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国境で泣き叫ぶ少女 アメリカの世論を動かした1枚

世界報道写真展から――その瞬間、私は
ジョン・ムーア撮影(GettyImages)

中米ホンジュラスから米国をめざし、メキシコから川をいかだで渡ってきたサンドラ・サンチェスが、米テキサス州で米国境監視員に拘束されたのは昨年6月のことだ。まもなく2歳になる娘のヤネラはそばで泣き叫んでいた。

「シャッターを押した瞬間、感情を揺さぶり、とても重要なシーンになると思った」。撮影したゲッティイメージズのカメラマン、ジョン・ムーア(51)はそう振り返る。国境監視員に密着していてシャッターチャンスを得た。この写真は2019年の大賞に選ばれた。

ジョン・ムーア(GettyImages)

ムーアが現場でサンドラに聞くと、メキシコ南部から移動を始めた移民集団(キャラバン)に約1カ月前に参加したと答えた。米国は昨年春、不法移民を例外なく拘束して刑事訴追する「ゼロトレランス(不寛容)」政策を始め、拘束された多くの親と子どもが引き離されていた。ムーアは、サンチェス親子を心配し、悲しく思った。その後、親子が引き離されなかったと知り、ほっとしたという。

写真では、ヤネラの服の赤、サンドラのジーンズの紺、隊員のゴム手袋の紫といった色彩が際立っている。さらに、ヤネラ以外の2人の表情を見せず、3人の手の表情と靴の配置で状況を示す。

この写真は、親子引き離し措置を停止に追い込んだ国民世論の追い風にもなった。ムーアは「フォトジャーナリズムの役割は、私たちの個人的な意見や感情を見る人に押しつけるのではなく、その瞬間を正確にとらえて伝えることだ」と政府への直接的な批判を避けた。一方で、「写真に力があり、政策についての議論が始まるなら、フォトジャーナリストとして喜ばしいことだ」と語った。

■移民親子引き離し措置

トランプ米大統領は、中南米から国境を越えてくる不法移民が、米国民の職を奪い治安を悪化させていると主張。政権は昨年4月、密入国した成人すべてを刑事訴追する「ゼロトレランス(不寛容)」政策を開始した。親が収監されると、訴追されない子は強制的に別の施設で保護されるため、2000人以上が親と引き離された。

密入国の意欲をそぐ狙いだったが、泣き叫ぶ子どもの姿が繰り返し報じられると、国内外で批判の声が上がった。トランプは世論を受けて方針転換を迫られ、昨年6月には親子を一緒に収容する大統領令に署名。カリフォルニア連邦地裁は引き離しをやめるよう仮差し止めを出し、引き離された子どもを親元に戻すよう命じた。

■「世界報道写真展2019」6月から写真展開催

今回から2019年の受賞作を紹介します。6月8日~8月4日の東京都写真美術館から各地で写真展を開催。7月13日から3日間、ワークショップも(詳細は美術館ウェブサイトで)。

■「世界報道写真展から」は月1回の連載です。次回は6月8日(土)配信予定です。