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世界が眼を向けない「最悪の人道危機」の一つが中南米に 逃げた先でも待つ過酷な生活

世界報道写真展から――その瞬間、私は 更新日: 公開日:
Photo: Nicolò Filippo Rosso

ベネズエラから徒歩でアマゾンの大密林を抜けてコロンビアまで逃げてきた家族の所持品は、ごくわずかだった。政治・経済危機が深まるベネズエラから逃れる人が後を絶たない。そのルートには密林や山脈、砂漠など厳しい自然環境が広がり、「把握できないほど多くの人が命を落としている」。2018年からコロンビアに滞在し取材しているイタリア人報道写真家のニコロ・フィリッポ・ロッソ(35)は、問題の深刻さを訴える。

コロンビア、ベネズエラ両政府の政治対立もあり、たびたび閉鎖される国境には武装兵が立っている。それゆえ過酷なルートによる不法入国となるが、仲介するのはゲリラや麻薬密売組織など。だまされて性被害を受けたり、人身売買に巻き込まれたりする危険が常に伴う。

当初コロンビアの人たちは同情し、支援する住民も複数いた。それが新型コロナウイルスの感染拡大で一変。集団になりがちで対策も難しい避難民たちを危険視する傾向が国全体で強まった。公式な支援施設はほとんどない。非公式な居住区が点々とあり、栄養失調が常態化。生まれた子どもは無国籍になる。

「最悪の人道危機の一つだが、世界の関心はなかなか集まらない。写真報道で事態が好転するとは思わないが、期待はある」とロッソ。避難民の苦しみを伝わりやすくするため、モノクロ写真にして色の情報量を絞り、表情などに視点が集まるよう工夫した。「先進国の暮らしからは想像できない地獄。我々は恵まれていると日本の人にも気づいてもらうことはできると思う。そこから何かが始まるかもしれない」。問題が解決するまで、コロンビアを離れる予定はないという。

■総人口の16%が出国

ベネズエラでは、独善的な政権による政治混乱とハイパーインフレーションによる経済危機などで国民生活が困窮。国連の統計では、2015年末以降、500万人以上が出国した。14年当時の総人口の約16%にあたる大規模な国民流出だ。多くは隣国へ逃げ、最も多いのはコロンビアの160万人以上。ただ、正確な人数の把握はできておらず、実際の流出規模はさらに大きいと推測される。

まずは富裕層が逃げ、中間層、貧困層へと広がった。紛争が原因ではなく、生活苦からの脱出として、入国先の政府に「難民」と見なされにくい現状がある。日本は支援施設建設の資金提供などをしている。(山本大輔)