いよいよトランプ氏登場 注目のグリーンランド 厳戒のダボスで「何を語るのか?」
1千人以上収容できる会場のステージにトランプ大統領が現れると、聴衆はスタンディングオベーションで迎えた。
注目はやはりデンマーク自治領グリーンランドだった。アメリカによるグリーンランドの「領有」に反対している欧州8カ国に、10%の追加関税を課すというアメリカの脅しがあったばかりだ。武力行使までちらつかせたトランプ大統領を、欧州の首脳が次々と批判した直後でもある。何を語るのか。
トランプ大統領の話は、経済成長、株価、エネルギー政策、石油生産、風力発電、選挙の不正……と脈絡なく続いていった。一つのテーマで話し始めても、途中で別の話を思い出したかのように脱線し、また次の話に移っていく。様々な数字がよどみなく出てくるが、何の統計なのか、どこまで正確なのか、にわかに判断できない。
やがて、「グリーンランドについて一言話そう」と言い出し、「武力を使う必要はない。使いたくもない。アメリカが求めているのはグリーンランドという土地だけだ」。そして、「(デンマークに対し)グリーンランド買収について改めて協議するため、交渉を求めている。我々は歴史上、数多くの領土を獲得してきた。多くの欧州の国々もやってきたことで、何の問題もない」。
その後もトランプ大統領はバイデン前大統領やNATO(北大西洋条約機構)の批判、ウクライナ戦争、米国経済、関税……と何度も脱線しながら語り続けた。途中で席を立つ人が出始め、携帯をいじっている人があちこちにいる。当初予定していた45分の演説は、30分近く超えて終わった。
ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事は会場を出ると「何も新しいことはない。いつものトランプだ」と吐き捨てた。「グリーンランドに侵攻することなんて最初からありえないのだから」
会場を後にして歩きながら、隣にいたイギリスのシンクタンク経済政策研究センター(CEPR)所長のベアトリーチェ・ウェダー・ディ・マウロさんと、感想を話し合った。マウロさんは厳しい表情を崩さず、「武力行使はあり得ないとは思っていても、トランプ大統領の言うことは、何を信じたらいいのかわからない」と困惑したままだった。
周囲のアナリストやジャーナリストと話すと「武力行使はしないと明言してほっとした」という反応と「武力行使はあり得ないと思っていた」という人が混じっていた。だが、ベネズエラでの軍事作戦を見て、「何が起きるかわからない」と多くの人が感じたはずだ。
いずれにしても、アメリカを中心として戦後築かれた国際秩序は確実に終わりを告げ、各国が新たな関係を模索し始めていることを感じずにはいられなかった。
トランプ一色になったこの日のダボスだが、トランプ大統領の登壇前にひっそりと開かれていたセッションがあった。テーマは「国際援助を再考する」。
ダボスでは、お金ともビジネスとも縁遠いこの手の話題は決して人気のトピックではない。このセッションも30人程度の参加者しかいなかったが、USAID(米国際開発局)の解体に始まり、WHO(世界保健機関)などアメリカが国際機関から脱退する中で、今後の国際援助のあるべき姿とは何なのかが深く議論されていた。
登壇者の一人で、長年、アメリカの人道援助や国際援助政策に携わってきたデラウェア州選出のクリストファー・クーンズ上院議員(民主党)に、話を聞いた。
クーンズ上院議員が最初に強調したのは「トランプ大統領や政府効率化省などが次々と連邦政府の機関を閉鎖している一方で、アメリカ人の8割は人道支援の活動を支援し、6割も民主主義を守る活動を支持していることを忘れないでほしい」ということだった。同時に、これまでの国際援助のやり方では、アメリカ国民の信頼を得られないとも指摘した。「たいていのアメリカ人はお金がどう使われているのか知らない。何億円という自分たちのお金がどう使われ、どれだけの変化をもたらしているのか、これからはもっと説明していかなければならない」
アメリカの撤退で空白となった国際援助の場を、中国が代替し始めているという指摘もある。だが、クーンズ上院議員は「彼らはあちこちに現れ、あれもこれもやってあげようと言う。それが人に与えるメッセージは確かに懸念している。でも、本当の意味での人道支援や開発援助をアメリカのような規模で行うことはないだろう」とも語った。
アメリカが手を引き、空白になった途上国援助の現場では、国だけでなく、フィランソロピー(社会貢献)を行う財団などが埋めようとしている。
この日は、世界最大規模の財団であるゲイツ財団とオープンAIとの提携も発表された。「ホライゾン1000イニシアチブ」というもので、アフリカ諸国の医療システムにオープンAIの技術を活用する取り組みだ。今後数年間、ゲイツ財団とオープンAIは5000万ドル(約80億円)の資金や技術支援を提供するという。2028年までに1000の診療所とその周辺のコミュニティーに到達することを目標にするという。
ゲイツ氏は、「AIは、予想をはるかに上回る速度で進化しており、貧困や飢餓、病気といった課題にAIがどう貢献できるかを考えてきた」としている。
特に注目したのが、貧困地域における医療従事者の深刻な不足だという。たとえば、ルワンダには医療従事者が1000人あたり1人。WHOの基準では約4人とされており、現状のペースではこの格差を埋めるのに180年かかる計算だという。AIが煩雑な事務処理の大半を処理すれば、医師や看護師は次の患者に集中できるようになる。
同時に、途上国で使用するAIモデルは、先進国とは異なる訓練がされる必要があるという。診療所から遠く離れて住む患者や、病気になっても仕事を休めない患者など、途上国特有の課題を考慮に入れなければならないためだという。
これまで先進国のデータとモデルで作られてきたAIだが、こうした連携によって、今後は途上国のデータを取り込み、新たなモデルが広がっていく可能性がある。