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日本はもう、中国の都会っ子には選ばれない国なのか 気になるデータ

芝園日記
芝園団地で開かれた太極拳の体験イベント。大学生の団体「芝園かけはしプロジェクト」が中心になって開いた=2018年6月、埼玉県川口市、大島隆撮影

前回、団地に住む友人に誘われ、中国人のIT技術者たちの社員旅行に同行させてもらった話を書いた。

【合わせて読む】中国人の社員旅行に参加した 初めて分かった「彼らが日本人から受ける視線」

この友人、王世恒さんは、IT技術者として来日して働いていたが、自分で技術者を派遣する会社を立ち上げた。

「仕事はたくさんあります」という王さんは、いつ会っても忙しそうだ。一緒に食事をしている間もスマホの画面をのぞいて、メッセージが来ると返事をしている。

急成長している分、人手の確保には苦労しているようだ。王さんの会社の営業担当の社員によると、仕事が多い時期は、採用が決まると、その日のうちに派遣先の企業に連れて行くこともあるという。
この王さんがある日、一緒に食事をしているときに気になることを口にした。

「都会の若者はもう日本には来ませんよ」

どういうことか聞いてみると、中国の大都市では日本との賃金の格差が縮まっており、わざわざ日本に来て働くことの魅力が薄れているのだという。

芝園団地

最初にこの話を聞いたとき、本当だろうかと思った。芝園団地の中は、右を見ても左を見ても中国人の若者で、日本人の若者をほとんど見かけないくらいだからだ。

芝園団地では、1990年代から外国人住民が増え続けてきた。芝園団地がある埼玉県川口市芝園町の住民は、2015年秋に日本人住民と外国人住民の数が逆転した。芝園町はその大半を芝園団地が占めているため、団地の住民構成の変化を反映したものと言える。

団地ではいまも増え続ける中国人住民だが、「都会からは来ない」という王さんと同じような話は、別の団地住民からも聞いたことがあった。また、日本で働いていて子供がいる家庭の中には、子供の教育のことも考えて、賃金の格差がそれほどなくなったのなら中国に戻ろうと決める人もいるという。

芝園団地内にある商店街の広場で遊ぶ中国人の親子

言われてみれば確かに、北京や上海といった大都会から来たという中国人住民に会うことは少ない。団地の日本語教室で出会うIT技術者たちの多くは、遼寧省、吉林省、黒竜江省という東北三省の出身者が多い。都市でいえば、瀋陽や大連、ハルビンといったところだ。

上海のような大都市からやってきた人も何人か会ったことはある。ただいずれも、賃金というよりも日本自体に魅力を感じてやってきたという理由だった。

たとえば、日本語教室で会った羅仲寅さん。上海の会社で働いているときに日本企業の仕事を請け負っており、そのときの仕事でのやりとりで日本に好印象を持ったという。羅さんは、「給料は日本と同じくらい。家賃は上海の方が高いけど、食べ物は日本の方が高いですね」と話す。

同じく日本語教室で会った、重慶市からやってきたIT技術者の男性は「私は中国のオタクです」と自己紹介した。「日本のアニメやゲームが好きで、日本に来ることが夢だった」と日本にやってきた理由を話してくれた。

■増加ペースが鈍る「技人国ビザ」の発給件数

彼らIT技術者の多くは、中国の大学で理系の学部を卒業して実務経験を積んでから、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格で日本にやってくる。かつては「技術」と「人文知識・国際業務」という二つの在留資格だったが、2015年度から統合された。頭文字を取って、「技人国(ぎじんこく)」という略称で呼ばれることもある。

私は芝園団地に引っ越してくる前、団地に住む大勢の中国人がどういう在留資格で住んでいるのか、不思議に思っていた。日本で働くビザが、それほど簡単に出るとは思えなかったからだ。

ところが、王さんに聞くと、「ビザはそれほど難しくないですよ。いまはITの仕事は人手不足ですからね」という。ほかの中国人のIT技術者たちに聞いても「ビザはそれほど大変ではなかった」と口をそろえる。

政府の統計を調べてみると、この「技人国」の在留資格で日本に住んでいる外国人の数には、王さんの話を裏付けるような、ある傾向がみられた。

中国人の増加ペースが鈍る一方で、ほかの外国人が増えているのだ。

2018年の時点で最も多いのは中国人の約8万人だ。だが、5年前と比較した増加の割合は1.5倍。これは「技人国」ビザで働く外国人数の上位10か国・地域の中で、イギリス、米国に次ぐ低い伸びだ。この結果、「技人国」全体の増加と比べると、中国人の増加のペースは鈍いものとなっている。

中国人の増加のペースが鈍る一方で、増加が著しいのがベトナム人の技術者らだ。

「技人国」ビザで滞在する人数は中国に次ぐ2位で、5年前と比べると6倍に増えている。毎年のビザ発給件数をみると、中国人への発給は2008年のリーマン・ショックを機に大きく減少。その後回復傾向にあるものの、ベトナム人はそれを上回るペースで急増している。このままのペースで行くと、年ごとの発給件数で中国を上回るのも時間の問題だ。

こうした背景には、低い水準のまま上がらない、日本の賃金構造がある。

もともと中国人のIT技術者が日本で働くようになったのは、日本人だけでは人手が足りないからだ。だが、その中国人のIT技術者も以前のような勢いでは増えず、代わりにベトナム人などで補っているという構図だ。これは、かつては中国人が大半だったがいまでは減り、代わりにベトナム人が最多となっている、技能実習生にも似たような流れだ。

10月にあった芝園団地の防災訓練。中国人住民も参加した

芝園団地でも、やがて中国人が減っていき、ベトナム人が増えるときが来るかもしれない。だが、ベトナムも成長して賃金水準が上がれば、日本は「魅力ある国」ではなくなっていく。さらに賃金水準が低い国、その国も来なくなったら別の国…と続けても、いつかは行き詰まる。

これまで「受け入れるべきかどうか」という視点で外国人労働者をめぐる問題を考えてきた日本は、いまようやく「そもそも来てくれるのかどうか」に気づきつつある。

働きやすい環境や生活支援、社会の一員として受け入れる私たち日本人側の意識、そして賃金。課題は多い。

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■朝日新聞日曜別刷り「GLOBE」の記事やウェブメディア「GLOBE+」での連載「芝園日記」をもとにした新刊『芝園団地に住んでいます』(明石書店)が出版されました。本記事は書籍の内容の一部に加筆し、再構成したものです。