがって、英米では1人当たり300400万円もの借金を抱えています。こうした不条理感に対する異議申し立てが、左翼ポピュリズムをもり立てている一つの理由です。ただ、こうした高学歴層は、経済的には反グローバル、非リベラルでも、社会文化的価値としては権威主義的、保守的にはならない。これが、労働者が支持する右派ポピュリズムとの違いです」

「左右の『ポピュリズム』は、同じ言葉で一つにさせられますが、決して交わることがない。経済的にはどちらも反グローバル化、反自由主義なのですが、社会的には右翼が権威主義的で、左翼はリベラルです」 

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吉田徹氏=国末憲人撮影

日本にポピュリズムはあるか

  ――「日本になぜポピュリズムはないのか」とよく問われます。移民がいないからとか、いや実はあったんだとか、いろんな答えがありますが。

「私自身の解釈と違いますが、安倍政権自体がポピュリズムだからだ、と言う人もいますね」

 ――あるいは小泉政権とか、民主党政権がそうだったと言う人もいます。日本の場合どうとらえたらいいでしょうか。

「日本では中曽根康弘氏と小泉純一郎氏は、当時の文脈でポピュリストと呼んでいいと思っています。ただ、2000年代から目立つのは、地方自治体の改革志向型の首長ポピュリズムです。青島幸男、田中康夫、橋下徹、河村たかし、小池百合子の各氏ですね」

「その理由のひとつは、日本の地方政治の特徴である二元代表制制度にあると思っています。都道府県の議会選だと、議員は選挙区の23割の得票で当選できます。だから当選可能性を高めるには、商工会議所やJA、労働組合など、部分利益の代表者として振る舞うのが一番合理的です。反対に、首長が選出されるのは小選挙区制ですから、浮動票を取り込まないと既成政党の候補者には勝てない。票が集中していて既得権益で固まっていないところ、すなわち都市部のホワイトカラーの支持を集めないとなりません。だから、議会や既得権益を非難すれば、当選可能性が高まります。自分の政治的意見がどうであろうと、当選を至上目的にしてそこから逆算すると、首長候補者はポピュリスト的な言動や政策を訴えることが合理的になっていきます」

「だから日本のポピュリズムは欧米と違って、経済的には改革志向、市場志向型です。こうした推論が成り立つのであれば『ポピュリズムはイデオロギーではない』ということの論拠にもなるでしょう」

「第一に日本にポピュリストは存在します。第二にそれは地方政治家に多い。第三に、なぜ地方政治家に多いかというと、日本二元代表制がそうさせるから。よって、ポピュリズムはイデオロギーではないという、四段論法でしょうか」(笑)

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吉田徹氏=国末憲人撮影

 ――首長はある種の大統領制ですから、ポピュリストに多いカリスマリーダーが生まれやすく、国政レベルだと議院内閣制だから生まれにくい、ということではないのですか。

「政治制度や選挙制度がポピュリズムの強弱に影響することは否定しませんが、ただ政治制度が大統領制でも議院内閣制でも、選挙制度が多数派制でも比例代表制でも、ポピュリズムはどの国にも存在します」

「アメリカの大統領制と日本の二元代表制を同列には並べられません。地方自治体の首長と議会の関係はアメリカ以上に相互抑制的です。やはり決定的なのは、民意の表出回路ではないでしょうか。『硬く狭い』利益に依拠する代表なのか、『広く薄い』利益を代表しようとするのか。実はこう考えると、かつての革新自治体や革新都政も、左派的なポピュリズムの類型といえます。革新首長を生み出したメカニズムと、今のポピュリズム政治家をつくるメカニズムは、実は同じといえます」

1970年代から自民党の得票が減っていく中で、左の革新都政は福祉を中心に、右の保守議員は業界利益を優先して予算拡張を掲げました。つまり、財政支出に積極的な政策が左と右の双方から出てきた。それを是としない有権者が都市部のホワイトカラーでした。そうした人々の民意を代弁する所で、自治体レベルのポピュリスト政治家が出てきました。彼らは、従来の保革対立ではなく、行政のスリム化や情報公開など、都市部有権者にアピールする新たな対立軸をつくっていこうとします」

 ――だから、橋下氏や小池氏がインテリ層から支持を得ているのですか。欧米のポピュリスト支持層とは違って、日本のいわゆるポピュリストはインテリ支持が多いので、左翼ポピュリズムに似ているのかと思ったのですが。

「それは、その国の民主政治のあり方とも関係していますね。欧米では相対的な剝奪(はくだつ)感を抱いたのは労働者層でしたが、日本では都市部のホワイトカラーだったということかもしれません。言い換えれば、日本政治は欧米ほどリベラルではない。それゆえにポピュリズムの表出の仕方も変わってくる。ポピュリズムが捉えにくいことのもうひとつの証左でしょうね」