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「世界の台所探検家」岡根谷実里が巣ごもりで生み出した新商品<レビュー2020>

Re:search 歩く・考える
岡根谷実里さん=東京都渋谷区、川村直子撮影

「ひきこもってたなー。ひたすら、長野に」。世界の台所探検家を名乗るレシピ検索サービス大手のクックパッド社員、岡根谷実里さん(31)を紹介した「突破する力」(9月号)には、「こんな時期だからこそできた、という突破口のような話題は?」(兵庫県、58歳)などの質問が相次いだ。その岡根谷さんに前回の取材以降を振り返ってもらうと、冒頭のつぶやきが返ってきた。

とはいえ、岡根谷さんの行動力は2020年も遺憾なく発揮された。休暇のたびに海外に出向いてきたのだが、「巣ごもり」することで、くしくも、これまでの台所探検が様々な形でアウトプットされた。

その一つが、赤いパプリカを大量に使うブルガリアの食卓調味料「リュテニツァ」の商品化だ。長野県野沢温泉村のシェフと意気投合した。スーパーの店頭に並ぶパプリカは韓国産が多いが、できれば信州産にこだわりたい。農家を探し回った。発売2カ月足らずでほぼ完売し、「21年も」と構想を練る。

リュテニツァ=東京都渋谷区、川村直子撮影

世界が遠くなりかけた20年の春、1通のメールがある編集者から舞い込んだ。書籍の執筆依頼だった。原稿に時間をかけるのに最高のタイミング。「コロナ禍じゃなかったら、絶対にできなかった」。煮詰まると、知人の農作業を手伝い、ネマガリダケなどの山菜やキノコ採りに連れて行ってもらってリフレッシュした。

「遠い未来のことを聞かれるのが苦手なんです。だって『楽しいこと、してたいです~』としか言えないから」という岡根谷さんだが、今年やりたいことはもちろん、台所探検活動の再開だ。「海外もいいけれど、日本のなかの異文化もたくさんある。食を通してつなげられたらいいな。そろそろインプットをしないと……」。次の出会いに思いをはせる。

リュテニツァを塗ったパン。長野産の野菜を添えて=東京都渋谷区、川村直子撮影

記者が初めて岡根谷さんを知ったのは、19年秋にNHKで放映された「世界はほしいモノにあふれてる」。レシピハンターと紹介され、生き生きと動き回っていた彼女がたまたま同郷出身と知り、「取材せねば」という何とも身勝手な使命感にかられたのだった。

一度衝動に火がつくと猪突(ちょとつ)猛進な姿、細部までこだわるアーティストっぽいところがある半面、なぜその行動が必要か納得してからでないと、エンジンがかかりにくい。そのバランス(アンバランス?)が魅力だ。

仕事が終わると、瞬時に戦闘スイッチがオフになり、無邪気な笑顔に。注目を集めている人物なのに、あまり自覚がなさそうなところもまた面白い。

迷い、悩みながらも信念は貫く。「世界のおうちごはんやおやつ、暮らしを通じて、私たちと何ら変わらない日常の生活や思考があることを伝えたい。自分の視点だけで物事を見ることをせずに、視点を変えることで、つい決めつけてしまうことや互いの誤解で衝突が起きることはなくなると思う」

世界中の台所と食卓を通じて、私たちにどんな景色を見せて、思索を深めさせてくれるのか。いつのまにか彼女の活動から目が離せなくなっている。(熊井洋美)

岡根谷実里さん=東京都渋谷区、川村直子撮影

シリーズ「レビュー2020」

#1ステイホームで深まる「孤独」 必要なのは逃げ場づくり(12月27日)

#2非接触の時代、「無人コンビニ」が集めた注目(12月28日)

#3対面に理由がいる時代 「会わなくていい」言われて寂しくないか(12月29日)

#4「世界の台所探検家」岡根谷実里が巣ごもりで生み出した新商品(12月30日)

#5温暖化で沈む島国、知ってますか コロナでも「語り部」止めない(12月31日)

朝日新聞の日曜版別刷りGLOBEでは、2020年(1月・225号~11月・235号)に手がけた巻頭特集と、「突破する力」の中から、「特に印象に残った三つ」を挙げてもらうアンケート(11月1日~12月5日)を実施しました。ネット、メール、はがきで受け付けた回答の上位3位までの集計結果は、次の通りです。記事で紹介した意見や質問も、このアンケートやその後の取材に寄せられたものの中から選んでいます。

<巻頭特集>
1位 みんなで決めるってむずかしい 民主主義のいま(10月号)
2位 ナショナリズム 私たちを映す鏡(4月号)
3位 コロナのいる日常(6月号)

<突破する力>
1位 小倉桂子(被爆者、平和のためのヒロシマ通訳者グループ代表・8月号)
2位 萩生田愛(「AFRIKA ROSE」代表取締役・7月号)
3位 ケンタロ・オノ(地球温暖化危機の語り部・1月号)