■深まる孤独感、解消したい
「孤独はコロナ禍でさらに広範化、多様化していくのではないか」(愛知県、48歳)。こんな意見が寄せられたのは、1月号の特集「これから百年の『孤独』」。コロナ禍の前から「孤独」に注目していた担当記者としては、追いかけないといけない話題だ。経済的苦境や外出を控える生活で孤独を深める人が増えていると聞き、相談窓口を取材した。
「母親はパートで働いていたのですが、コロナ禍でクビになりました」
「ずっと子どもと一緒で疲れる。テレワークで夫がいてそれもかなり疲れた」
NPO「あなたのいばしょ」(東京都)が運営する24時間対応の相談窓口には、連日200件近い悩み事が寄せられる。相談は電話ではなく、ネットの専用ページに書き込んでやりとりするチャット形式。2020年3月の窓口開設以来、相談件数は増加傾向で11月上旬までに計2万5000件を超えた。
「職を失った」と苦境を訴えたり、育児や家事のストレスから「子どもを虐待してしまいそうだ」と打ち明けたりする親。「親が経済的に厳しくなり、当たられる回数が増えた」と親が寝静まった後に相談してくる子ども。「受験をあきらめないといけないかもしれない」「学費を払えなくなるかもしれない」と心配する若者、「入学以来、自宅でオンライン授業を受け続けている」とこぼす大学1年生からの相談もある。
仕事、家庭、学校などコロナ禍の影響が広がるなかで、心のよりどころが失われつつある――。NPOを設立した慶応大3年の大空幸星(こうき)さん(22)はそう心配する。特に気にかけるのが、親や家庭の影響を強く受ける子どもの孤独だ。「コロナ禍で学校やバイト先にあった『逃げ場』を失った子がいる。友人にも気軽に会えなくなった。これまで頼れる人がいた人にも、孤独感が広がっている」
大空さんはひとり親家庭で育ち、家庭内不和から不登校にもなった。長く「誰にも頼れない」孤独に苦しんだ後、高校で初めて信頼できる教員と出会い、立ち直った経験から「誰でも気軽に人に頼れるようにしたい」と相談窓口を始めた。自ら好んで1人でいることにも「孤独」という言葉が使われることから、あえて「望まない孤独」という表現を使い、その対策を掲げる。
大空さんによると、周囲に相談内容を聞かれる心配がないチャットで24時間対応をするのは日本では先行的な試み。相談が最も多く寄せられる深夜は、時差がある米国や欧州在住の日本人が相談に応じている。相談員はすべて研修を受けたボランティアで、国内外で約600人。匿名、無料で、命に関わる緊急事態も想定し、最短5秒での応答をうたう。
電話する習慣が乏しい若者を意識してチャット形式にしているが、利用者の年齢や性別は問わない。21年からは、在日外国人の利用者に対応するため、英語や中国語の相談員も配置する予定だ。
日本では個人の問題だと捉えられがちな「孤独」を、「担当大臣まで置く英国などのように、社会の問題と捉えるべきだ」と訴える大空さん。20年12月には、国を挙げた対策をするよう政府に要望した。
利用者には、相談することに後ろめたさを感じないように、「虐待や自殺といった深刻なことでなくていいので、何でも言ってほしい。誰にも相談できないまま、ストレスや不安を抱え、知らないうちに重症化させていることもある」と呼びかける。
終わりの見えないコロナ禍。警察庁によると、自殺者数は20年7月以降、5カ月連続で前年同月を上回り、特に女性の増加(11月までの累計で前年比12.4%増)が目立つ。失業などによる経済的な問題やDV・育児などの家庭問題の深刻化が影響しているという指摘もある。
相談の利用者の中心は女性や20代以下の若者だ。大空さんは自殺者の増加に危機感を募らせる一方、ボランティアの相談員をやりたいという連絡が毎日のように寄せられることに、希望も見いだす。「『望まない孤独』をなくすためのチャット相談が根付くかどうか。正念場だと思って頑張りたい」
■在宅勤務で孤独? 仮想オフィスに出勤だ
