トランプの次の標的:「キューバを掌握」
「私はキューバを掌握する栄誉に浴すると信じている」
2026年3月16日、米国大統領ドナルド・トランプは、ホワイトハウスの大統領執務室で記者団にそう語った。
「なんらかの形でキューバを掌握する、そうだ」
記者が確認を求めると、彼は言い足した。「キューバを掌握。つまり、あそこを解放するにしろ、奪うにしろ――正直に言うと、キューバについては、自分の望むままに何でもできると思っている」
米大統領として前代未聞の発言で本音を語ってきたトランプの基準に照らしても、今回の発言は、自身の権力への認識と、その権力には限界がないという考えを如実に示す衝撃的なものだった。
フィデル・カストロがキューバで権力を握って以来、13人の米大統領が誕生したが、その全員がそれぞれに、共産主義体制下にあるこの島国と、複雑で、しばしば対立的な関係を築いてきた。
しかし、これほど公然とこの国の支配権を掌握する考えを述べた大統領は1人もいなかった。また、トランプが今年、ベネズエラとイランで軍事攻撃を行ったあとだけに、この発言は単なるその場の思いつきではないかもしれない。
むしろこれらの発言は、(ひょっとしたら近々)トランプが外国政府の指導者を排除する3度目の試みに突き進もうとしていることを示唆しているように思われる。
「私はキューバを掌握している」と、彼は15日に大統領専用機エアフォース・ワンの機内で述べ、「我々はまもなく合意に達するか、さもなくば必要な措置を講じることになるだろう」と付け加えた。しかし、彼は順序も明確にした。「キューバの前にイランをやるつもりだ」
現実には、トランプ政権はすでに両国に対して行動を起こしている。1月以降、米国はキューバに対し事実上の石油封鎖を実施し、ほかの国がキューバに石油を供給すれば脅しをかけ、さらには軍事行動さえ取っている。2月には、原油を満載してコロンビアからキューバへ向かっていたタンカーを、米沿岸警備隊(註釈: 米軍6軍の一つ)の艦艇が拿捕(だほ)した。
結果として、キューバは1月9日から石油や燃料の供給をほとんど受けられず、国内の危機が急速に深刻化している。闇市場で売られるガソリンの価格は1ガロン(約3.8リットル)あたり約35ドル(約5600円)まで高騰し、毎日のように停電に見舞われていて、3月16日には全国的な大停電も発生した。病院での手術は延期され、医薬品が底をつきかけ、食糧不安が増大している。
こうした状況により、キューバ指導部は窮地に追い詰められた。
3月13日、大統領のディアスカネルが国民に向けて演説を行い、キューバが米国と協議を行っていること、まもなく経済開放に着手することを初めて認めた。
ニューヨーク・タイムズ紙が16日に報じたところでは、同時にトランプ政権はキューバに対し、ディアスカネルの退陣が必要である点を明確に伝えていた。
今のところホワイトハウスは、舞台裏で依然として権力を掌握しているカストロ家への措置を強く迫ってはいない。これは、ベネズエラで見られたような政権交代よりも政権の服従を好むトランプ政権の姿勢に沿ったものだ。
ロシアは、必要ならば長年の同盟国キューバを支援する用意があると示唆している。クレムリンの報道官は17日、ロシアとキューバの当局者がこの危機について緊密に連絡を取り合っていると述べた。
16日夜、キューバの経済担当責任者オスカル・ペレスオリバ・フラガは、海外に在住するキューバ人がキューバ国内での投資、銀行取引、事業活動に携われるようにする一連の変更を発表した。これは、キューバのディアスポラ(国外在住者)が長年求めてきた大きな政策転換となる可能性がある。
キューバがこうした変更を迫られている状況の一端として、ペレスオリバ・フラガはこの発表をラジオで行った。当初はテレビでの演説を予定していたが、石油が主燃料である送電網がまだ停止していたためだ。現地時間の17日午前7時時点で、首都ハバナの約70%で依然として停電が続いていると、キューバ政府は発表した。
キューバの経済開放がもたらす可能性を、トランプは見逃していない。南フロリダやカリブ海地域に長年関心を寄せてきた不動産王トランプは、以前からこの島を狙っていた。
2016年の『ニューズウィーク』誌の調査によると、1998年、トランプの支配下にある企業がキューバの可能性を探るため、複数のコンサルタントを秘密裏に雇い、派遣していた。この訪問は、米国によるキューバへの経済制裁に違反していた可能性がある。また、『ブルームバーグ』が報じたところによると、2011年と2012年にはトランプ・オーガニゼーション(註釈: トランプ一族が経営する企業)の幹部らがゴルフコース用地を視察するためキューバを訪れていた。
2016年大統領選の選挙運動中、トランプはキューバでビジネスをしたいと繰り返し述べた。「キューバは投資の好機になるだろう」と、彼はその年、マイアミのニュース局に語った。「おそらく今はまだ、時期尚早なのだろうが」
そして今、彼はその時期が近づいている可能性を示唆している。「彼らは我々と話し合っている。キューバは破綻(はたん)国家だ。お金もない。石油もない。何ひとつない」と彼は16日、大統領執務室で語った。
そのあと彼は別の考えを口にした。「あそこには素敵な土地がある。風景も美しい」と言い、さらに「キューバは観光その他のいろいろな面で独特の魅力を持つ美しい島であり、気候も素晴らしい」と付け加えた。
しかし、このあと彼は、地理と気象に関する知識の限界を露呈した。「あそこはハリケーン地帯じゃない。たまにはいいこともあるじゃないか、そう思わないか?」と彼は言ったのだ。もちろんそれは、ニューヨーク州のバファローには雪が降らないと言っているようなものだ。
それでも、トランプはすでにキューバを米国の所有物と考えているようだった。「彼らが毎週のようにハリケーン被害の支援金を、我々に求めてくることはないだろう」
ジャック・ニカス(敬称略、抄訳)
(Jack Nicas)©2026 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから