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「隠れた児童労働」に苦しむ少女たち 家事使用人として終日従事、学校にも行けず

国際女性デー2023 更新日: 公開日:
バングラデシュのダッカにある支援センターで英語を学ぶ少女たち
バングラデシュのダッカにある支援センターで英語を学ぶ少女たち=シャプラニール提供

世界では、子どもたちの10人に1人が、働かなければならない厳しい現実がある。子どもたちは、工場や農業、サービス業など、様々な現場で働かされている。とりわけ、少女たちに多いのが、家事使用人として他人の家庭で働かされることだ。外からは見つけにくい「隠れた児童労働」と呼ばれ、深刻な地域のひとつが南アジア。学ぶ機会も奪われた少女たちのために、私たちができることは――。バングラデシュで支援活動を続けて昨年、創立50年を迎えたNGO「シャプラニール=市民による海外協力の会」(東京)のバングラデシュ事務所長(駐在員)、内山智子さんに聞いた。

――ILO(国際労働機関)とUNICEF(国連児童基金)によると、2020年に世界では、推計1億6千万人が児童労働に従事していました。バングラデシュの状況について教えてください。

ILOの2013年の調査によると、バングラデシュでは、5歳から17歳の170万人が児童労働に従事し、そのうち130万人が危険な児童労働に従事しています。

危険な労働というのは、例えばレンガ工場であったり、鉄くずの現場だったり、子供にとって健康に害があるような、成長を脅かす形態の労働のことです。背景には貧困があります。

――家事使用人として働かされている子どもたちは、どれくらいいるのですか。

バングラデシュ統計局の2013年のデータによると12万人いて、そのうち90%以上が女の子となっています。一方、2006年のILOのデータですが、42万人という数字もあります。

家の中での料理や掃除などが主な仕事で、女の子ができる仕事、とみなされています。

家事使用人としての仕事で、洗濯をする少女
家事使用人としての仕事で、洗濯をする少女=バングラデシュ・ダッカ、シャプラニール提供

――どういう経緯で家事使用人になるのですか。

首都ダッカに住んでいる人が、自分の村に帰ってきて、うちで働く子どもがいないかと連れていくとか、村にブローカー役がいて、その人を経由して連れてこられるなど、少女たちは雇い主の同じ出身地というケースが多いです。

親元を離れて家に住み込んで働いている子と、家族ごとダッカのスラムに引っ越しをしてきて、スラムの家から通いで働いている子がいます。

働き始めてからは学校に行かせてもらうチャンスはほとんどありません。5~8歳ぐらいで働きに出された子の場合、一度も学校教育を受けたことがないまま大人になる、というケースも少なくないです。

――かなり深刻ですね。

送り出した家族が、その子の稼いだお金で生活を成り立たせている面はあります。でも、「親の責任として、子どもにきちんと教育を受けさせないといけない」と私たちは言い続けています。

バングラデシュでは、中流階級以上の家庭であれば、使用人を雇っているのが普通です。雇う側にも「使用人が必要なら大人を雇ってください」と言い続けています。

ただ、子どもの方が使いやすいとか、家の子の遊び相手も一つの仕事なので子どもがいいんだとか、子どもなら、住み込みの場合、食べる量も少なくてすむし、夫や息子と問題を起こさないだろう、という女性の雇用主側の都合で雇われている状況があります。

――働かされている少女たちは、具体的にどんな境遇にあるのでしょうか。

ある子は、5歳の時に「知り合いのおうちに行くよ」と連れてこられて、置いていかれたと言います。

養子として引き取られたのかなと思って、家の子どもたちと一緒に遊んでいたのだけれど、6、7歳になった時、家の子たちは学校に行くようになった。でも、自分は学校に行かせてもらえずに、掃除をするように言われたと。

そのとき初めて、「あ、自分は、働かせるために送り込まれてきたんだ」と気づいたと言っています。

家事使用人として働き、食事の支度を手伝う少女
家事使用人として働き、食事の支度を手伝う少女=バングラデシュ・ダッカ、シャプラニール提供

その子は、朝6時ごろ、家の人が起きる前から働き始めて、朝食の準備や掃除をして、みんなが寝た後の夜遅く12時過ぎまで働いて、一度も学校行ったことがありません。

私たちの支援センターに来て初めて、読み書きを学び、同世代の子と遊んだりとか、おしゃべりをしたりっていう機会を得たと言っています。

――こんな子どもたちを、どういう経緯で支援することになるのですか。

私たちは地元のNGOと共同で、支援センターをダッカの3カ所で運営しています。

「隠れた児童労働」と言われる理由でもあるのですが、家の中なので、外から見えません。

センターのスタッフが、小さな子どもたちが働かされている家がどこにあるか、いろんな人に聞いて一軒一軒、訪問します。そして、「支援センターを始めたので、子どもたちに学ぶ機会を与えてください」とお願いをして回っています。

この子も、そういう活動を通じて、センターに来るきっかけができました。3年前なので、14歳のころですね。

センター3カ所ではいま、合わせて70人ほどの少女が通っています。

――センターでは、どんな支援をしていますか。

基礎教育として、読み書きや計算、さらに歌や踊り、遊び、レクリエーション的なこともやっています。

あとは保健衛生ですね。爪をきちんと切るとか石鹸で手を洗うとか、本来は親が面倒を見ることを一切教えてもらえる機会がなかった子たちなので、そういったことを伝えます。

また、グッドタッチ、バッドタッチ、というセッションで、(家の人に体を触られたとき)どこを触られたときには嫌と言っていいんだよ、ということを伝えています。そして、嫌な思いをした時には、センターに来て先生にすぐ教えてねと言っています。性教育というよりも、家の中で自分の身を守る方法を伝えています。

バングラデシュのダッカにある支援センターで楽しく過ごす少女たち
バングラデシュのダッカにある支援センターで楽しく過ごす少女たち=シャプラニール提供

14歳以上の子には、基礎教育がある程度終わったら、スキルトレーニングをします。

ミシンや染め物のほか、最近一番人気があるのは、パーラートレーニングですね。メイクや、こちらの人たちが手に描くヘナ(という植物染料で)のアートなどです。

スキルトレーニングをすることで、将来、収入を得られるようになり、使用人として人生を終わらずにほかのこともできるんだと、夢を描けるようになってきています。

平日の週5日、午後3時から5時まで支援しています。働いている家の子供たちが学校に行っていて、帰ってくる前の時間です。帰ってくると、夕方のお茶を出すといったお世話の仕事や、夕食の準備が始まるので。

――働いている家庭で虐待を受けるケースもあるのでしょうか。

センターで、グッドタッチ、バッドタッチの話をする時、「実はこういうことが以前あった」と言ってくる子たちもいます。

でも、本当に何か虐待や性的虐待を受けた場合は、なかなか声をあげられていないでしょうし、私たちもつかみきれてはいません。

虐待は国内でニュースにもなっています。ニュースになるのは一部だと考えると、いろんなところで起きているのではないかなと思います。

――家事使用人として働くことは、児童婚の温床にもなっていると聞きます。

「家事使用人として働くのは、もう嫌だから村に帰らせてくれ」と親に訴えて帰らせてもらった場合でも、「もう働かなくていい、だったら結婚しなさい」となるケースがあります。

15、16歳ぐらいになると、親が結婚をさせるために村に戻すこともあります。

センターでは、児童婚の話もしています。この国は法律上、女の子は18歳、男の子は21歳にならないと結婚ができないと伝えて、結婚しろと親に言われたときには、「私はまだ、結婚しません、18歳になっていないので」と言おう、と伝えたりもしています。

実際に自分で声を出して親に言って、結婚させられずにすんだというケースもあります。

スキルトレーニングで学んだ藍染めでつくったスカーフを見せる少女たち
スキルトレーニングで学んだ藍染めでつくったスカーフを見せる少女たち=バングラデシュ・ダッカ、シャプラニール提供

――バングラデシュは昨年、国際労働機関(ILO)の児童労働を禁止・制限するための就業の最低年齢に関する条約(途上国なら14歳未満の労働を禁止)を批准しました。ILOは、児童労働として禁止する「危険な仕事」のひとつに、家事使用人を入れるように政府に働きかけていました。

結果的に、政府が禁止する職種には入りませんでした。政府は、子どもの家事使用人の存在を認めたくないのでしょう。

ILOのルールではいけないことだけれど、バングラデシュの法律では、家事使用人として子どもを働かせても罰金や禁固刑にはならない状態です。

ただ、児童労働の禁止は、世界的なものだよという話を、雇用主や住民たちにしていて、少しずつ理解してもらえるようにしてなってきてはいます。

――こんな少女たちを支援している団体は、ほかにあるのでしょうか。

児童労働に対する活動をしているNGOは、いくつかあります。でも、ほとんどが工場で働いている子供など、外から見える児童労働に対してか、スラムの子どもたちを支援する活動です。

いろんなNGOが集まる場などで、家事使用人の問題について一緒にやろうと呼びかけています。まずは、(家事使用人として雇うことを禁じる)法制化の呼びかけなど、この問題に取り組むNGOを増やそうと努力はしていますが、まだ少ないです。

また、私たちが、これから計画しているのは、子どもたちが送り出される村の中で、きちんと意識を高めていくことです。

雇用主にも働きかけるけれど、村の親たちに問題を認識してもらって、学校に行かせて働きに出さないでください。という活動を、村でやっていきたいと考えています。

――バングラデシュでの女性たちの課題には、ほかにどのようなものがありますか。

この国では、結婚するときに、女性の側から男性側に持参金や物品を渡す慣習があります。そのために、親は借金します。年齢が高くなると持参金が増えるから、早く結婚させたいということが起きています。

学校教育は、男の子、女の子を等しく受けられるようになってきているのですが、結婚にかかわる問題は、女の子は困難な状況にあります。

――女の子が支援センターに通い始めることで、前向きな変化が目に見えてわかる、ということはありますか。

すごくわかります。来たばかりの子を見ると、やはり、すごく表情が堅いし、暗いんですね。

一人の事例で言うと、小学校5年生のときに働きに出されて、センターに来る前の働き始めてから3年間は、笑ったことがなかったという子がいます。働いている家の子供にも「どうしてあなたは笑わないの」といつも言われていたそうです。

バングラデシュのダッカにある支援センターで、少女たちと話す「シャプラニール=市民による海外協力の会」の内山智子・バングラデシュ事務所長
バングラデシュのダッカにある支援センターで、少女たちと話す「シャプラニール=市民による海外協力の会」の内山智子・バングラデシュ事務所長(左)=同会提供

私が会ったのは、その子がセンターに来はじめて1年たったころでしたが、すごい、大きな笑顔を見せる子なんですね。その話が想像できないぐらい、とても元気で、はきはきしゃべっていました。だから、機会さえ与えられれば、子供は変われる、変わるんだなと思いました。

いま、17歳です。センターに来るようになって、雇用主の理解を得て、金曜日だけ学校行かせてもらえるようになって、それでも、クラスで1、2位の成績を修めて、今年からカレッジに入れるようになりました。

家での仕事はそのまましていて、カレッジも週2回しか生かせてもらえないのですが、夜、みんなが寝てから勉強しているそうです。会計を勉強したいと言って、将来的にはそういう仕事をやりつつ、自分と同じような境遇の子供たちに教えたいと言っていますね。

――この子は、小学5年生で親元を離れたんですね。

そうですね。「親に連絡はもちろんしてはいるけど、もう帰りたくない。帰るつもりはない」と、親にすごく怒っています。「なんであのときに私をダッカに送ったんだ」と。雇い主のほうが今は優しく接してくれる、ということを聞くと、すごく複雑です。

親元に帰してあげた方が幸せなケースももちろんありますが、そうでないケースもあります。

―支援センターの役割というのは、少女たちが自分の境遇を理解して、大変な状況でも、そこから成長して人生を送っていく一つのきっかけとなる、ということでしょうか。

そうですね。そういう場でありたいなと思っています。