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移民受け入れ、日本には土壌がある 政治家が決断を

World Now 更新日: 公開日:

ジェームズ・ホリフィールド教授に聞く「移民問題を見るポイント」 移民政策なきまま、外国人の住民が増え続ける日本。「移民受け入れに向け、政治家が勇気ある決断をすべきだ」と、ジェームズ・ホリフィールド氏は呼びかける。アメリカのサザンメソジスト大教授で、人の移動に関する研究では草分けといえる存在だ。6月に来日した機会に、話を聞いた。(構成・中野渉)

――アメリカのトランプ大統領の移民に関する対応をどうみますか。

トランプ大統領は、古いアメリカを懐かしむナショナリズムに戻ろうとしています。その一つは移民排斥で、彼が掲げるアメリカ・ファーストの一つの側面です。また、もうひとつは国外取引の間に関税を設ける保護主義で、三つめは孤立主義です。

米ホワイトハウスに隣接する公園で6月、「トランプの憎悪に抵抗せよ」や「移民歓迎」といったプラカードを掲げ、トランプ米政権の移民政策に抗議する人たち=ランハム裕子撮影

トランプ氏は、国際主義・リベラルの正反対に位置しています。彼を支持するのは70代、80代の人たちが多く、若い世代とは意識の世代間格差があります。支持者たちは、強いアメリカ、多様性のないアメリカを望んでいるのです。

そしてトランプ氏は、社会を外に向けて開こうとしません。貿易や投資を慎重に統制したいと思っています。もし社会を開いたら経済統制ができなくなってしまうと考えており、外部の力が国を運命づけることを恐れるのです。

トランプ氏を支える与党・共和党内も割れています。だれがトランプ氏を大統領に選んだのかというと、共和党の本流の人たちではなく、元民主党支持者が多かったのです。自動車工場や鉄工所で働くブルーワーカーで、ペンシルベニアやミシガン、オハイオなどの各州のラストベルト(さびた工業地帯)の人たちの多くが支持をしました。

トランプ氏の政策の最も大きな象徴は「壁」です。メキシコとの間に壁をつくるというのは政治的シンボルで、ばかげた発想ですが。実際には、移民がもたらす問題について、アメリカはそれほど深刻ではないと言えるでしょう。エルサルバドル、ベネズエラ、グアテマラや、ハイチなどの中央アメリカから何百人もの移民が来ますが、ヨーロッパに比べればそんなに多数ではありません。

――ホリフィールドさんは、移民問題について「『経済(市場)』『人権』『治安』『文化』の四つの側面が複雑に絡み合ったゲーム」だとして、四角形の図を使って説明しています。これは、「移民の人権を守るべきだ」「いや、治安悪化が心配だ」などと議論がかみ合わなかった治安政策を整理する上で大きく役立ちました。

ホリフィールド教授がつくった「移民政策にかかわる4つの側面のゲーム」の図。左から時計回りに「市場(経済)」「治安」「人権」「文化」の4要素が絡み合う姿を示す

移民と市場について考えてみます。私たちは市場でシャツやスマホ、眼鏡などを買います。もしあなたがリベラルな社会で暮らしているなら、(市場で取引される)シャツに権利はありません。でも、(移民として移動する)人々には人権があります。

リベラルな社会では移民は複雑な問題です。移民はシャツとは違います。市場だけならシャツのステータスを気にしなくてもいいのですが、リベラルな社会では移民のステータスを決めなければけないのです。

政策がめざす目的と、実際に生まれる結果との間には大きなずれがあります。私はこれを「リベラル・パラドックス」「リベラル・ジレンマ」と呼んでいます。

たしかに移民に窓口を開けたら、国政に影響が出ると考えるかもしれません。だれが市民で、だれが外国人なのか、議論にもなるかもしれません。だからパラドックス、ジレンマが出てくるのです。「開かれた社会」を追い求めるほど、そのような社会を守るために国境を管理し、社会を閉じたものにしないといけなくなりますから。

カギとなるのは「人権」です。出稼ぎに来た人たちは母国には帰らず、結婚して子どもを産みます。移民問題をコントロールするために市場・経済を統制することに比べて人権は難しい問題です。人権とはすなわち自由のことです。

――日本は移民や難民の受け入れが進んでいないと指摘されます。ヨーロッパなどと比べてどうでしょうか。

日本と欧米とでは、移民を取り巻く状況が異なります。ヨーロッパは危機に直面しています。中東情勢は深刻で、アフリカからも人々が押し寄せ、紛争の絶えない南西アジアからも人々が来ます。ヨーロッパ諸国はそれらの国々のかつての宗主国でもあり、言語の結びつきもあるために、人々がヨーロッパを目指すのです。

一方、日本を考えると、移民を必要としているのは明らかです。グローバル経済に深く関わっていて、自由貿易と海外からの直接投資に頼っています。移民は多くの才能を持ち、勤勉で、起業家としての技術を持っています。また、労働力でもあり、高齢化に直面する日本は、移民を受け入れれば様々な問題を解決できます。

ジェームズ・ホリフィールド教授

日本は現在、移民を受け入れる姿勢をとってはいませんが、多様な文化を受け入れる土壌は備えています。これまでも、中国人や朝鮮半島の人たちを受け入れてきたのが、何よりの証拠です。日本が「単一文化の国」というのは神話に過ぎません。

日本はいま、新しい「明治時代」を迎えていると思います。明治維新で近代化が進み、社会を大きく変えたように、移民を受け入れる時代です。そのために、政治家には勇気ある決断が求められます。

◇James F. Hollifield  1954年生まれ。米サザンメソジスト大教授 専門は国際政治経済学、人の国際移動研究。移民研究で世界的に知られ、欧米各国政府や国連、世界銀行などの顧問を務める。2017年の朝日地球会議に登壇した。