中国で消費増、外資の参入相次ぐ
2010年の上海万博で、ベルギー・EU館の前に長蛇の列ができた。ベルギー名物の詰め物入り一口チョコレートを無料で配っていたのだ。
中国人たちは、1粒のチョコのために何時間も並んでいた。「欧州のチョコ市場は飽和状態。新興国に市場を求めていかねば」。ベルギーの製菓工業会「ショプラビスコ」事務局長のギー・ガレは、そう感じたという。
ベルギーから中国へのチョコの輸出量(2009年)は697万ユーロ(約7億円)。2004年の約4倍に増えた。
現在、中国のチョコ市場は推計50億元(約600億円)ほど。上海や広州など沿海の都市部で広がり始めた段階だ。国際ココア機関(ICCO、本部・ロンドン)の統計では、1人あたりのカカオ豆の年間消費量は30グラムで、同3~5キロの欧州とは比べものにならない。
ただ、1999~2009年のチョコ菓子市場の年平均成長率は10%で、世界平均の2%を大きく上回っている。ICCOの統計でも、チョコやカカオマス、ココアパウダーの輸入が増えている。
「M&M’S」で知られるマース(アメリカ)は1990年代、いち早く現地で生産を始めた。現在、シェア4割でトップ。2位以下も外資系が並ぶ。ロッテとハーシー(アメリカ)は2007年、合弁会社をつくって現地生産を始めた。原料チョコ大手のバリーカレボー(スイス)も、中国初の工場を蘇州につくった。
日本メーカーでは、国内でしかチョコをつくっていなかった明治が、2006年から上海で生産を始めた。海外企画管理部企画グループ長の戸谷和彦は「マースを除き横一線だ。我が社もチョコメーカーとして勝負に出た」と話す。
欧州の消費は伸び悩み
中国だけではない。チョコ菓子市場が最も伸びているのはインドネシア(18%)で、2位はインド(11%)だ。カカオ原産地の中南米でも、ブラジルに勢いがある。
対照的に、伝統的なチョコ市場の欧州では、リーマンショックや財政危機もあって、最近は需要が伸び悩んでいる。
カカオを扱う商社コンフィテーラ社長の今村雄紀は「欧州でチョコづくりに使われるココアバターは、2年ほど下落傾向にある。一方、新興国でチョコ菓子などに使われるココアパウダーの価格はこの3年で3倍に高騰している。市場の構造が変わってきている」と話す。
豊かになり、チョコを日常的に食べる人が増えている新興国。人口増が期待できず、市場が飽和状態の先進国――。ほかの産業と同じような構図がチョコにもある。
チョコの好み、各国で異なる
メーカーがグローバルに事業展開するうえで課題になるのが、チョコの味の好みが国や地域によって違う点だ。
一般に、先進国ではカカオ分の多い苦い味も好まれるが、アジアや南米では甘さが主に求められるという。日本では、夏と冬で硬さを変えて口溶け感を同じにするといった細やかな対応も欠かせないそうだ。
原材料にも地域の特徴がある。欧州は食品添加物を嫌い、イスラム圏ではアルコールを使えない。ココアバターは溶けやすく、高温の地域では代用油脂を使う。
こうした地域性を考えると、市場の近くで生産する方が都合がいい。
ロッテは2009年から、アジアで人気のチョコ菓子「コアラのマーチ」をタイの工場で生産している。成長が見込まれる中・東欧市場をにらんで、ポーランドに欧州の拠点工場を建設する予定だ。国際部執行役員の常盤誠は「同じ『コアラのマーチ』でも、中に入れるチョコの味には国や地域の好みを反映させる」という。