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アフリカでの中国との競争は無意味 ビジネスだけでない付き合い方を

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高橋基樹・京都大大学院教授=竹花徹朗撮影

――アフリカの飛躍的な発展にここ数年、注目が集まっています。TICADにはどんな役割が今、求められているのでしょうか。

アフリカは2000年代から急激に経済成長を遂げました。人口増加による市場の拡大や豊富な資源に世界から注目が集まり、援助の対象からビジネスパートナーになり得る存在という風に見方が変わりました。

TICADも当初は低迷するアフリカ経済を背景に、貧困の削減や国の統治システムの改善など、アフリカの開発と援助が中心テーマでした。しかし、2008年の第4回からは、アフリカの高度成長とそれに合わせて強まった各国の立場を反映し、ビジネスに関心が移りました。16年にケニアで開かれた前回のTICADからは特に日本企業がアフリカに進出する機会のようになっています。しかし、各国や国際機関の代表が集まるTICADで、日本側の利害を前面に押し出すことは問題だと思います。

■ビジネス視点ではすくえないニーズがある

――ビジネス以外にはどこに目を向けるべきなのでしょうか。

もちろん、ビジネスのつながりは重要です。54カ国ある広大なアフリカ大陸全体が外国の援助だけで発展することはなく、民間の交流は欠かせません。お金が動かなければ、人は動かず、日本とアフリカの関係を育てて行くには、経済的な結びつきが極めて重要であることは明らかです。

日本企業の立場から考えれば、2060年に世界人口の30%近くを占めるようになるアフリカでの長期的戦略は、グローバルな環境で生き残っていくためにも必要でしょう。

大勢の買い物客でごった返すナイジェリアの最大都市ラゴスの市場

しかし、アフリカの国々は独立してから50年ほどしか経っておらず、統治や教育、保健医療、治安など人間の暮らしに欠かせないニーズを満たすシステムが構築できていません。

例えば小学校。都市部など採算が見込める一部の地域では、民間企業でも学校を作って経営することができるでしょう。しかし、すべての子どもたちが教育を受けられる環境を整えるためには、サバンナの中にある村や狩猟採集民がいる密林の中の集落などにも学校が必要です。民間企業はおそらくそうした場所には手を出さないでしょう。診療所や上下水道、灌漑や圃場といった農業の普及に必要なインフラなども、民間企業にとっては利益が見込めずビジネスの対象外かもしれませんが、社会にとっては欠かせない公共財です。

リベリアの首都モンロビアにある、エボラ出血熱の症状を伝える壁画=2016年、三浦英之撮影

いま何よりも必要なのは将来に向けて持続可能な開発の基盤を作ることです。民間企業だけでアフリカの厳しい現実は変えられませんし、開発の基盤も作れません。日本は、まずアフリカの国や自治体が公共サービスを担うための支援に取り組むべきです。

日本のアフリカに対する見方は、「人口が増えそうだ」「資源がいっぱいある」「成長しているらしい」といった漠然としたイメージだけが先行し、未熟です。明るい要素とともに、数々の課題にも丁寧に目を向けていく必要があります。

――そもそも日本の企業はアフリカに出て行っているのでしょうか。

現状では思うように進出できていません。日本銀行によると、日本からアフリカに対する昨年の投資額1746億円のうち、約8割はインフラが整い、事業がしやすい南アフリカ向けでした。

前回のTICADでは日本からの資金協力目標が掲げられましたが、実際にリスクを取って投資するかどうかを決めるのは政府ではなく企業です。10年代の後半からはアフリカの成長が減速し、ビジネスを中心に考えるとしても、どうすれば日本企業がアフリカに進出していけるかをもっと真剣に議論しなければなりません。官民の地道な努力と知恵が必要です。

高橋基樹・京都大大学院教授=竹花徹朗撮影

■中国との競争は不毛だ

――アフリカをめぐっては、中国の動きを警戒する声も聞かれます。

アフリカとの経済関係では、中国との競争が叫ばれていますが、経済の体質が全く異なるなか、不毛な議論です。

中国からアフリカへの2017年の輸出額は日本の10倍の1093億ドルです。これは外交関係の密接さや政府の努力の違いなどで説明できるものではありません。

日中両国のサハラ砂漠以南へのアフリカへの輸出品目の内訳を見ると、日本の場合は車両を含む重工業製品が大半を占めますが、中国の場合は上位10品目の中に、衣類、家具、靴、綿製品などの軽工業品が含まれています。つまり中国は日本よりもアフリカの人々の日常で使われる消費財を供給できているということです。アフリカの底辺層のニーズを捉え、スラムの路上でさえ売られています。

アンゴラの首都ルアンダ近郊にある「チャイナシティー」。古着店には天井の近くまで商品が山積みされていた=6月6日、石原孝撮影

多くの日本企業にとって、価格の安い中国製品との競争に勝つことは簡単ではありません。民間ビジネスの次元では、競争の視点ではなく、日本と中国がそれぞれ優位な分野で棲み分けることや提携を考えていくことが重要だと思います。

政府間でも、中国はアフリカに対して日本の2倍の600億ドルの支援を表明しています。この点を見ても、中国と競い合うことにもはや意味はありません。日本にとっては、インフラに限らず質の高い支援を進め、将来にわたって息長くアフリカ各国の国家建設に寄り添っていくことが最善の道です。

■短期的な見返りにこだわらない

――2019年の今、TICADをやる意義はどんなところにあるのでしょうか。

アフリカに対して歴史的なつながりや戦略的利害を持たない日本が四半世紀前にTICADを始めたとき、当時の国際社会で大きな注目を浴びました。大きな利益が見込めるわけでもないのに、日本が身銭を切ってアフリカの問題に取り組むことは世界にとって意味があり、日本にとっても外交的な資産です。

米国や欧州の国々が内向きになるなか、日本は今こそ原点に立ち返って短期的な見返りにこだわらずアフリカを支援するべきでしょう。それが、世界で独自のイニシアチブを発揮することを可能にし、企業の長期的利益にもつながると思います。


高橋基樹(たかはし・もとき)

1959年生まれ。専門は開発経済学。ケニアなどを対象に、援助が人々の暮らしに及ぼす影響を研究。

■短期集中連載「私の中のアフリカ」は、横浜で8月28日~30日に開かれる第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に合わせて日本に住む人たちとアフリカとのバラエティに富んだ関わり方を紹介し、アフリカの開発と発展に私たちはどう伴走すればいいのかを考える企画です。

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