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800万人が不法就労するアメリカ それが容易には変わらない理由

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
ニュージャージー州ベッドミンスターにあるトランプ・ナショナル・ゴルフクラブ。ここで働いていた4人の従業員が不法移民であると名乗り出た=2018年11月2日、Christopher Gregory/©2018 The New York Times

彼らは全米のどこの宿でも寝泊まりする。フロリダでオレンジを摘み、カリフォルニアでイチゴを、オハイオでは野菜を収穫する。そうしてフェニックス(アリゾナ州)で、アトランタ(ジョージア州)で、シャーロット(ノースカロライナ州)で、あっというまに小さな集団を地域に形成してみせる。彼らとは、いわゆる不法就労者たちだ。

米国ではここ数年、為政者たちが不法労働者の流入を断ち切ることについて論議している。だが、米国経済は不法就労者に頼って成長してきたのだ。不法労働者の問題に取り組んできた研究者の多くは、不法移民を断ち切れば、米国人労働者が失業し、会社が倒産して、経済が縮小することになりかねない、と言う。

国境の治安対策は、最近特に強まっている。一方で、経済は強く、失業率は下がっている。雇用側、特に低賃金労働者を必要とする雇用主たちは、労働許可証を持たない労働者を雇うしか選択肢はない、と口にしている。

国境管理の徹底と経済の繁栄。その両方のバランスをどうとるか。大統領ドナルド・トランプは追い詰められている。

大統領は、不法移民を阻止するために国境の壁を建設すると約束、米国内の不法移民を摘発し、締め出している。政府当局は労働者の給与監査まで実施し、職場に踏み込んで不法就労者を摘発している。その結果、数千人の労働者が逮捕された。

そんな折、ニュージャージー州ベッドミンスターにあるトランプ・ナショナル・ゴルフクラブで働いていた4人の不法就労者が名乗り出た。E-Verify(訳注=就労資格を確認するオンラインシステム)のデータベースによると、トランプ一族が経営するトランプ・オーガニゼーションは、所有する他の関連施設や会社で、厳しい雇用手続きを実施していないと指摘する。その分、不法就労者を雇う機会も多いとみられる。

ニューヨーク・タイムズのインタビューに応じたトランプ・ナショナル・ゴルフクラブの元従業員は、他の不法就労者と同様、偽の社会保障証とグリーンカード(永住ビザ)を使って就職したと証言した。

トランプ・オーガニゼーションは、従業員名簿を調べて不法就労者であることが分かれば解雇すると約束した。解雇された不法就労者がその後どうなるのかははっきりしないが、明らかなことが一つある。失業率が全国平均で3・7%と極めて低い水準にある中で、トランプのゴルフ場は、解雇した不法就労者に代わる働き手を探さなければならないことだ。

■労働力としての不法移民

いま、米国には1100万人近い移民が不法滞在している。そのうちの約800万人が就労している。不法滞在者数ではピークだった07年の1220万人に比べて下がった。しかし、ピュー研究所(米シンクタンク)によると、米国内の全労働者の約5%を不法就労者が占めている。

「米国経済はこうした労働力を吸収している。今日の低失業率を考えれば、雇用者側はもっと必要だろう」。ノースフロリダ大学の経済学者で移民経済の専門家のマデリン・ザボドニーはそう語った。

不法移民は農業、建設、育児といった職場にあふれている。こうした職種を正規の米国人労働者で満たすのは、雇用者側にとって難しい。

メキシコからの不法移民の一人、アナベレ・ガルシア(39)はカリフォルニア州ソノマ郡のブドウ園で働いている。時給約15ドル。ブドウの収穫シーズンが終わると、彼女は家の清掃人の仕事やワイン醸造所での仕事を見つけて働く。こちらは時給約20ドルになる。夫のホルヘ・ロメロは近くにある牛の牧場で働いている。

「どんな仕事でもいい。私たちは働くためにここにいる」とガルシア。「ブドウ園にはアメリカ人労働者なんていない」と言った。

■賃上げは特効薬か

もしすべての不法移民を追い出したらどうなるか?

