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ギャングに追われて北を目指す移民たち 中米の小国、殺人発生率は「世界最悪」

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「野獣」と呼ばれる貨物列車に乗る移民たち=メキシコ中部コルドバ近郊 photo: Murayama Yusuke

©Kimura Design Office

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「ラ・ベスティア」。移民たちに国を出てから米南部を目指す交通手段を尋ねると、多くがスペイン語で、こう口にした。英語で「the beast」(「野獣」の意)。メキシコを縦断する貨物列車の異名だという。 座席があるわけではなく、移民は屋根に乗ったり、はしごにしがみついたりして北を目指す。

沿線には移民を支える施設が点在するが、移民を狙う犯罪者も潜んでいるという。とりわけホンジュラスから来た青年(21)の話は強烈だった。「列車の上で2回襲撃に遭った。誘拐されて、全財産を奪われた」 列車の上に飛び乗る?そこで襲われる?

にわかには信じられなかったが、調べてみると、移民たちの典型的な旅路だと分かった。「トランプの壁」から半年がたった2018年1月、私はこの「野獣」という名の列車の道のりをさかのぼり、米国に向かう移民たちのふるさとを目指す取材を始めた。

中米から北米を目指す移民が飛び乗る「野獣」と呼ばれる貨物列車のルート

国境の川沿いにある米南部テキサス州マッカレン。バスターミナルに大型バス2台が止まると、次々と移民たちが降りてきた。警備員に促されて整列する姿を見て、言葉を失った。

小学生くらいの子どもだらけなのだ。

長い旅路を終えて支援施設で休む移民家族=米マッカレン

親たちが口をそろえたのは、中米エルサルバドルを根城に広がった「マラス」と呼ばれる青少年ギャングの存在だ。多くは命を追われて、野獣やバス、ときには徒歩で逃避行をしていたのだった。

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Photo: Salvador MELENDEZ

私はメキシコ中部コルドバ郊外の線路脇にある移民支援施設に泊まり、列車を待った。到着の知らせを聞いてトラックで駆けつけると、さびが目立つ武骨な貨車が連なっていた。屋根や床に腰掛けていた「乗客」十数人が一斉に駆け寄る。数分後、「フォーン、フォーン」という汽笛と、車輪が線路とこすれる金切り音を上げて列車は動き出した。

転落、強盗、誘拐……。移民たちが語るその道中は、危険に満ちていた。支援施設の壁には、列車の路線図に「襲撃」を警告する銃などのマークがあちこちに記されていた。国際NGO「国境なき医師団」(MSF)の15年の調査では、移民の68%が途上で何らかの暴力にあったと答えていた。まさに「見捨てられた人道危機」(MSF)だった。

中米から北米を目指す移民が飛び乗る「野獣」と呼ばれる貨物列車のルート

多くの移民を送り出すエルサルバドルの首都サンサルバドルに着くと、バスの車窓に噴水のあるショッピングモールが見えた。だが、高級住宅街の脇には貧しい家屋が並び、トタンを重ねたスラムが広がる。極端な格差が交錯していた。

エルサルバドルの10万人当たりの殺人発生率は15年、16年と2年連続で世界最悪を記録していた。人口600万余の小国で連日、十数人が殺されている計算だ。1992年までの内戦では約7万5千人が犠牲になったが、ネットメディア編集長は現状を「新たな内戦状態」と重ね合わせた。

警官1人、ギャング2人が死亡した銃撃戦の現場周辺=サンサルバドル photo: Murayama Yusuke

移民の出身地はマラスの勢力が強い地域と重なっていた。二つを結ぶのは「貧困」だ。製造業は育たず、農業は衰退した。雇用を求めてヒトは列車で米国に向かった。そして家族の分断が進んだ。

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いったい、どこから手をつけたらいいのか。即効薬は見当たらず、途方に暮れた。山奥の貧しい村で出会った一人の主婦が私に考えるヒントを教えてくれた。

子どもに手洗いや水浴びを徹底させる。床をまめに掃除する。近所の人同士が集まる「生活改善サークル」に参加し、自ら宣言した「夢」を一つずつ実現し、自信がついた。「支援がないと何もできないとか、自分を貧しいと思うことが、貧困を生んでいたんです」

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日本から学んだ生活改善の活動に取り組むエルサルバドルの人たち=中部サンハシント村

他人に頼らず、いまあるものを生かしながら、自分の手で、できることを実践する。遠回りかもしれないが、その積み重ねが一人一人の生活や家族、やがては共同体や国の再生につながっていくのではないか。移民たちのふるさとで、私はそう確信した。

この取材から8カ月後、警察やギャングを恐れ、人目を避けて身を潜める「伏流水」だった移民の流れが、突然、堂々とした「大河」に変貌した。数千人規模のキャラバンを組んで米国境に迫り、中間選挙を前にした米大統領のトランプが「侵略者だ」と非難したことで世界中のメディアの注目が集まった。「エクソダス」(集団脱出)と呼ばれたこの現象はなんなのか、私はうまくのみ込めなかった。どうしても自分の目で見たい。そう思っていると、SNSで出回る新たなキャラバンの編成を告げる画像が目に留まった。

「2月16日ターミナル 午後11時」 私は半信半疑のまま、集合場所に向かった。(つづく)

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