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あなたの『アフリカ』は先入観だらけ。ぶっ壊すのが僕の役目

GLOBE+編集長インタビュー
星野ルネさんと堀内隆編集長(写真は全て家老芳美撮影)

■短期集中連載「私の中のアフリカ」 

  1. 星野ルネ(漫画家、タレント)「あなたの『アフリカ』は先入観だらけ。ぶっ壊すのが僕の役目」
  2. アフリカでビジネス、大勝負がしたい 「ウガンダで日本料理」に挑む
  3. アニャンゴ(ミュージシャン)「アフリカで手に入れた『もう一つの命』」
  4. 白戸圭一(立命館大教授)「『アフリカ市場の未来は明るい』は本当か そこに誇張はないか
  5. 横山仁美(開発コンサルタント、ベリーダンサー)「ダンス、アート、文学。アフリカに学んだ『ワクワクに正直に生きる』」
  6. 高橋基樹(京都大教授)「アフリカでの中国との競争は無意味 ビジネスだけでない付き合い方を

「カメルーンらしさ」を失わない 母の思い

堀内:ルネさんはお母様がカメルーン生まれですよね。日本人生物学者のお父様が調査に行った先でお母様に出会われたとお聞きしましたが、お母様はよく日本についていく決断をされましたね。

星野:だいぶ抵抗はあったそうですけどね。でも、女性って強いですよ。男性だったらたぶん行かないでしょ? 男性って仕事だと外に出ていくけど、恋愛では行かない。そのへんは女性って本当に強いなと思います。

堀内:そんなお母様は、ルネさんにどういうことを大切にしなさいとおっしゃっていましたか?

星野:カメルーンらしさを失わないでいてほしいという思いは強かったように感じます。アフリカと日本のような先進国では、親子の関係性が違うんですよ。日本では子どもが親にため口をきいたりするけど、向こうではそれはありえない。親を敬うことは当たり前だし、文化や伝統を尊重するのもとても大切。以前、ボビー(オロゴン)さんが、日本の子どもたちに反抗期があるということに驚いていましたが、アフリカでは、親に反抗するってありえないですからね。

引きこもりもない。向こうで「働かない」なんて言ったら、バカいってるんじゃないよ! 働かないやつなんてうちには要らない!ってなる。それってやはり環境が大きく関係していますよね。アフリカでも、都市部の方では同じような現象が起き始めていて、親としてはそれはとても悲しいことでしょうね。

堀内:弟さん妹さんもそうした「カメルーンらしさ」を引き継いでいるんですか。

星野:弟や妹は、僕みたいに「カメルーンの血を引いていること」をネタにしてもいないし、むしろその要素が「余分な要素」と感じたこともあったようです。僕みたいに、「らしさ」を活かす生き方をしている人は「武器」として使うことができるけど、そうじゃない人にとっては要らない要素でしかない。ただ、大人になってくるとアイデンティティに対する想いは変わってくることがあるとは思いますけどね。

「むかつく」ことは人生のほんの一部

堀内:アイデンティティに関していうと、ルネさんはどのようにとらえていますか。著書の中では、周囲と違う見た目であることに悩む女の子に向けたお手紙も描かれていましたね。

星野:僕自身、そうした違いがあることに悩んだり、辛かったりしたことはありましたが、実際のところ、それを上回る楽しい思い出がたくさんあります。もちろん、むかつくことや理不尽なことを言ってくる人もいるけれど、その人たちに言われたことは自分の人生のほんの一部でしかない。僕の場合は、クラスにハーフが自分一人といった環境だったにも関わらず、幼稚園のときから仲良しな友だちもいたし、学生時代は楽しい毎日を送っていました。

上京していろんな人と知り合って話を聞いたところ、ハーフだからといじめられた経験がある人も多くてびっくりしました。僕の妹たちも辛い目に遭ったことあるというし、僕の場合は友だちに恵まれていたのかもしれません。

twitterで漫画を発表するようになって、「ルネさんの漫画をいじめに悩んでいる子どもにも読ませたい」というメッセージをいただくことも多く、葛藤している人がいることもきちんと表現しようと思いました。手紙の内容に関しては、3人の妹たちに「あのころの自分に手紙を出すとしたら?」と聞きながら書きましたね。この漫画がきっかけで、少しでも救われる子がいたらうれしいです。

「人を喜ばせたい」とタレントに

堀内:ところでルネさんは子どものときから漫画家志望だったんですか。

星野:描くこと自体は昔から好きでしたが、締め切りに追われる生活は自分には向いてないなと思っていました。なので漫画は趣味にしようと思い、工務店やダイニングバーなどいろんな職場を経験してみたんですが、その中で性に合っていたのが接客業。お客さんを喜ばせたり驚かせたりするのが本当に楽しかったんです。漫画の原点もお客さんのリアクションにあります。あの当時、どういうものがウケるのか、どういうものが驚かれるかということに関してのビックデータが自分の中に蓄積されたことは、今となっては財産になっています。

