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対面に理由がいる時代 「会わなくていい」言われて寂しくないか<レビュー2020>

Re:search 歩く・考える
石田光規・早稲田大教授=東京都新宿区、益満雄一郎撮影

――石田先生は現代社会を「孤立不安社会」と名付け、孤独感を抱く人が増える背景を分析されています。コロナ禍の影響はどんな形で出ると考えますか。

「対面でなくてもいい」という意識が生活に入り込み、文化として定着したことが大きな影響を与えると思います。

――文化とは、どういうことですか。

そうすることが当たり前になったということです。対面でなくオンラインでやりとりをすることは、技術的にはスマートフォンが広まった時点でできるようになっていましたが、コロナ禍でみながそうするようになりました。収束後も続くでしょう。

――そうすると何が起こるのですか。

今起きているのが、「接触の選別」とも言うべきものです。仕事でも友人関係でも、ただなんとなく会うということが難しくなり、会うこと自体に理由が必要になってきています。

しかし、対面の方がいいという客観的な理由は説明しにくいものです。「リア充」(リアル、現実の生活が充実している人)や「ぼっち」(独りぼっち)という言葉が示しているように、リアルな人間関係を持てる人と、バーチャルな人間関係しか持てない人の格差は今後大きくなるでしょう。

――つながりの格差も広がるとは深刻ですね。

ええ。ほかにも、一人暮らしの人が行きつけの飲食店で店員と話すといった交流もありますが、コロナ禍で「不要不急」が言われるようになり、ハードルが高くなりました。つながりが薄い人はますます社会から離れてしまいがちです。

「不要不急」でいえば、友人同士でも飲食に誘うことが難しくなりましたよね。「誘われたら断らないのに」と思ってはいても、自分から誘うのは非常識と思われかねないからやりづらい。そういった緩やかな交流が少なくなっています。

――そういえば私も同僚と飲みに行くことが、ぱたりとなくなりました。

コロナ禍で大企業を中心に在宅勤務が広がりました。その後、経済活動の再開が進み、通勤する人の数は増えましたが、会社でも互いに離れて席に着いたり、昼食を一緒に食べるなと言われたり、何げない会話や雑談がしにくかったりで、会社にいるほうが孤独を感じるという人もいるのではないでしょうか。会社への帰属意識は確実に下がるでしょう。

大学も対面の授業が一部で再開しているとはいえ、教室で互いに離れて座ったりしないといけないのは会社と同じ。感染防止に配慮して対面を省くことばかりを考えるのではなく、交流をどう保っていくかを真剣に考えるべきだと思います。

石田光規・早稲田大教授=東京都新宿区、益満雄一郎撮影

――確かにこのまま進んでいくと、人間関係がどうなるのか心配です。

そうですね。そもそも日本では、1970年代までの高度経済成長期を経て、旧来の農村のようなムラ社会が衰退し、人間関係は、好むと好まざるとに関わらず特定の人たちと付き合う「共同体的関係」から、各自の好みに応じて関係を築く「選択的関係」が主体に変わってきました。

さらに90年代後半以降の携帯電話の普及を背景に生活の単位が世帯から個人に変わり、人間関係は相手から選ばれるように努力しないと維持できないものになりました。私の周囲にも、友人にマイナスの部分を見せられないから、なかなか本音で話せない、という学生がいます。そうした「選択的関係」への大きな流れを加速したのが、コロナ禍だとも言えます。

――コロナ禍で接触や対面が制限されるのは世界共通だと思うのですが、他の国でも人間関係への影響は出ていますか。

国による状況の違いが大きいので単純な比較はできませんが、同じコロナ禍でも、日本のほうがより孤独感を深めるおそれがあると思います。

日本の社会は、「自粛警察」が見せたような抑圧的な側面を持つ一方で、対立を嫌うため、迷惑にならない限りは互いに干渉せず、気ままな振る舞いも黙認しあうという「冷たさ」も持っています。個々を尊重しつつ、話し合って社会のあり方を決める枠組みがある欧米よりも、もともと孤独感を覚えやすい社会です。

――ますます心配になってきました。

さらに大局的なことを言うと、長らく対面で関係を築いてきた人類が、オンラインでのやりとりを主にするのは初めてのことです。仮想現実など、対面に代わるものを提供する技術は今後ますます発展するでしょうが、この変化が社会現象に与える影響が十分検証されないまま、技術の進歩だけが進むことに心配もあります。

――対面とオンラインでは違いが大きいのでしょうか。

対面だと少しぐらい沈黙しても居心地は悪くならないし、視線を窓の外に移して別の話題を振っても違和感がないのですが、オンラインだとどうもやりにくい。「余白」のない対話や人間関係が広がることにもなりかねないと思います。

――対策は取れますか。

先ほどお話ししたように、私たちは他人と無理して会わなくていいという社会を作ってきました。「共同体的関係」の時代のような、強制的な関係性を復活させるのは難しいでしょう。

大事なのは私たち一人ひとりが、接触や対面の意味を考え直すことなのだと思います。接触は本当に、必要か不要かと考えるようなものなのか、ということです。最初は会いたくなくても、やりとりを重ねるうちに重要な意味を持ってくる関係もあります。また、不要な接触という分け方をすると、あなたが会わなくていい人間になる可能性もあります。それはそれで寂しい社会だと私は思います。(聞き手=太田航)

いしだ・みつのり 1973年生まれ。専門分野は社会的孤立、ネットワーク論、地域福祉。著書に『孤立不安社会』、『つながりづくりの隘路(あいろ)』など。

シリーズ「レビュー2020」

#1ステイホームで深まる「孤独」 必要なのは逃げ場づくり(12月27日)

#2非接触の時代、「無人コンビニ」が集めた注目(12月28日)

#3対面に理由がいる時代 「会わなくていい」言われて寂しくないか(12月29日)

#4「世界の台所探検家」岡根谷実里が巣ごもりで生み出した新商品(12月30日)

#5温暖化で沈む島国、知ってますか コロナでも「語り部」止めない(12月31日)

朝日新聞の日曜版別刷りGLOBEでは、2020年(1月・225号~11月・235号)に手がけた巻頭特集と、「突破する力」の中から、「特に印象に残った三つ」を挙げてもらうアンケート(11月1日~12月5日)を実施しました。ネット、メール、はがきで受け付けた回答の上位3位までの集計結果は、次の通りです。記事で紹介した意見や質問も、このアンケートやその後の取材に寄せられたものの中から選んでいます。

<巻頭特集>
1位 みんなで決めるってむずかしい 民主主義のいま(10月号)
2位 ナショナリズム 私たちを映す鏡(4月号)
3位 コロナのいる日常(6月号)

<突破する力>
1位 小倉桂子(被爆者、平和のためのヒロシマ通訳者グループ代表・8月号)
2位 萩生田愛(「AFRIKA ROSE」代表取締役・7月号)
3位 ケンタロ・オノ(地球温暖化危機の語り部・1月号)