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中国人の社員旅行に参加した 初めて分かった「彼らが日本人から受ける視線」

芝園日記
ワイナリーを訪れた社員旅行の参加者たち

「大島さん、社員旅行に一緒に行きませんか?」

ある日、団地に住む友人の王世恒さんから電話があった。王さんはIT技術者として働いていたが、数年前に中国人のIT技術者を派遣する企業を立ち上げた。その社員旅行に一緒に行かないかというのだ。

聞けば、バスを借り切って伊豆に行くのだという。中国人の社員旅行に参加できるとはめったにない機会だ。二つ返事で「行きます!」と伝えた。

夏の終わりの旅行当日、集合場所の東京駅前には社員とその家族合わせて約80人が集まった。そのうち何組かは、王さんと同じく芝園団地に住む社員だ。参加者のうち、日本人は私ともう一人の王さんの友人、そして王さんの会社で働く日本人の営業担当社員の3人だけだ。

日本では社員旅行をする会社は減ったが、中国人の会社ではそうでもないらしい。「社員旅行で温泉やスキーに行った」という話は、私がボランティアをしている芝園日本語教室でも耳にする話だ。個人で旅行を企画するのは大変だから、会社が企画する社員旅行は、日本国内を旅するいい機会になるのかもしれない。

全員がそろったのを確認してから、大型バス2台に分乗して、伊東の温泉旅館に向けて出発した。

伊豆市のワイナリーでは、ワインの試飲や買い物をしたり、記念撮影をしたりして過ごした

全体の旅程を管理して案内役を務めるのは、会社の事務を担当する女性社員だ。名前からてっきり中国人社員かと思っていたら韓国人で、車内のアナウンスも「私は中国語は話せませんので、わからない人がいたら近くにいる人が通訳をしてあげてください」と最初に断って、すべて日本語で通していた。

社員は20代から30代と皆若く、日本語は日常会話程度なら不自由しない人が多い。日程も、典型的な日本の社員旅行とほとんど同じだった。ホテルにチェックインした後は、海水浴に行ったり海辺を散策したり。全員がそろった夕食では酒も出たが、中国人は日本人ほど酒を飲まない。一人だけ、社員の父親で60代の男性が、中国の蒸留酒「白酒」を持ち込んで「飲むか?」と皆に勧めていたが、若い社員たちはビールに口をつける程度で、断っていた。

夕食の後は、ボウリングや卓球を楽しみ、最後は皆でカラオケボックスへ。

中国語の歌もそろっている店だったが、若い男女が歌う曲は、日本語と中国語が半々くらい。大黒摩季の歌や「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニング曲「残酷な天使のテーゼ」など、私が知っている歌もあったが、多くの日本語の曲は、彼らと世代が違う自分にはわからない歌だった。

私の隣では、白酒を飲んでほろ酔い気分になったくだんの男性が、「日本と中国は、昔はいろいろあったが、俺とお前は友達だ!」などと語りかけてきた。

男性は私に気を使って「一緒に歌おう」と「北国の春」を入れてくれた。この曲はかつて中国でもカバー曲が大ヒットし、もっとも有名な日本の歌の一つだった。ただ、今どきの若者にはピンとこないらしい。若者同士で盛り上がっているところに突然演歌を歌う中高年2人が割り込んできたような、微妙な空気になってしまった。

大声で「座ってください!」

とはいえ、社員旅行は楽しく、内容も盛り沢山だった。そして、私がこの2日間の旅行でもっとも興味深かったのは、中国人社員たちのふるまいではなく、行く先々の日本人従業員の、中国人団体客に対する態度だった。

海水浴のシーズンは終わっていたが、浜辺で子供たちを遊ばせる人たちもいた

伊豆半島をバスで移動している途中、ビュッフェスタイルの団体客向けレストランで、昼食を取ったときのことだ。

「最初に説明をするので、座ってください!」

びっくりするような大きな声で、案内する店員が声を張り上げた。皆が食事を取りに行く前に、食べ放題のシステムを先に説明しておくためだ。

私たちは皆案内されたテーブルにいて、別に誰かが先に食事を取りに行こうとしていたわけではなかった。それなのに、その男性従業員は呼びかけているというよりも、注意をしているような表情と口調だった。

移動のバスの中では、小さな子供が座席を離れて通路を歩いたときがあった。すると運転手は子供を座らせておくよう注意をしたうえで、真ん中あたりの座席にいた私にまで聞こえるような声で「運転中に子供が歩くとか、ありえないですから!」といらだった口調で言った。もし日本人の団体客だったら、同じことが起きたときに、こんな口の利き方をするだろうか。

行く先々すべてではないが、こうしたことが何度かあった。最初から「トラブルを起こしそうな団体客」として扱われているような気配を感じるのだ。

伊豆は観光地なので、中国からの団体旅行客も大勢やって来る。習慣が違ううえ、外国旅行に慣れていない団体旅行客との間で何かトラブルがあり、そうした積み重ねがこうした対応につながった可能性はある。団体客を受け入れる日本人の従業員からすれば、私たちも中国から来た団体旅行客と同じ「中国人の団体客」だったのかもしれない。

ただ、私たちのグループの中国人は、大半がすでに何年も日本に住み、カラオケで普通に日本語で歌うような若者たちなのだ。実際、2日間の旅行の間、日本のルールやマナーを逸脱したような行動は目にしなかった。ボウリング場では、ガター(レーン横の溝)に落ちて止まったボールを動かそうとしてレーンに入ったときに、「入らないでください!」と注意されたが、知らずに入ってしまったのは、私ともう一人の日本人男性だった。

ひとくくりにされたくない

王さんは以前、団地に住む日本人住民と中国人住民の関係について、こんな話をしたことがあった。

「ごみのことや騒音のことで、私たち中国人に悪い印象を持っている人がいますね。でも、日本に来たばかりの人はごみの捨て方に問題があるかもしれないけど、ずっと住んでいる中国人はちゃんとやっていますよ」

同じような訴えは、ほかの中国人住民からも聞いたことはあった。確かに、思い当たる節はあった。

日本に住む中国人は多様になっている。だが、日本人の側はいまだに「中国人」とひとくくりにしがちだ。芝園団地にも、一口に中国人住民といっても、実際には様々な人たちが住んでいる。

団地で最も多いのは、IT技術者として働く独身の男女や若い夫婦だ。彼らの多くは中国の大学で理系の学部を卒業し、「技術・人文・国際業務」という在留資格で日本で暮らしている。彼らの中にも、来日して間もない人もいれば、何年も住んで日本での生活になじんだ住民もいる。

IT技術者以外にも、多様な人たちが住んでいる。孫の面倒を見るために短期滞在している高齢者もいれば、日本で育った子供が中国語よりも日本語が流暢になり、子供との日常の会話の中に自然に日本語が混じる家族もいる。

私にとってこの社員旅行は、「日本に住む中国人」を疑似体験することだった。

「中国人といっても色々。ひとくくりにしないでほしい」という中国人住民の気持ちが、実感を伴って理解できるようになったのは、この経験をしてからだ。



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