堀内:特にどんな話がウケましたか。

星野:漫画にも描きましたが、お母さんの話はウケましたね。たとえば僕の入学式にカメルーンの民族衣装をまとって出席した話だとか(笑)。そのときお客さんから、「もっと大勢の人にその話をしてほしい」という言葉をかけていただいたことがきっかけとなって、「じゃあテレビに出て話をするタレントになろう」と上京を決めました。

だけど、いざタレント事務所に登録してみると、なかなか自分のやりたいことはできなかったんです。“外国人”としての出演オファーはあるけど、日本で育った僕は“外国人”ではないし、お笑い芸人としておもしろい話を伝えるのもまた違う。笑いに特化しちゃうと、本来伝えたいことが伝わらなくなってしまうと感じたんです。

笑いも驚きも伝えるだけでなく、「アフリカ系日本人」という立ち位置自体を伝えるためには自分でフォーマットを作るしかない。そう決意して、まずはyoutubeからはじめようとしていた矢先、先に始めた漫画がバズったことで、まずはそちらに注力することになったといわけです。

ステレオタイプの「アフリカ系タレント」にならない

堀内:メディアに出るとき「こういうことを期待されてるんだな」と感じることはありますか。

星野:あります。だけど僕は、「ステレオタイプの要求には応じない」と固く決めてるんです。そうではなく、みんなが抱いている「アフリカ人」のイメージを崩していきたい。僕のような見た目でも、日本語を流ちょうに喋ることで衝撃を与えていきたいんです。

一般的に視聴者やユーザーが期待するのって、過去にあったものなんですよね。昔ヒットしたものや過去に人気があったものを無意識に求めちゃう。でも、表現者はいつの時代も、みんなが見たことがないものを生み出していくものなんですよ。新しい未来は表現者にしかつくれない。新しい未来をつくることが僕らの仕事だというプライドを持ってやっています。

堀内:ルネさんご自身は自分のアイデンティティを存分に生かして活動されていますね。

星野:はい。僕は、アイデンティティは“使ったもの勝ち”だと思っているんです。武器にして使った瞬間に、それに感謝できるようになる。僕の兄弟はみんな映画が好きなんですけど、「この映画では、主人公がアフリカ人の血を引いていることが伏線になっているよね? 自分が主人公の立場だったら、やっぱり彼(彼女)と同じように、そのアイデンティティを活かして生きていくと思わない?」っていうふうに説明すると、彼らもちょっと納得してくれているようです。

堀内:ルネさんが伝えたいのは、アフリカのことですか?

星野:僕が一番伝えたいのは、「みんなが抱いている先入観と実際の世界はだいぶ違うよ」ってことです。その題材の一つがアフリカのことであり、ハーフのことであるけれど、それを伝えること自体が目的ではありません。

「槍を持っている部族がいる」とか「紛争が多い」とかのイメージを抱いている日本人は多いけれど、そんなのはごく一部。僕は最近、学生たちに講演をさせていただく機会が増えているのですが、「みんなアフリカのこと知ってる?」って聞いたら、みんな「知ってる!」って答えるんです。だけど、「じゃあ僕と一緒にジャングル散歩してみたい人?」って訊くと「危険な動物がいっぱいいるから絶対イヤ」の答えが返ってくる。TVや映画で観た一部分だけの印象だけしかないんですよね。

アフリカに興味がない人への“デートプラン”

堀内:アフリカ開発会議(TICAD)が来週から横浜で始まりますが、日本ではアフリカについてはまだまだ遠いと感じている人が多いですね。

星野:アフリカに限らずですが、国内のことにしか目がいっていない人は多いと感じますし、それによって非常に損しているなと思います。海外に出たからこそわかる日本の魅力もあるし、日本では当たり前のものでも海外に持っていくとお金になることもある。チャンスが増えるし、それこそ老後までに2,000万貯める必要がなくなることだってあると思うんです。

自分の人生に関係ないことには興味を示さない人も多いですよね。だから僕は、漫画を描くときは必ず、そういう人にも楽しんでもらうことを意識しています。人って、よほどおもしろくないと、自分と関係ないものには近づかないんです。

だけど、「楽しいパーティーがあるけど参加しない? 帰り際にはよかったらちょっとだけ知識も持って帰ってね」って言われたら足を運んでみようと思うでしょう? 無理やり見せても興味を持ってもらえないのだから、「見せる側」としてはパフォーマンスを考えることが必要ですよね。恋心を抱いた相手に振り向いてもらえるよう、プレゼントや食事で気を引いて、相手が乗ってくれたタイミングで自分をアピールするのと同じこと。僕は、「アフリカって実はこんなところなんだよ」ということを知ってもらうために、「日本」っていうキーワードを入れたデートプランとしてこの漫画を作り上げましたが、今はまだ「一回デートに行けた段階」なので、これから時間をかけてみんなにいろいろ伝えていきたいですね。 

僕の話を通して、「この世界には自分が知らないことがまだまだたくさんあるんだな」ということに気づく一つのきっかけになってくれたらうれしいです。

■短期集中連載「私の中のアフリカ」は、横浜で8月28日~30日に開かれる第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に合わせて日本に住む人たちとアフリカとのバラエティに富んだ関わり方を紹介し、アフリカの開発と発展に私たちはどう伴走すればいいのかを考える企画です。

 

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