アフリカ最大の2億人もの人口を抱えるナイジェリアは、貧富の格差が課題になっています。最大都市ラゴスでは、建設中の高層ビルが立ち並ぶ場所からさほど離れていない場所に、世界最大規模の海上スラムと言われる「マココ」があります。
住民の暮らしぶりを取材しようと、現地を訪れることにしました。とは言え、観光地ではないので、まずは集落の長である「チーフ」と呼ばれる男性にあいさつをし、許可をもらいました。
何十年も前から地方や隣国の人々が移住してきたマココは、木の板とトタンでできた家屋が建つ海上部分と、埋め立てられるなどした陸地部分からなります。女性1人当たり5~6人の子どもを生むのが平均的で、全体では数万人から数十万人が暮らしていると言われています。
魚を焼く煙が立ちこめる中、木製のボートに乗って揺られていると、大勢の住民が狭い水路を行き交い、学校や自宅に向かっていました。飲料水を載せてボートをこぐ子どもや日用品を売る女性、海につかって遊んでいる子どもたちの姿もありました。私の顔を見た子どもたちからは「ヤーボー(白人)」と連呼されました。黒人以外の外国人は、ここでは白人になるようです。
多くの民家は電気やガスがなく、炭やろうそくを使っています。木の板でできた家には隙間も多く、小さな物を床に落とすと、海中に紛れ込んでしまいます。
お邪魔した民家では、木の板で囲われたトイレを見せてもらいました。近くにいた子どもたちが「板間に穴があいている所にしゃがんでやるんだ」と教えてくれました。よく見ると、確かにちょうど良いサイズの隙間があります。その下は海面なので、衛生的には良いとは言えませんが…。
6人の子どもを育てるキセゲジ・ビデフンさん(42)は普段、ボートで日用品を売って生計を立てています。私が訪れた日は、近くで捕れた魚を煮込んだ料理をごちそうしてくれました。これが、なかなかの美味。お礼を伝え、歯ブラシやせっけんなどを買いました。
現地を案内してくれていたガイドが、「日が暮れると危ないので早く帰ろう」とせかしてきました。本当はもう少し取材したかったのですが、夜は治安も悪化するようです。
泊まっていたホテルに戻ると、着ていたシャツに魚の臭いが染みついていることに気づきました。せっけんでゴシゴシ洗ったものの、なかなか消えず。その日は魚の臭いに包まれながら、寝ることになりました。