移民の制限を支持するCenter for Immigration Studies(移民研究センター)の調査部長スティーブ・カマロタは、移民を減らせば労働者の賃金が上がり、慢性的な米国人失業者の就職意欲が高まる、と考えている。

しかし、賃上げは肝心要の問題ではない、という経済学者もいる。なぜなら喜んで肉体労働をする米国人労働者はそれほど多くないからだ。

その一人、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ラスキン公共政策大学院の労働経済学者、クリス・ティリーは、労働市場では将来性と地位が大きな役割を果たすとして、「誰もがよろこんで汚れ仕事をするわけではない」と語った。

働き手としては屋根をふく仕事より、低賃金でもアマゾン(Amazon)の配送センター内で働く方を好むといえるだろう。

17年末に行われた全米建設業連合の調査によると、建設会社の70%で屋根職人、れんが職人、電気工事士の職種が特に不足しているという。一方、18年10月の報道によると、宿泊・フードサービス部門で記録的な欠員が生じている。

サンフランシスコ市内の建設現場で働く労働者。トランプ政権はこうした不法就労者の流入を一掃すると約束したが、一方で米国経済は彼らへの依存を高めている=2015年3月10日、Jason Henry/©2018 The New York Times

■国境封鎖と経済沈下

歴史的に、移民の主要流入地であるメキシコ国境の管理はこれまで「常に経済的必要性によって運営されてきた」とティリーは言った。だが、トランプ政権は不法な越境をあらゆる手段で制限しており、今や経済的必要性という要因も消えつつある。

カリフォルニア大学デービス校で移民労働を研究している経済学者のジョバンニ・ペリは、不法移民を本当に遮断すれば、米国経済は縮小すると断言した。移民を遮断すると、移民問題だけでは済まなくなるだろう。なぜなら、多くの米国人が働いている職種は移民によって支えられているからだ、とペリは言う。

「たとえば建設業、農業、住宅産業、個人営業といった部門は、劇的に縮小するだろう」とペリ。「廃業したり移転したりする会社が続出するだろう。失職する者も出てくる。人口の半数が消える市や町も出てくるだろう」と言った。

「それは間違いなく景気後退の引き金になる」。彼はそう言った。

■農業、建設業、サービス業への打撃

農業分野では、働き手不足を補うために機械化が進み、ロボットへの投資が行われている。カリフォルニア州サリナスバレーのレタス畑では、これまで人手を使って一つ一つ収穫していたが、最新の機械の登場で自動化され、ロメインレタスが次々と積み上がっている。

それでも、アメリカ農業連合会(訳注=米国最大の農業団体、通称Farm Bureau)によると、全国にある畑作の半分以上は不法就労者が担っている。それが突然いなくなったら、米国農業は壊滅的な打撃を受けるだろうと同連合会はいう。

一方、米国勢調査局のデータ(16年の推定値)では、すべての不法移民の約31%がサービス業で働いていた。

農業、漁業、林業に従事する労働者の約24%は不法移民。135万人と最も多い不法移民を使っている建設業でも全体の15%を占めている。

また、米労働統計局のデータを元にした全米レストラン協会の資料によると、16年にレストランで働いていた従業員のほぼ25%が外国生まれで、全部門平均の18%を超えていた。

園芸業界を代表する AmericanHort(アメリカンホート)の業界支援・研究担当上級副社長のCraig Regelbruggeは「こうした労働者は長期間働いていて、職に熟練しているケースが多い」と述べるとともに「農業、ビジネス、それに地方経済にとって欠かせない存在だ」と言明した。

「彼ら(不法就労者)の労働は、一方で周辺に二つも三つも関連の仕事を派生させる経済効果をもたらしている。園芸業界や農場での仕事を探す米国人がわずかしかいなくても、多くの米国人が働く職場と自治体は、彼らに支えられているのだ」。Regelbruggeはそう語っている。(抄訳)

(Miriam Jordan)©2018 The New York Times

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