新型コロナウイルスの感染者が急増している南アフリカ。私が住むヨハネスブルクは特に感染者が多く、緊張感は日に日に高まっている。ただ、政府は経済の低迷を避けようと、6月下旬から飲食店の店内営業を認めた。各店は、感染リスクを避けながら自慢の料理を提供しようと工夫を凝らしている。
大統領府や日本大使館があるプレトリアの人気カフェ「タシャス」を経営するレインハルド・ポールセンさん(39)は7月2日、約3カ月ぶりに営業を再開した。政府がロックダウン(都市封鎖)を始めた3月26日の前日から閉店を余儀なくされ、売り上げはゼロに。従業員の数も減らさざるをえなかったという。「本当に大変な状況だった。営業を再開できて興奮している」と話した。
お客とスタッフの安全を守るため、店内の掃除と消毒を徹底。店員はマスクを着用し、メニュー表も使い捨てタイプに。テーブルはそれぞれ1・5メートル離した。来店したお客には消毒液をかけ、名前や連絡先を聞き取り、検温器で体温も確認する。
客足は伸び悩んでいるが、ポールセンさんは「10月か11月ごろくらいまでは仕方ない」と言い聞かせている。感染防止策の徹底を求める政府に理解を示したうえで、「経済と人々の健康面での安全のバランスをどう取るかが大事だ。経済が回らなければ、私たちの安全はより脅かされる」と語った。
最大都市ヨハネスブルクにある飲食店では、店員がフェースシールドやゴム手袋をしたり、コーヒーなどの飲み物を紙コップで提供したりする店もあった。
日本人駐在員にも人気の日本料理店「Japa Express Sushi Bar」も防止策を徹底している。記者が訪れた昼時は他にお客はいなかったが、体温を測った後、風邪の症状の有無などについてアンケートも記入。透明の仕切り板を置いているテーブルもあり、以前はすしを握る職人の姿を見ることができたカウンター席はなくなっていた。
夜間外出禁止令が出ていることもあり、夜の営業時間はいつもより短め。非常事態で売り上げは落ち込んだが、テナントの大家は家賃を割安にしてくれた。接客を担当する店員には、通勤時の感染リスクを減らすため、店の近くにあった空き部屋から通ってもらっている。約30年もこの国で日本料理を提供してきた岩手県出身の店主、菊池一さん(64)は「今は我慢の時期。お客さんがまた来てくれるようになるまでがんばるよ」と話していた。
ちなみに、記者はこの日、ソースカツ丼を注文。久々の外食とあって浮かれ気分だったのか、さくっと揚がった豚肉を堪能していたら、料理の写真を撮り忘れてしまった。