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「外国人入居お断り」 外国人労働者受け入れ拡大の陰で、今も日本に残る壁

芝園日記
芝園団地のゴミ置き場には、日本語、中国語、英語の表記がみえる Photo: Ikenaga Makiko

■「妻が外国人で」と切り出すと「申し訳ありません」

ああ、いまでもあるんだなあ。「外国人不可」。

最近、都内の不動産業者の男性に話を聞いたとき、見せてもらった物件資料にあった言葉だ。いまも「外国人不可」という賃貸物件は多いと聞き、かつて何度も、入居を断られたことを思い出した。

私は1990年代から2000年代の10年間、外国人の配偶者と日本で暮らした。いまは別れて別々の国で暮らしているが、当時、日本に住む外国人がどんな体験をするか、家族の一員として日本社会の現実を垣間見た。

直面した一つが、部屋を借りるという「壁」だ。

結婚前、東京に住んだ彼女の部屋探しを手伝った経験から、外国人が部屋を借りることの難しさはわかっていた。当時、外国人可のアパートを留学生に紹介する公的な斡旋所のようなものが四谷にあって、そこで西武新宿線沿線のアパートの一室を借りられた。

結婚してからは、契約するのは自分なので苦労はないだろうと思っていた。ところが、甘かった。

いざ契約という段階で、念のために「妻は外国人なんですが……」と切り出すと、相手は表情を変えて家主や管理会社に電話をし、結局「申し訳ありませんが…」と断られる。「契約するのは私ですよ」と言っても、相手は恐縮しながらも「申し訳ありません」と言うばかり。ほかの物件をあたっても、同じようなことが続いた。

その後も数回の引っ越しをしたが、途中からは、あらかじめ「妻は外国人です」と伝えることにした。どうしても選択肢は狭まり、「外国人不可」の壁にぶつからずに第一希望の物件に入居できたことはなかった。

不動産業者だけを責めることもできない。「外国人お断り」は家主の意向であり、そのさらに後ろには、外国人が同じ建物に住むことを望まない、ほかの入居者の意向も影響しているのかもしれない。

芝園団地の向かいにあるハラル食材の店。芝園団地がある川口市や隣の蕨市には、中国人以外にも多くの外国人が住む=埼玉県蕨市、大島隆撮影

こんなこともあった。

取材相手と話していると、たまたま同じマンションに住んでいることがわかった。分譲マンションだが、私たちはオーナーが貸し出している物件に住んでいた。

「いま町内会の役員をやっていて、それで私に言ってきた人がいるんだけど……」。男性は、「まいったなあ」という表情を浮かべながら続けた。「最近うちのマンションに、ベトナム人が引っ越してきたらしいんだよ」

「それはうちですよ。妻がベトナム生まれのアメリカ人なんです」。答えながら、表情がこわばっているのが自分でもわかった。私も気まずかったが、相手はもっと気まずい思いをしたのだろう。何度も謝って、その場を去っていった。

■日本社会のゆがみが生み出した

私がこうした体験をした90年代は、ちょうど芝園団地に外国人が住み始めた時期と重なる。URは当時、一定の条件さえ満たせば外国人でも入居できる、数少ない賃貸住宅だった。

団地群の中を歩く子供たち=池永牧子撮影

URの前身である日本住宅公団の賃貸住宅には、もともと日本人しか入居できなかった。だが、1980年には永住資格を持つ外国人が、1992年からは中長期の在留資格を持つ外国人も入居できるようになった。しかもURの場合は、一定以上の収入があることが入居の条件だが、外国人にとって大きな壁となる保証人が必要ない。都心に近く、家賃もそれほど高くなく、外国人でも入居できる。働く外国人にとっては好都合だった。

「外国人、特に日本に来たばかりの人にとっては、民間の賃貸物件を借りるのは難しかった」。10年以上前から芝園団地に住んでいた知人の中国人男性は、こう振り返る。

いま、芝園団地に住む中国人住民の多くは、中国人コミュニティがあることに魅力を感じて引っ越してきた人たちだ。「中国の店が多くて生活しやすい」「中国人が多く、日本語が不得手な家族も安心するから」といった答えが返ってくる。中国人コミュニティができたことが、さらに新たな中国人を引き寄せている構図だ。

私たちはつい、こうした外国人の集住地域について、「いつの間にか外国人が集まって住むようになった」と考えがちだ。たがその源流は、外国人に対する入居差別という、日本社会の歪みが作り出したものとも言える。外国人の側からすれば、入居できる場所が限られていたことが、結果的にコミュニティの形成につながったことになる。

■4割が「外国人理由に断られた」経験

芝園団地は、団地以外でも外国人が多く住むところだ。このあたりのいまの賃貸事情はどうなのだろう。団地のすぐ近くで11月から営業を始めた不動産店を訪れてみた。

芝園団地の最寄り駅、JR蕨駅前。京浜東北線で団地から東京駅まで一時間足らずで着く=大島隆撮影

「外国人のお客様が多いとは予想していましたが、思った以上です」。応対してくれた楽市不動産の岡野純子社長は、いまのところ来店する客の多くが外国人だと教えてくれた。

外国人不可という物件については、「昔よりは減りましたが、いまでも外国人はとにかく不可という物件が6割くらいでしょうか。日本人の保証人がいれば可とか、日本語のレベルや国籍によってはOKという大家さんもいらっしゃいます」という。

法務省が2017年に公表した「外国人住民調査報告書」によると、日本で住まいを探したことのある外国人約2000人のうち、約4割にあたる39.3%が「外国人であることを理由に入居を断られた経験がある」と答えている。「『外国人お断り』と書かれた物件を見たのであきらめた」という回答は26.8%、「日本人の保証人がいないことを理由に入居を断られた」が41.2%だった。「外国人不可」の壁はなお存在するのだ。

この不動産店には、賃貸ではなく持ち家を探してやってくる外国人もいて、住宅ローンの紹介もしているという。「永住者なら大手銀行で日本人とほぼ同じ条件で住宅ローンを借りられます。永住権がない方の場合だと、勤続年数とか頭金の額といった条件によります」という。確かに私が知る範囲でも、団地にしばらく住んだ後、マンションを買うという話はよく耳にする。団地の郵便受けには、毎日のようにマンションの広告が入っている。

住まいを購入するのは、子供が小学校に入学する時期が、一つのタイミングのようだ。岡野さんは「中国人のお客様の場合、子供の教育環境を重視する方が多いですね」と話した。まさに「孟母三遷」だ。

芝園団地から蕨駅へ向かう途中の路上に置かれた、中国人向け住宅ローンの広告=大島隆撮影

米国では教育熱心過ぎる?アジア系の親を指す「タイガー・マザー」という言葉があるが、確かにここでも教育熱心な親は多い。私も「子供をSAPIXに行かせたいが、何歳からどんな準備をすればいいか」といった相談を受けることがある。

ちなみに最近は、子供が小学校に上がるタイミングで、一家で中国に帰国する家族もいるという。複数の中国人住民から聞いた話だ。中国都市部と日本の賃金格差が少なくなったという収入事情に加え、中国の厳しい受験戦争を勝ち抜くには、小学校高学年や中学校になってから帰国してもついていけないのだという。

団地から駅に向かう道沿いには最近、中国人向けの住宅ローンの広告看板が置かれている。日本に根を下ろす人、帰国する人。この団地の10年後はどうなっているだろうか、と道すがら思う。

 

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