アフリカ最多の約2万4千人の感染者が判明している南アフリカ。最大都市ヨハネスブルクにある旧黒人居住区ソウェトに住むモガネさん(57)は今月6日、新型コロナウイルスで亡くなった。親族によると、近所の店を訪れた際に検温で高熱が発覚。4月26日に検査を受けると陽性と判定された。入院した病院では、午後5時~午後7時のビデオ電話以外は家族との会話を禁止された。徐々に呼吸がしづらくなり、亡くなる直前は声を発することもできなくなっていたという。
遺体は黒い袋に厳重に入れられ、政府が指定した場所に埋葬。家族が触ることはできなかったという。いとこのマフェレロ・モガネさん(63)は「彼がどこで感染したか誰にも分からない。家族ですら彼の最期を見届けられず、きちんとした葬式もできなかった。恐ろしい病気だ」と嘆いた。
南アフリカでは当初、欧州旅行から帰国した富裕層の感染者が多かったが、現在は渡航歴のない人の感染も増加。病院内や鉱山での集団感染も発覚した。南半球にあるため、最近は深夜から早朝の気温が0度近くまで下がることもある。1日の感染判明者が千人を超える日も出てきており、専門家は感染ピークは7月~9月ごろと予測している。
ただ、感染判明者が多いのは、検査数の多さが理由の一つでもある。地元政府によると、26日時点で検査数は60万件を超え、他のアフリカ諸国よりも多い。訓練を積んだスタッフが経済的に貧しい人々が暮らす地区を訪れて検温などのスクリーニングや検査を実施しているほか、大手薬局チェーンによるドライブスルー式の検査もあり、私の自宅近くのショッピングセンターでも実施されるようになった。
3月26日深夜から開始された都市封鎖(ロックダウン)などの外出制限措置は、経済や貧困層への影響を踏まえて徐々に緩和されてきている。約2カ月にわたって禁止されていた酒の販売も、6月からは条件付きで認められると発表された。現地に滞在する身からすれば規制が少なくなるのはうれしいが、人の動きが増え、感染リスクが高まるとの指摘も出ている。感染防止策による経済へのダメージのほか、収入が減った人が不満を募らせ、治安が悪化する懸念もある。
26日時点のアフリカ各国の感染判明者数を見てみると、南アフリカ以外にはエジプト(1万7967人)やアルジェリア(8503人)、ナイジェリア(8068人)、モロッコ(7556人)、ガーナ(6964人)、カメルーン(5044人)で多くなっており、この7カ国で全体の感染判明者の約67%を占めている。
一方、感染判明者が100人に満たない国も10カ国ある。コモロ(87人)、リビア(75人)、アンゴラ(70人)、ジンバブエ(56人)、ブルンジ(42人)、エリトリア(39人)、ボツワナ(35人)、ガンビア(25人)、セーシェル(11人)、レソト(2人)だ。
アフリカ全土の死者数は約3500人で、欧米に比べると圧倒的に少ない。世界保健機関(WHO)は、重症化しづらいとされる25歳以下の割合がアフリカ各国で約60%を占めていることを死者数が少ない理由の一つにあげている。
アフリカ東部のエリトリアとセーシェルは感染判明者全員が回復し、現時点での感染者はいないとしている。エスティファノス駐日エリトリア大使は文書での取材に応じ、空港での感染者が複数判明したため、4月18日に緊急事態宣言が発効。ロックダウンも実施し、感染疑いのある人の隔離を徹底したと説明する。人工呼吸器などの不足は課題としつつ、国民から感染防止策のために約2千万ドル(約21億5千万円)の寄付が集まっていることも明かした。エスティファノス氏は「このウイルスには、国旗も国籍も関係ない」と危機感をにじませた。
現時点でアフリカ諸国での感染の拡大が抑えられている理由はいくつか考えられるが、大半の国が感染者数の少ない段階で国際線の運航停止や国境の封鎖に踏み切ったことは大きな要因とみられている。感染判明者がいない時点で緊急事態宣言を出す国もあり、医療体制が整っていない国の危機感は総じて強い。
一方で、検査体制が整っていない国が多く、「実態はより多い」と言う専門家も少なくない。英BBCによると、千人当たりの検査数は島国のモーリシャスが61件になっているのに対し、チャドが0・1件、マリ0・17件。アフリカ最多の2億人近い人口を抱えるナイジェリアも0・23件だ。タンザニアでは、政府による感染者数の発表が1カ月近くされておらず、現地記者によると、症状があっても「コロナ」と診断されない人もいるという。今後、経済活動や国際線の運航が再開されれば、感染が拡大する恐れもある。
世界保健機関(WHO)アフリカ地域事務局のモエティ局長は、欧州などと比べると感染拡大が抑えられているとしつつ、「私たちの保健システムはもろい。自己満足に甘んじてはならない」と訴え、対策の徹底を呼びかけている。