セネガルにある国連世界食糧計画(WFP)の西アフリカ地域事務所の男女比は50:50です。地方の出張所では管理職を見るとまだ男性が多いですが、これは完全には「平等」にはならない部分だろうなと思います。
私の同僚でまだ小学校低学年と未就学児の2人の子供がいるルクセンブルク人男性は昨年から家族帯同ができない危険地である「Non family」の赴任地に行っていますが、同じことは女性職員には求められません(子どもが小さいという理由で女性職員は危険な場所での勤務は断ることができます)。
WFPは母親の育休は16週ですが、男性の育休は4週間です。国によっては、家族単位で「育休」をもらい、その休みを父親と母親が同時にとっても別々にとっても、半分ずつしても、どちらかが多めでもよい、というところもあるようですが、なかなかそこまで行くのは難しいでしょうね。
国際機関は育休自体は日本より短いですが、母親が母乳を与えている間は仕事を始める時間を遅くしたり、給料は減りますが私のフランス人の同僚で働き方を7割にして、水曜日の午後と金曜日を子供が2歳になるまで完全にオフにしたりする人もいました。こういうのは、自分の仕事の状況や職場との話しあいで決まるので「必ずそうできる」というものではありませんが、家族の状況(子育てだけではなくて親の介護や健康状態などの場合もある)によって、ある程度職場に柔軟に考えてもらえるというのはとてもありがたいことだと思います。
私自身も4カ月の育休をとったあとに、給料はもらえないけれど、休暇扱いにしてもらえるSLWP(Special Leave Without Pay)をとって長女が1歳になるまでお休みをとりました。1歳からはこちらの保育園に預けてフルタイムで仕事をし、1-2週間の出張も隔月で行っています。夫がいるときは任せますし、夫もほかの国で仕事をしていますので、その間はベビーシッターさんにみてもらっています。シッターさんが病気になって、急所友人家族に頼んだこともあります。
私がソマリアで現地事務所長をしていた時、多くの女性スタッフがほぼ毎年妊娠し、それぞれ毎年4カ月は職場を空けることになって大変だった記憶はあります。もちろん、育休は「職員の権利」ですからとってもらいますが、同じポジションが空いて男女で応募があったとき「女性の場合は4カ月いなくなるのか……」とどうしても思ってしまいます。結局成績がよかったので女性の方を雇いましたが、彼女が働き始めて1か月で妊娠…想定内とはいえ事務所を運営する側からすると苦労した部分です。
先月赤ちゃんが産まれたばかりの男性職員が今月も赤ちゃんが「また」産まれたという連絡があって驚きましたが、一夫多妻制が普通のソマリアではよくあること。文化圏が違うと状況も大きく変わります。子供の数は多いですが、出産時の事故や小さいうちに亡くなる子どもの数も多かったです。子どもは生まれて、元気に育つのが当たり前でないということを考えさせられた時期でした。
先日、シエラレオネの男性職員が双子の父親になって、大喜びで1カ月の産休をとったのですが、3週間で「こんなに子育てが大変だとは思わなかった。仕事の方が楽だ!!」と言って戻ってきて、みんなで大笑いしました。西アフリカは家族の結びつきが強く、コミュニティの輪も広いのと、お手伝いさんやベビーシッターさんも頼みやすいので、日本でいう「ワンオペ」になることがほとんどありません。育「休」ということで意気揚々ととったけれど、双子の世話は思った以上に大変だったようです。
でもこうやって職場にいかないで家族としっかり過ごすことで父親の自覚とか家庭の役割分担とか(一時的にでも)できてよかったと言っていました。日本も男性の育休が最近義務化するとかしないとかで話題になっていますが、私は男性の育休は個人的に大賛成です。仕事が休めないとか出世に響くとか言わないで、「子どもが産まれたばかり父親」の機会をしっかり生かすといいと思います。子育ては母親だけがするものではないですが、社会がちゃんと父親も子育てに組み込まれるように作られて行かないと変えるのが難しい部分です。職場としてもだれかがいなくて回らない職場にしないで、周りがバックアップしてちゃんと機能する仕組みを作っていかなければなりません。
今は「家族赴任地」ですので、まわりは家族連れがたくさんいます。今の事務所の部屋は6人と共有しているのですが、一人が妊娠中、一人の奥さんが妊娠中、先週一人の奥さんが出産、一人が今年結婚、一人が妊活中、そして私、という状況です。家族と仕事を両立するのは楽なことではありませんが、それが「当たり前」にできるように周りがバックアップしていかなければなりません。確かに職員が一時的に長い休みはとりますが、育休は決して会社側に「損失」なことではないのです。長い目でみて職員を大切にすることで職員の仕事の士気もあがりますし、家族を大切にする時間をきちんととることで、私たちも仕事により集中できる生活環境ができます。
女性が活躍しやすい背景には、国際機関の柔軟かつ徹底した人権意識、ジェンダーの理解と共に、西アフリカならではの”inclusive”(周りの人をいろいろ巻き込む)なカルチャーのおかげもあると思います。
子どもが休みの時など、預ける場所がなくて一時的に事務所に連れてきたり(空いている会議室で子供が本を読んでいたり、塗り絵していたり)することもありますし、出張の時に会議に子連れできた省庁のスタッフの赤ちゃんをみんながかわりばんこで抱っこしながら、話し合いが進められたときもありました。「職場に子どもを連れてくるなんて」という意見もありますし、確かに子連れの職員みんなが子どもを連れてきたら仕事になりませんけれど、それは状況に応じて柔軟に対応する、のが成熟した社会のあり方かなと思います。
出張の直前にベビーシッターさんが病気になって困っている時に、「うちの子と一緒に面倒みてあげるわよ」と1週間娘を預かってくれたワーキングママの友達や、休みの時に連れ出してくれる周りの友人や大人たちの存在もなくては、私の子育ては語れません。
子どもと母親を社会から切り離してしまわない、多くの人を巻き込んでみんなで育ててもらう、そんなアフリカンスタイルに私も大いに助けられています。