在宅勤務が広まったのもコロナ禍の影響の一つ。会社に行く必要がなくなったと喜ぶ人がいる一方で、愛知県の読者(61)からは「入社後一度も出社していない新人から『寂しくて会社を辞めたい』という相談を受けた」との話が寄せられた。1月号の「孤独」特集では遠い米国の話だった在宅勤務の孤独対策が、日本でも求められ始めている。
システム開発会社「日立ソリューションズ」(東京都)の小倉文寿さん(42)の自宅を訪ねると、パソコン画面にガラス張りのビルが現れた。「ここから入ります」。オンライン上の仮想オフィスだ。
ログインして「出社」。職場がある階のフロアマップを開くと、50ほどの席がずらりと並ぶ。「出社」している従業員は顔写真のアイコンが表示され、「会話可能」を示す緑色の丸印が点灯していれば、クリックしてオンラインで話しかけることができる。
オフィスらしく「会議室」や息抜きに使える「リフレッシュコーナー」も完備。それらの場所に行かなくても会議や雑談はできるとはいえ、細部まで「本物っぽさ」にこだわるところに感心してしまう。
20年2月末から在宅勤務への移行を進めた同社。当初、「ちょっとした会話がしにくくなった」「部下に困りごとがないか心配」といった声が従業員から上がったが、5月にこの仮想オフィス「Walkabout Workplace」の利用を始めると「孤独感が和らいだ」との感想が相次いだ。8月には開発元の米国企業と提携してシステムの販売も始め、すでに15社ほどが使い始めているという。
小倉さんが強調するのは「在宅勤務で取りにくくなったのが少人数、短時間のコミュニケーション。仮想オフィスがその穴を埋め、オフィスの日常を取り戻すプラットフォームになる」ということだ。「オフィスの日常」とは、オフィスを居場所としていた人ほど、魅力的に響く言葉だろう。米国で孤独対策に一役買っているというコワーキングスペース(共用オフィス)を取材した際は「なぜわざわざオフィスに」と思うところもあったが、今ならよく分かる。
一方、米国のコワーキングスペースもコロナ禍への対応を迫られている。1月号の記事で紹介したシアトルの「オフィス・ノマズ」はコロナ禍を受けて20年3月にスペースを閉鎖し、活動の場をオンラインに移した。
会員には、企業に雇われずに働くフリーランスなど、さまざまな職業、雇用形態の人がおり、現在約70人。定期的に近況を報告しあったり、瞑想など、趣向を凝らしたオンラインイベントを開いたりしている。共同設立者のスーザン・ドルシュさんは「在宅勤務を続けても健全な精神状態でいるために、親しい人と顔を会わせ、オンラインのイベントに参加することが重要になっている」と語る。(太田航)
シリーズ「レビュー2020」
#1ステイホームで深まる「孤独」 必要なのは逃げ場づくり(12月27日)
#2非接触の時代、「無人コンビニ」が集めた注目(12月28日)
#3対面に理由がいる時代 「会わなくていい」言われて寂しくないか(12月29日)
#4「世界の台所探検家」岡根谷実里が巣ごもりで生み出した新商品(12月30日)
#5温暖化で沈む島国、知ってますか コロナでも「語り部」止めない(12月31日)
朝日新聞の日曜版別刷りGLOBEでは、2020年(1月・225号~11月・235号)に手がけた巻頭特集と、「突破する力」の中から、「特に印象に残った三つ」を挙げてもらうアンケート(11月1日~12月5日)を実施しました。ネット、メール、はがきで受け付けた回答の上位3位までの集計結果は、次の通りです。記事で紹介した意見や質問も、このアンケートやその後の取材に寄せられたものの中から選んでいます。
<巻頭特集>
1位 みんなで決めるってむずかしい 民主主義のいま(10月号)
2位 ナショナリズム 私たちを映す鏡(4月号)
3位 コロナのいる日常(6月号)
<突破する力>
1位 小倉桂子(被爆者、平和のためのヒロシマ通訳者グループ代表・8月号)
2位 萩生田愛(「AFRIKA ROSE」代表取締役・7月号)
3位 ケンタロ・オノ(地球温暖化危機の語り部・1月号)