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非接触の時代、「無人コンビニ」が集めた注目<レビュー2020>

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レジ係がいない「無人コンビニ」。レジの代わりに置かれた機械のタッチパネルを操作して代金を支払う=東京都港区

新型コロナウイルスが世界を席巻し、日常生活も一変した2020年。GLOBE各号に掲載した巻頭特集や人物紹介記事「突破する力」の「その後」はどうなっているのか。読者アンケートに寄せられた意見や質問を携えて記者が再取材すると、コロナ禍の先の社会や生き方を考えるヒントが見えてきました。全5回の第2回は6月号特集「コロナのいる日常」と7月号特集「監視? すべてあなたの安全のためです」から、レジ係がいない「無人コンビニ」と、監視でない見守りを目指すロボットのお話です。

■レジ係なし 買い物のニューノーマルに?

特集「コロナのいる日常」(6月号)には、「社会がどのように変化していくのか、現状を打破するためにどんなビジネスや文化が生まれるのか注視したい」(京都府、42歳)との感想があった。その一例になりそうなのが、レジ係がいない「無人コンビニ」だ。密接回避が求められるコロナ禍で注目を集めている。

店内の棚から商品を取り、レジの代わりに置かれた機械のタッチパネルを自分で操作するだけで買い物ができる。このシステムを開発した企業「TOUCH TO GO」(TTG、東京都)が1号店のコンビニをJR高輪ゲートウェイ駅(東京都)に開店したのが、2020年3月。新型コロナの感染が拡大するなか、非対面の接客ぶりが話題になった。

非対面化を可能にしているのが、店内にある約50台のカメラやセンサーだ。買い物客の動きを追跡し、どの客がどの商品を手に取ったかをコンピューターで識別する。

TTG社長の阿久津智紀さん(38)によると、システムの精度は90%を超える。うまく識別できなかった商品は、客にバーコード読み取り機を操作して会計してもらうことになるが、「商品を持っていると、会計が終わるまで出口のゲートが開かない仕組みになっており、万引きなどの心配はしていない」という。

「TOUCH TO GO」の阿久津智紀社長=東京都港区

もともとはコンビニなどの小売店で続く働き手不足の解消を狙って開発したシステムだが、コロナ禍で「対面の接客をなくしたい」「在宅勤務の普及で来店客が減った都心の店舗の省人化を進めたい」として導入を希望する声も、寄せられるようになった。感染症対策に敏感な病院の売店や、巣ごもりの需要を狙ってマンションの中に出店したいとする企業からの問い合わせもあるという。

反響を受け、20年10月にこのシステムを入れた「紀ノ国屋」の小型スーパーが都内で開店。「ファミリーマート」も21年春ごろに無人決済コンビニの1号店を開店すると発表した。TTGは予定を前倒しして、4年間で100店舗への導入を目指す。

無人店舗を望む声は大都市ばかりでなく、過疎化や高齢化が進む地域からも上がる。買い物場所に悩む「買い物弱者」の解消などに役立てるのが狙いだ。阿久津さんは「今はシステムの保守やトラブル対応で駆けつけられる場所が首都圏に限られているので難しいが、いずれ対応範囲を広げ、地域活性化につなげたい」と話す。

店員に会わずに買い物するのは当たり前。そんな時代が案外早くやってくるのかもしれない。

■ゆる~く見守る ロボットを介したつながり

「わからないところで自分が他人に見つめられ管理されているものなら、どれだけ恐ろしいことか」(山口県、53歳)などと反響が大きかったのが、特集「監視? すべてあなたの安全のためです」(7月号)。監視でない見守りを目指すロボットがあると聞き、取材した。

ロボット開発などを手がけるユカイ工学(東京都)を訪ねると、雪だるまのような可愛らしい「BOCCO emo(ボッコエモ)」が出迎えてくれた。2021年3月ごろ発売予定で、4万4000円(税込み)。

マイクとスピーカーがついており、ボッコエモで録音した音声を、スマートフォンを持つ家族に送ったり、家族に送ってもらった音声をボッコエモで再生したりできる。「お薬、飲んだ?」などと家族があらかじめ登録しておいたメッセージを、指定した時間に読み上げる機能もある。

ユカイ工学が開発した「BOCCO emo」(左)と同じシリーズの「BOCCO」(右)=東京都新宿区

部屋の明るさや、レーダーで周囲の人の動きを感知するセンサーも内蔵し、離れて暮らす家族がスマートフォンの専用アプリで確認することも可能だ。一方でプライバシーに配慮し、カメラはつけていない。「ほどよい距離感で見守る」ことを重視する。

もともとスマートフォンを持たない家族とも連絡が取りやすいようにと開発されたロボット「BOCCO(ボッコ)」(税込み3万1900円)のシリーズ。「話しかけたら返事が欲しい」という要望を受け、新型のボッコエモでは、話しかけられた言葉を認識し、ほおの色や音声で「感情」を表現する機能も設けた。

褒め言葉などをかけられてうれしいときはピンク色、しつこく構われたりして悲しい時は青色に光る。音声は「ニョニョニョ」などの独自の言葉だが、ニュアンスで感情を伝える。人の声が聞こえると、頭のぼんぼりを動かしたり、声のする方向に顔を向けたりもする。目指したのは「言葉は通じなくても気持ちは伝わるペット、心地よい距離感で長く一緒に住みたくなる家族のような存在」だ。

20年10月からボッコエモの製作費用をクラウドファンディングで募集すると、支援者からは「コロナで会えないおばあちゃんに渡したい」「一人暮らしの母親とのコミュニケーションに利用したい」との声が寄せられ、目標額の10倍を超す資金が集まった。

「BOCCO emo」(手前右)、「BOCCO」(手前左)と開発元のユカイ工学・青木俊介代表=東京都新宿区

コロナ禍で、感染症への心配がいらない点にも注目が集まり、ニーズが高まるロボットを介した意思疎通。同社は、外出の自粛などで交流が少なくなりがちな高齢者のため、スタッフがボッコを通じて話し相手になるサービスも5月から始めた。

代表の青木俊介さん(42)は「高齢者は、家族以外でも会話する機会が減っていると聞く。ロボットで元気になってもらうきっかけを作りたい」と話す。(太田航)

シリーズ「レビュー2020」

#1ステイホームで深まる「孤独」 必要なのは逃げ場づくり(12月27日)

#2非接触の時代、「無人コンビニ」が集めた注目(12月28日)

#3対面に理由がいる時代 「会わなくていい」言われて寂しくないか(12月29日)

#4「世界の台所探検家」岡根谷実里が巣ごもりで生み出した新商品(12月30日)

#5温暖化で沈む島国、知ってますか コロナでも「語り部」止めない(12月31日)

朝日新聞の日曜版別刷りGLOBEでは、2020年(1月・225号~11月・235号)に手がけた巻頭特集と、「突破する力」の中から、「特に印象に残った三つ」を挙げてもらうアンケート(11月1日~12月5日)を実施しました。ネット、メール、はがきで受け付けた回答の上位3位までの集計結果は、次の通りです。記事で紹介した意見や質問も、このアンケートやその後の取材に寄せられたものの中から選んでいます。

<巻頭特集>
1位 みんなで決めるってむずかしい 民主主義のいま(10月号)
2位 ナショナリズム 私たちを映す鏡(4月号)
3位 コロナのいる日常(6月号)

<突破する力>
1位 小倉桂子(被爆者、平和のためのヒロシマ通訳者グループ代表・8月号)
2位 萩生田愛(「AFRIKA ROSE」代表取締役・7月号)
3位 ケンタロ・オノ(地球温暖化危機の語り部・1月号)